第72話 急行
シオドアは溜め息をついた。
「沈黙の誓いならたてますよ」
僕は言う。
沈黙の誓いは、冒険者同士で結ばれる、秘密を漏らさないと言う誓いである。
まあ、現実には、しばしば破られるわけだが。ただし、こう言う形式は大切である。
「分かった。外に口外しないことを誓ってくれ」
シオドアは言った。
「メリアンを追い出したのは、『冒険の唄』の女将さんからの要請だったからだ。
女将さんがメリアンを追い出したかったのは、銀弓のダイナの要求だったからだ。
銀弓のダイナがメリアンを追い出したがったのは、金盾のアルペロがメリアンに興味を持っていたからだ」
シオドアは一息に言った。
「銀弓のダイナは、メリアンをクランから追い出さなければ、移籍すると女将さんに言ったらしい」
さらに付け加える。
これはもしかして、メリアンは悪くないってオチ?
意外である。個人的には絶対何かやらかしたと思ってたけど。
シオドアはさらに続ける。
「それでも僕は反対だった。
それで、『輝ける闇』の中で投票をしたんだ。
ネリイとトレイシーは、追放に賛成。僕は反対。ヘンニは棄権。
パーティーのルールで追放が決まった」
「『冒険の唄』の女将さんも愚かですね。そう言うことを言う冒険者は、結局クランを出ていくものですよ」
ユーフェミアさんは言う。
「そう言わないでくれ。クラン『冒険の唄』は、『紅蓮の冒険者』が壊滅し、台所が厳しいんだ。
『紅蓮の冒険者』は皆も知ってる事情で、壊滅。
『輝ける闇』は、治癒術師が抜けて、しばらくダンジョン深層に潜る予定はない。
女将さんは、『銀弓と金盾』をうちの主力に育てるつもりだったんだ」
シオドアは言った。
女将さんの目には、メリアンより銀弓が魅力的に見えたんだろうな。
評価は妥当かもしれないが、うーん。
「
ホリーさんが言った。
これに関しては、僕も気持ちはホリーさん側になる。
例え、トラブルメーカーのメリアンであっても。
シオドアが黙っていてくれと言う理由は、分かる。
これが、広まれば『冒険の唄』の評判はかなり悪くなるだろう。
「知りたいことはそこじゃない」
キンバリーは言った。
「パーティーを追放されたのも、クランを追放されたのも、過去のこと。
問題は今起きてること。
メリアンさんの新しいパーティーが決まらないこと」
「そうよ、キンバリー。わたしは現在進行形で傷ついているのよ!」
メリアンが言いたてた。
……この2人、いつの間にか仲良くなってない?
ここで、レイラさんが一歩前に出た。
「わかっているじゃない。さすがあたしの弟子。
過去のことなら、こんなにメンバーは集まらないわ。
今流れている『パーティークラッシャー』の噂。それが問題なの」
レイラさんは高いよく通る声で宣言した。
「『輝ける闇』のリーダー、シオドア。
あなたはメンバーが、
言っておくけど、『輝ける闇』のトレイシーが『風読み』で『パーティークラッシャー』について話しているわ」
レイラさんは言った。
「情けないが、知らない」
シオドアはレイラさんの勢いにたじろいでいる。
「ふうん?」
「言い訳できないことだ。今日、これから集まりがあるから皆に聞いてみるよ」
シオドアは言う。
「集まりはいつから?」
レイラさんは聞いた。
「もうじきだよ。そろそろみんな『冒険の唄』に集まっているころだ」
シオドアは懐中時計を見て言った。
「分かったわ。あなたに聞くより『冒険の唄』に行って、直接噂している本人に聞いた方が早そうだわ」
レイラさんは言った。……って、マジっすか?
「行くわよ、キンバリー!」
「はい。レイラさん」
2人は出ていく。ちょっと待って!
レイラさんとキンバリーはあっという間に部屋を出て、クランを出て、走って行く。
2人とも、足速っ。
僕は、僕達は2人を追いかける。
隣でトビアスさんが「ここまで面白い話になるとは」と呟いているのが聞こえた。
僕はこのトビアスさんの発言に件に関して、沈黙の誓いを立てるつもりである。
しかし、速い。
「脚力強化」
僕は、肉体強化の補助魔術を使った。効果は短い上に、ひどい筋肉痛になることは間違いない。
でも、僕はこの件を見届けたいんだ!
理由は、……トビアスさんと同じ。
面白そうだからだ!
「すみません、失礼します!」
僕は、冒険者クラン『冒険の唄』の扉を開けた。
皆の視線が僕に集まる。
「クリフ・カストナー、あなたが一番乗りか。意外だわ。
それと思ったより速かったわね」
レイラさんが言った。
『冒険の唄』のロビーは、『青き階段』よりは小さく、雑然としていた。
しかし、それなりに掃除はされており、ある意味暖かみのある雰囲気でもある。
一つのテーブルに『輝ける闇』が座っている。
ネリイの赤毛はよく目立つ。
ネリイの隣には、この前見かけたボンキュッボンの女性。名前は……、忘れた。
そして、もう一人小山のような大女。褐色の肌に白金の髪のトロールの女性。
でかい。さすがにニウゴほどじゃないけど、確実にコジロウさんよりでかい。
多分歳は30代半ばぐらい。
これにシオドアが加われば、『輝ける闇』はフルメンバーか?
大きなカウンターがある。内側には中年~初老の女性。これは女将さん。
そして、奥に座っているのは、長身で黒髪浅黒い肌の女性。前髪の一房が銀色である。
これが、銀弓だろう。
さすがレイラさんと言うか、
ほぼ全員いるじゃないか!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます