第173話 ゾンビの逆襲
「お前ら!本当に人間か?
ゾンビじゃねーだろーな!」
第三層入口の見張り達は問い詰めた。
「人間族とハーフトロールとエルフ族とドワーフ族ですよ。
禿山の一党のお頭を訪ねてここまで降りて来ました」
僕は答える。
「どうやらヒト族のようだな。
しかし、ひどい臭いだぞ」
見張り連中は鼻をつまみながら言った。
……そうですかぁ?
僕は何も感じませんがねぇ。
第三層は黄昏時だった。
薄明の中で見る限りは、以前と変わらないように見える。
僕は安堵のため息をついた。
僕達は、
お馴染みの第三層に巣くうぼったくり親父である。
ちなみに、トビアスさんやチェイスさんやホルヘさんと比べても、禿度は一番だ。
僕達一行は全員、生活魔術の浄化をかけてある。
かけたのは僕だ。
禿山の一党の術者が、なんか下手くそっぽかったんだよ。
でも多分まだ臭いは残っている。
でも、僕は鼻が馬鹿になっていてわからないし、ヨシッ!とする。
ヨシッ!!
「良くここまで降りて来てくれた。歓迎する」
禿のお頭は言った。
臭いについては、何も言わなかった。
「エルフ族としては、同族の救援に全力を尽くすつもりです。
第三層以深はどのような状況ですか?」
ワリアデルが言った。
「ドワーフ族は、深層に潜っている同胞を見捨てるつもりはない。
知っていることを教えてくれ」
フセヴォロが言った。
この2人、仲悪いよなぁ。
ワリアデルとフセヴォロは、争うように禿のお頭に質問しはじめた。
「えーと、冒険者ギルドから質問状を預かっています。
こちらを優先でお願いします」
僕は言った。
質問状は、出発の時ユーフェミアさんが渡してくれた。
禿のお頭の報告をまとめて書くぞ。
今日の昼頃、グラッと地震があった。
ダンジョンの中で地震はたまに起こる。記録にもある。
でも、今回は「俺が経験した中でも大きい方だった」。
地震の後、第二層へ続く階段からゾンビが降りてきた。2〜30体ほどだ。
禿山の一党には聖属性の使い手もいて、ゾンビはすぐに討伐できた。
その後、偵察部隊が階段を上がったら、第二層は、「とんでもないことになっていた」。
この時点で、第二層の通過は無理だと判断し、援軍の到着を待つことにした。
その後も3回ほどゾンビが降りて来て、階段出口の見張り部隊が討伐した。
なお、地震は最初の1回だけ。
ゾンビ以外で、普段とは違うモンスターは出ていない。
フム。
「際限なくゾンビが降りてくるようなことはないのですね?」
僕は確認する。
第一層では際限なくゾンビが登ってくる感じだった。
「ないな」
禿のお頭は答えた。
「我々の同胞はどうなっている?」
ワリアデルが割り込んできた。
「エルフ族とドワーフ族は、第五層で
出発したタイミングから見て、第五層にいるだろう。
異変があった時点で、第五層のキャンプに伝令を送ってる。
戻ってきた方がいいと伝えるためだ」
禿のお頭は答える。
判断力は
「伝令はいつ頃向こうに着くか?」
ワリアデルは言った。
「明日中には第五層に到着するだろう。その後、連中のキャンプを探すことになる」
「オイ、どっちのパーティーに先に伝えるつもりだ!?」
今度はフセヴォロが割り込む。
「我々エルフのパーティーに決まっているだろう。
強いパーティーと先に合流した方が効率が良い」
ワリアデルは嫌味たらしく言った。
「より早く、より簡単に見つかるキャンプを先に訪ねろと命令した」
禿のお頭は答えた。
両者の面子を立てる完璧な解答だ。
伊達に第三層に居座ってはいなかった。
「第三層で
僕は質問を続ける。
「第三層の連中にも伝令は送ってる。
でも、第三層の冒険者達は移動キャンプをする者が多いから、すぐに見つからないかもしれん」
僕はメモを取る。
残った質問は2つ。
「こちらを通過した冒険者のリストを提出して下さい。
ええと、『雷の尾』がこちらに来ませんでしたか?
あとは……」
僕は『青き階段』の行方不明者の名前を伝えた。
「リストは、冒険者ギルドに渡そう。
『雷の尾』は最近見ていない。
あの金髪のエルフはいろいろ目立つからな。見逃すことはないと思う。
あとのメンバーはリストと照合だな」
リストというか宿帳は、その場で見せてもらった。
『雷の尾』も含め僕が探していた名前はない。
もともと彼らは第二層の奥に行くと言っていた。
予想の範囲ではある。
しかし、そうなると……。
「最後の重要な質問です。
何でも良いので変化や、何か気がついたことはありませんか?」
最後の質問はすごくフワッとしていた。
「今言った以外に第三層で特に異変はないなぁ。
いや、あえて言うならここに来る冒険者が減ったことかな?」
「それは、なぜ減ったのでしょう?」
「ほらあの水鉄砲だ。
あれが大流行して第三層に来る冒険者が減ったんだ。
水鉄砲でゾンビを的にして倒すと、楽しいらしいな。
うちの連中もたまに第二層へ登ってゾンビ狩りをしていたし」
『雷の尾』がロイメに持ち込んだ水鉄砲は、さらに改良を加えられ、冒険者の間で大流行している。
『冒険者通信』に、【今までにない飛距離】とか、【背中のタンクとゴム管でつながる新システム】とか、広告が載ってるのを見た。
「そんなわけで、冒険者の間では第二層攻略が大流行だ。
禿山の一党の禿のお頭は、ため息をつきながら言った。
どうも本当に困っているらしい。
水鉄砲の大流行と、第二層攻略者の増加か。
ゾンビ狩りの大流行は、ゾンビとしては不愉快なことだろう。
僕達は
僕は禿のお頭の今の言葉を報告書に書いた。
そして、読む人の注意を引くように丁寧にアンダーラインを引いた。
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