第199話 吸血鬼狩り

いよいよ穴をの向こう、吸血鬼バンパイア領域エリアだ。


ここで一気に第三の泉へなだれ込む、なんてことはしない。

このパーティーのリーダーはハロルドさんだ。

まずは吸血鬼バンパイア狩りの練習からである。

この慎重な姿勢は僕も見習いたい。



抜け穴は相変わらず同じ場所にある。

ユーフェミアさんのアイテムボックスに、武器のたぐいは問題なく収納できた。


順番に抜け穴をくぐり、蟹歩きで壁の隙間を通り抜ける。


いざ吸血鬼バンパイア領域エリアへ!



イリークさんが明かりの魔術を使った。

照らし出されたのは、だだっ広く、その割に天井が低い長方形の部屋だ。

壁と床は石、天井も石、壁には浮き彫り。中央に柱が2本。


こんな風になっていたのか。

奥には扉が見える。


部屋の中に蠢く吸血鬼バンパイアは、12匹。

かろうじてボロを纏っている者、ほとんど全裸の者。

吸血鬼バンパイアになってから長いのだろう。

赤い目を光らせながら、近寄って来た。



「まずは一匹!」

ハロルドさんが号令をかけた。



「聖槍」

ユーフェミアさんが攻撃魔術を放つ。

ちょっとタイミングが早いか?


吸血鬼は避けようとするが避けきれない。

左腕が灰になった。


ネイサンさんとチェイスのオッサンが矢を放つ。

矢は吸血鬼バンパイアに刺さるが……これはほとんど効いてない。

吸血鬼バンパイアは、食屍鬼グールより頑丈だ。


チェイスのオッサンは、2本目の矢を放とうとする。

あれ?手が止まったぞ。そのまま吸血鬼バンパイアの方へ歩き出す。

ヤバい。魅了されたか?


「ワン!」

デイジーがチェイスのオッサンの足に噛みつく。

あれ、痛そうだな……。


「痛ァ!」


チェイスのオッサンは正気に戻る。

ヨカッタヨカッタ。



「チェイスさん、失礼します。

念の為です。解呪」

ユーフェミアさんが解呪を使う。


ユーフェミアさんは精神操作属性の魔術が使えると聞いた。

「初級と中級の術がいくつか。ネリーさんより確実に下手です」と言っていた。

ともあれ、吸血鬼バンパイア狩りなら、精神操作属性魔術師は役に立つ。



「てやぁ!」

ダグが吸血鬼バンパイアを鎗で串刺しにする。

まだ滅びない。


「頭を下げよ!」

コイチロウさんが、吸血鬼バンパイアの首を落とす。


ようやく吸血鬼バンパイアは灰になる。

まずは一匹目!



ついで襲って来たのは2匹。


あっ!ウィルさんとダグの体ががガクンと揺れた。

今度も魅了?2人同時か?



「一旦撤退するぞ」

ハロルドさんはそう言いながら、ウィルさんをぶん殴っている。


ダグは、【仕事人】ギャビンが殴って正気に戻した。



結論を言う。

僕達は、無事に撤退した。


襲ってきた2匹の吸血鬼バンパイアも灰にした。

一匹はイリークさんが魔術でやった。

もう一匹はソズンさんが胴を真っ二つにした。


メリアンの『聖なる火花』が撤退の時の時間稼ぎに有効だった。


でも、このままでは駄目だ。




「ハロルドさん、申し訳ありません」

ゴーグルをつけ横たわったウィルさんが言う。


魅了された3人は、ケレグントさんの診察を受けている。


「3人は大丈夫だろうか?」


「大丈夫でしょう。

自力回復しましたし、相手の吸血鬼バンパイア下位レッサー種で、既に滅びてます。

術の残滓も感じません」

ケレグントさんは答えた。


なお、チェイスのオッサンの怪我はマデリンさんがあっさり治してくれた。


「がんばったねぇ、デイジー。

こんなオッサン噛みたくなかったよねぇ」

マデリンさんは言った。




さて、作戦会議だ。


「結界は聖属性より、精神操作属性を優先した方が良さそうだな」

ソズンさんが言った。


「そうだな。

吸血鬼バンパイアにやられるのは、当人だけだが、魅力されると周りを巻き込む。

不確定要素を減らした方が良い」

ハロルドさんが言う。


「気合と慣れで、魅了にかかる可能性は減らせると思うのだがな。

後はお互い声を掛け合うことだ」

コジロウさんだ。


根性論か。アキツシマの文化か?


「ふとした時に気は緩む。

魔術師でない我々は、精神の戦いの訓練を積んでいない」

ハロルドさん。


「慣れてる肉弾戦で戦う方が良いぞ」

ソズンさん。



「私がクリフさんみたいな大きな精神操作属性の結界を張れれば良いのですが……」

これは、ユーフェミアさん。


「できないことを今言っても仕方がない。

できる範囲で戦う」

ハロルドさんは、あっさり返す。

女性に対する気遣いなし。

僕はメリアンに、これだけあっさりした態度が取れるかな?


ユーフェミアさんは一瞬切なそうな顔をしたけど……、これはハロルドさんが正しいんだろう。



「魔術師は防御中心で、攻撃は武器を持った前衛が中心で良いと思うよ。

吸血鬼バンパイアは実体がある。

事実3体のうちの2体は武器で倒したじゃないか」

ネイサンさん。


「聖属性の結界なら私も張れるぞ」

イリークさん。


「おめーの結界は、イマイチあてにならないんだよ」

ダグ。



ハロルドさんは皆の意見を聞きながら、作戦を立てていく。


僕は精神操作属性結界を担当する。

イリークさんは、僕より小さい聖属性結界を内側に張る。


「精神操作属性の結界からは出るな」

ハロルドさんの指示だ。



そして、いざ再戦。


魅了される者がいなくなると、戦闘は安定した。

コジロウさんの言っていた、互いに声を掛け合うのも良かった。

吸血鬼バンパイアは頑丈だが、戦いの技術では前衛メンバーに及ばないし、武器も持っていない。



その後、3回ほど行ったり来たりして、壁の向こうの大きな部屋にいる吸血鬼バンパイア、12体を全部滅ぼした。


やったぞ!



今晩は亡霊レイスのダンジョンでキャンプになる。

第三の泉を目指すのは明日だ。




夜に最終打ち合わせをすることになった。


「この先に行く前に決めなければならないことがある」

ハロルドさんは言った。


「第三の泉を目指すのに、適切なメンバーを選ぶ必要がある。

全員で行く必要はない」




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