第6章 彼女の帰還

第62話 メリアン

「メリアンさぁ、何しに来たんだよ」


「『三槍の誓い』ってパーティーが、治癒術師を募集しているって聞いたから」

メリアンはすました顔で言う。


「私は中級治癒術が使える。初級だけど氷属性の攻撃魔術も使える。

冒険者としてダンジョンに潜った経験もある。

募集の条件は満たすはずよ」


そう言えば冒険者ギルドのパーティーメンバー掲示板に、「中級治癒術が使える術者募集・経験者優遇」って、張り出したんだった。

ちょっと条件厳しいですねって、ユーフェミアさんに言われて、まあ、徐々に条件を緩めて行く予定だった。


しかし、メリアン。

よりによってメリアン。



「ウチのパーティーがメリアンの希望に合うかは微妙だと思うよ」

僕は言う。


「とりあえず、他のパーティーメンバーにも会わせなさいよ。

それとも、『三槍の誓い』は、リーダーのあなたが全部決められる立場なの?」


僕はため息をつく。


「じゃあ、明日のお昼時に、また来てくれるかな?みんな集めておくから」

明日までに、皆にメリアンの問題点について話しておこう。僕は算段をつける。


「いいえ、今日ここで待つわ。善は急げよ。そこの受付の人に、夕食時にはだいたい全員揃うって聞いたわ」


「……分かった。『風読み』まで、キンバリーを呼んでくるよ。他のメンバーは訓練場にいるし」

帰り道で、メリアンについて、とりあえずキンバリーには伝えておこう。



その時、『青き階段』の入り口の扉が開いた。

入って来たのは、キンバリーとレイラさんだ。



「こんにちは、レイラさん。今日はどんなご用事ですか?」

ミシェルさんが愛想良く言う。


「『青き階段』へ入会しようと思って。

訓練場がソズンさんのせいで、スゴイことになっているって聞いたわ。

あたしも交ざりたい。

もちろん会費は払うわよ」


レイラさん、あそこに交ざる気ですか!



ミシェルさんもレイラさんの発言には驚いたようだった。

『青き階段』として、レイラさんのことはいつでも歓迎するが、すぐには決められない旨を伝える。


「分かったわ。今日の訓練が終わって、ソズンさんが来るまで待たせてもらう」

そう言うと、レイラさんは、キンバリーを連れて、僕とメリアンがいるテーブルにやって来る。


「こんにちは、クリフ・カストナー。そのだあれ?」


そう言うと、レイラさんとキンバリーは僕と同じテーブルに座った。



「はじめまして。私はメリアン。治癒術師です。

冒険者ギルドのパーティーメンバー募集の貼り紙を見て、ここに来ました」

メリアンは、礼儀正しく言う。


メリアンは、初対面の外面は良いんだよな。



そして、今度は訓練場につながる扉が開いた。

入って来たのは、でかい男連中だ。


彼らは金髪の美人メリアンに興味を引かれた風だ。

ナガヤ三兄弟は僕達のテーブルに座り、それ以外の連中も遠巻きにしている。


今日は厄日だ。

仕方がない。腹を据えて、対処しよう。



僕は改めてメリアンを皆に紹介した。


「治癒術師と言うことだが、どの程度の術が使えるのだ?」

コサブロウさんが聞いた。


「中級治癒術が使えます。後、初級の氷属性の攻撃魔術も使えます」

メリアンは答える。

周りからどよめきが起こる。メリアン能力は十分すごいものだ。金髪の美人なら尚更だ。『暁の狼』の時代、僕もそう思った。


「すごいの。『三槍の誓い』の治癒術師はメリアン殿か」

コサブロウさんが言う。


「申し訳ないけど、僕はメリアンを『三槍の誓い』に入れるのには、反対だ。と言うか嫌だ」

僕は言った。言ったぞ。



「どういう事情があるのだ?クリフ殿」

コイチロウさんが言った。


「僕とメリアンは、以前同じパーティーにいた。その時の経験を元に言っている」


「メリアン殿のどこに問題があるのだ?」

「そうよ、私のどこが悪いのよ」

コサブロウさんとメリアンが言う。

周りの男連中も、何とはなしにメリアンの味方だ。



「1つ目は、メリアンが歩くのが遅いからだ」

僕は言う。


冒険者は、腕っぷしはなくてもなんとかなるが、脚力は必須である。

そして、メリアンはすぐ疲れたと言うタイプだ。


「クリフ殿も大して速くはないぞ」

コサブロウさんが言う。

知ってるよ、そんなこと。



「2つ目は、バーディーが君のことを好きだったからだ」


「バーディーとは誰だ?」

コイチロウさんが聞く。


「バーディーは僕とメリアンが、以前一緒にいたパーティー、『暁の狼』のリーダーだ。

僕はいろいろあって、『暁の狼』を抜けたと言うか、追い出されたと言うか……」


「クリフ殿をパーティーから外すとは、見る目のないリーダーだな」

コジロウさんが言う。


「おかしなことを言うわね。あたしとバーディーは、寝たわけでも、付き合ってた訳でもないのよ?」

メリアンが言う。


「そうかもしれない。でも、僕はバーディーは君のことが好きだったと思ってる。

バーディーといろいろあった僕のパーティーに、メリアンが入るのはトラブルの元だ。

もちろん、メリアンが悪いわけじゃない。むしろ僕の能力不足が原因だと思う。僕はこう言う問題をうまく片付けられる器用な人間じゃないんだ」

僕は一息に言った。


「なんかバーディーに気を使っているみたい」


「みたいじゃなくて、気を使っているんだよ」


「言っておくけど、バーディーはあなたのこと……」

そこまで話して、メリアンは黙った。


「別にバーディーが何を考えていようといいよ。僕の考え方の問題なんだから」


「じゃあ、あたしにどうしろって言うのよ。

言っておくけど、あたしが美人なのも、バーディーに好かれたのも、あたしのせいじゃないわよ!」


それはちょっと違うような気がする。


正直、メリアンは『暁の狼』時代、バーディーリーダーの好意を得るために、いろいろ頑張っていたと思う。

まあ、でもこれは、水掛け論にしかならないよな。



「僕がいない別のパーティーに行けばいいだろ。中級治癒術が使えるメリアンなら、どこも引く手あたまだろ?」


僕にとってメリアンは実に面倒臭い女の子だ。しかし、美人だし、金髪だし、中級治癒術も本物だ。

世間では歓迎される女の子だろう。


今の『三槍の誓い』ほど勢いはなくても、別のパーティーに行けば良い。


「無理じゃない?」

レイラさんが言う。

「一部で有名よ、パーティークラッシャー・メリアンって」



……メリアン、いったい今まで何してきたんだよ!


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