第14章 地の底へ

第190話 知識の誘惑

亡霊レイスのダンジョンですか。

一応報告書は読みましたが……」

ケレグントさんは考え込んだ。


「ハイエルフのケレグント殿、私達の話を聞いて欲しい」

ハロルドさんが脇から出てきた。


まあ、そうなるよね。

イリークさんに任せておくと、いろいろ面倒なことになりそうだ。

 


「水没した亡霊レイスのダンジョンの奥に穴がある。

その穴は、ダンジョンの別領域エリアに繋がっている」

ハロルドさんは説明を始める。


「ダンジョンの壁の穴は、しばらくすると埋まってしまうものですよ」


「壁に穴があいたタイミングで、偶然私達がダンジョンに行く。

ケレグント殿、あなたなら、これがどれくらいの確率で起こるか分かるか?

私はあの穴は、ずっとあそこにあったし、今もあると思う」


「フム。確率ですか」


「穴の向こうに行ったのは、そこにいるクリフとメリアン、あとはうちのウィルとダグだけだ。

4人はそこで吸血鬼バンパイアの群れに遭遇したそうだ」


「……。続けてください」


「ウィルによると、穴の向こうの壁の浮彫うきぼりは、第三の泉がある領域エリアのものと同じだったらしい。

ダグは、穴の向こうでは微かに水の匂いがしたと言っている。

私は穴の向こう、吸血鬼バンパイア領域エリアから第三の泉へ行けると思う。

第三の泉には、避難している冒険者がいるかもしれない。

新月に聖なる泉が枯れる前なら、救出できる可能性はある」



水の匂いか。初耳だ。

僕は、全然感じなかった。

でも、ダグだからな。僕では分からない匂いを嗅ぎ取るかもしれない。


僕はとても興奮していた。

だってそうだろう?ダンジョンの新しいルートだ!



「良く思いつきましたね。そんなこと」

思わず僕は口を挟んでいた。


「私達は第二の泉で暇だったからな。いろいろ考える時間はあったのだ」

ハロルドさんは言った。


「でも、あの穴の側には冒険者嫌いのハイ・レイスがいますよ」


「そうだ。だからハイエルフ殿に頼んでいる。

ケレグント殿、あなたなら、ハイ・レイスをどうにかできるのではないか?」


「ハイ・レイスですか。……なんとか出来なくはないと思いますが……」

ケレグントさんは口ごもる。



「何を迷っている?」

イリークさんは言い、そして続ける。

「東方エルフは知識の民だ。

ダンジョンの新たな道。

黄金の髪の水辺のエルフのルーツ。

知りたいことが目の前に2つもあるのだぞ」


イリークさんは畳み掛ける。

口元に薄笑いを浮かべている。悪い笑顔である。


なんかね、確かにね、これは強烈な誘惑だよ!

僕だって知りたい。興味がある。


亡霊レイスのダンジョン再びかぁ。あの崖をまた降りるのかぁ。



「イリーク、マナの印象から見て、もしかしてあなたは全属性の使い手ですか?」

ケレグントさんが聞いた。


「その通りだ」

イリークさんは答える。


なお、全属性の使い手は相当に珍しい。

僕もそうだけどな。ただし、防御魔術限定な!



その時、つーっとケレグントさんの目から涙がこぼれる。


あの、ケレグントさん、いきなり何を泣いてるんですか!


「泣き落としをしても無駄だぞ。情報は、我々への協力が条件だ」

イリークさんは容赦なく言った。



「泣き落としなんかしていませんよ。

私は今、別れを告げているんです。


ああ、銅釜亭の定食は美味しかったなあ。

二日酔い通りふつかよいどおりで酔っ払いながら、はしごで飲むワインも楽しかったなぁ。

そして、空聞そらみみ屋の芋菓子、あれは最高でした。

それから……」


でぶハイエルフのケレグントさんは延々とロイメの食べ物の思い出を語った。


うん、空聞そらみみ屋の芋菓子がうまいことは、僕も認める。



「これらすべては思い出になるでしょう。

私は本国に呼び戻されるでしょうから。

どんなものとも別れの時は来る。

知っていますよ。

私はハイエルフなんですから」


「別れは済んだか」


「済みました。

さあ、教えて下さい。

あなたのルーツです。

どの特殊氏族に繋がっているのですか?

さあさあ!」


「どこの特殊氏族とも繋がっていない。

分かっている近い先祖にハイエルフはいない。

だが、私の祖母は人間族だった。

この髪は祖母由来だ」


ええぇー!



「祖母が人間族ということは、両親のどちらかがハーフエルフか?」

ハロルドさんがイリークさんに聞いた。


「母がハーフエルフだな。もう死んだが。

母も私と同じような黄金の髪だった。

父は普通の水辺のエルフだ。

父は魔術はエルフなりに嗜んだが、全属性の使い手ではないし、特別背が高くもない」

イリークさんは言った。


ほぇー。意外な真実である。



「はは、ははは」

突然、乾いた笑い声を立てたのはケレグントさんである。


え?


「既に約束は成立した。協力してもらうぞ、東方ハイエルフのケレグント」


「失礼しました。

あまりに意外だったので。

エルフ族の可能性は、こんなにところにも転がっていたのですね……。

イリーク、あなたの話は聞くに足る知識でした。

ケレグント個人としてできる範囲ですが、ご協力しましょう」



「計画が立ったということは、半ば事が成ったということ」

ハロルドさんが宣言した。


そうかなぁ?

僕的には計画倒れなんてよくあることだと思うけど。


「ハイエルフのケレグント殿、うちのイリーク、それから……」

そこでハロルドさんは口ごもる。


「僕も協力しますよ。

穴の向こう吸血鬼バンパイア領域エリアには興味があります」


ハロルドさんとイリークさんに乗せられたな。

でも、行くよ、亡霊レイスのダンジョン。

行きたい。興味がある。


「ありがとう、クリフ。

詳細はまだ詰めなければならないが、第三の泉にたどり着ける可能性はあると思う」

ハロルドさんは言った。



「なんかぁ、おもしろそう。

マデリンもぉ、いっしょに行く!」


え?


亡霊レイスのダンジョンは水没してるんでしょう?

マデリンの助けが必要だと思うのぉ」


マジですか?


ハイエルフのケレグントさんにマデリンさん、イリークさんに僕。


これは本当に計画が成ってしまうかもしれないぞ。

調子に乗っていいかな?


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る