第49話 再会

僕はジンガルの死体を見つめた。


赤い冒険者達、改め『紅蓮の冒険者』は、ジンガルがどこでどのように死んだのか、知る権利があるだろう。


とは言え、僕はアデルモには二度と会いたくないし、ニウゴには近づきたくもない。

自分の安全を確保した上で、彼らにこの事を教える方法があれば良いのだが。


『三槍の誓い』の皆や、デイジー達と合流して、冒険者ギルドに報告して、その後か。



この亡霊レイスのダンジョンは、臭いもなく、僕にとってはとても安全な場所だ。しかし、いつまでもここにいるわけにもいかない。


なお、僕のポケットには、魔石が何個か入っている。

つきまとう亡霊レイスがうざかったので、一気に結界を広げてやったら、巻き込まれて何体か消滅した。

攻撃魔術の真似事である。


消滅した後に、何個か魔石が残っていた。


まあその、かなり楽しい。攻撃魔術にハマる魔術師の気持ちが分かる。

残念だが、その後、亡霊レイスは僕に近寄って来なくなった。



「どうやれば、『三槍の誓い』の皆と合流できるかだ」

皆が大峡谷を下りて来るとしたら、夜が明けてからだろう。


「落ちた辺りに戻るべきだな」

仮にそこに誰もいなくても、目印を残す手もある。

ただ、途中で、『紅蓮の冒険者』の洞窟に近づくことになる。


幸いと言うべきか、魔力は回復している。

ニウゴが本調子になる前がチャンスだろう。

……行きたくないなあ。



僕はおっかなびっくり第三層の洞窟に戻った。

洞窟には人の気配はなかった。洞窟の外も同様だ。


アデルモだったら、結界で飛び道具を避けて、耐電・帯電コンボを使って……、ニウゴだったら、ひたすら逃げて……。いろいろ考えているが、最後は行き当たりばったりだ。

僕は逃げるルートを確認しながら、歩き出す。



しばらく歩いて、『紅蓮の冒険者』の洞窟にも近づいて来た頃だ。


「ワンッワンッ」

大きな吠え声が聞こえた。


銀色の毛並みをなびかせ、尻尾を振り、僕の所に走って来るのは!

「デイジー!!」

僕はデイジーを抱き締めた。


デイジーは本当の本当の本当にかわいい。



「クリフ・リーダー」

「クリフ殿」


僕は、コジロウさんとコサブロウさんとキンバリーとネイサンさんとトムさんに再会した。


抱き合って喜ぶ、と言うことはしない。ダンジョンの中と言うこともあるが、基本、まあ、僕のキャラじゃない。


とは言え、キンバリーは涙ぐんでいたし、多分僕も涙ぐんでいたと思う。

後、コジロウさんとコサブロウさんにバンバン背中を叩かれた。



「心配したよ。何が起きたんだい?」

ネイサンさんに聞かれた。


僕はこれまでの経緯を話した。

「……と言うわけです。迎えに来てくれてありがとうございました。僕は怪我もなく大丈夫です。

問題は、彼ら『紅蓮の冒険者』の残党をどうするかです」


「『紅蓮の冒険者』で間違いないんだな?」

トムさんが言う。


「はい。でも、先程も言いましたが、ジンガルは亡霊レイスのダンジョンで死に、リーダー以下年長組3人も殺されました。

あそこにいるのは、トロール族のニウゴと若手のアデルモとベネットだけです」


「リーダーのドナートは良い奴だったんだがな……」

トムさんは言った。


「赤いタグの連中を、第三層に放っておくわけにもいかないよ。彼らの洞窟には、あそこの他にも出口がありそうだったか?」

ネイサンさんは聞いてきた。


「分かりません」

僕は答えた。


「えい、まどろっこしい。要は援軍を待つか、打って出るか、どちらかだ」

コジロウさんが言う。その通りである。


「トロールに対抗するなら、大規模な攻撃魔術の使い手が欲しいな」

ネイサンさんは言う。


「こちらは7人で魔術師もいる。向こうは3人で、うち2人はヒヨッコ。何をそこまで恐れる」

コジロウさんが言う。要は打って出たいんだろう。


「こちらには、死人はもちろん怪我人も出さずに片付けたい。慎重過ぎると言うことはない」

ネイサンさんは真剣だった。

「……もう一つ。冒険者タグを赤くすると後々面倒だ」


「忘れておるようだが、トロール族は夜目が効くぞ」

コサブロウさんが言った。


「それは……」



トロール族の夜襲を受ける。ゾッとしない話である。

そのトロール族が自分の命に執着していないなら尚更だ。


山岳地帯周辺では、人間族とトロール族で度々紛争が起きている。そして、人間族が負けるのは、夜襲を受けた場合だ。

夜襲と奇襲、これはトロール族の必勝コンボである。


「俺はトロール族ほど夜目は効かない」

トムさんが言った。

つまり、夜になるとこちらは戦力減になると言うことだ。


「明かりの魔術を使う手はありますよ」

僕は一応言う。とは言え昼間と同じになるかと言うと厳しい。


「単純に考えるのだ。打って出るのと、防御を固めるのとどちらが手堅いか」

コジロウさんがまた言った。これは、打って出たいんだろうな……。


「ここで見張るのは良くないな。いっそ崖の上に行くか?」

ネイサンさんはあくまで慎重だ。


僕としては、本来は慎重に行動したい派である。しかし、ベネットはできたら助けたい。

優柔不断な思考に嵌まってしまって、意見を言えない。駄目だな。リーダーとして。


僕達はそんなことを相談し合っていたが、結論を言えば、選択肢はなかった。


「なにをいィいやがったかァー」

『紅蓮の冒険者』の洞窟から、罵声が聞こえて来たからだ。

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