第3話 パーティー分析【秘密メモ 暁の狼】

眼鏡美人のハーフエルフさんの笑顔になんとか僕は抵抗した。

書類に書かれた会費が僕を正気に戻した。いや、会費はまだいい。高額クエストを達成した時のクランの取り分が今のクランより明らかに多い。

僕はそれを指摘した。


「『青き階段』は親切・丁寧な冒険者クランです。契約内容は妥当だと思っています。クリフさん、あなたは今まで所属していた冒険者クランに不満を持ったことはありませんか?」


「ありますね。クランに金を払う時です」


眼鏡美人ハーフエルフさんは少し悲しそうな顔になった。



「まあ、身も蓋もなく言えばその通りだろう」

ニヤニヤしながら言ったのは、禿げのオッサン。このオッサンはなかなか手強い。


「ザクリー爺さん、ちょっと外で旨い物を買ってきてくれないか」


「あいよ」

オッサンは、側にいたモップを持った小柄なお爺さんに声をかけた。


「なあ、禿げオッサン……」


「禿げオッサンは止めてくれ。俺にはトビアスと言う名前がある。名乗ってなかったか」


「名乗ってないよ。手紙にも差出人はなかった」


「それは、すまなかった。差出人のない手紙で、よくここまで来てくれたな。焦って書いたんだよ。改めてよろしく、俺はトビアスだ」


「ちなみに私はユーフェミアです」

眼鏡美人のハーフエルフさんも名乗ってくれた。



ザクリー爺さんが紙袋を抱えて戻って来た。

中身は僕も知っている。芋に砂糖をまぶしたロイメでは一般的なお菓子だ。

ユーフェミアさんがお茶を持ってきてくれた。

彼らが僕を歓迎しているのは確かなようだ。



芋菓子をつまみながら、トビアスさんが話し出す。

菓子を奢ってくれたし、さん付けで良いだろう。しかしこれ、うまいな。どこで売ってるのか後で聞いておこう。



「ダンジョン探索を行う冒険者パーティーに必要なものは何だと思う?」


「良いパーティーだとさっき言ってませんでしたか?」


「じゃあ、良いパーティーに必要なものは何か?」


「信頼できる仲間とか?」

うーん、これはトビアスさんを納得させる答えじゃないだろうな。


「計画性とか?」

『暁の狼』も、ダンジョンに出かける前はちゃんと計画を立てたし、準備もした。

ただ、計画通りにはいかないことが多かったのだ。



「いいか、ダンジョン探索パーティーに必要なものは、攻撃力、防御力、情報収集力、回復力、輸送力、そして、資金力。勿論その上で、計画を立てることも必須だ」


「……」



「攻撃力。これは、剣でも弓でも魔法でもいい。ダンジョンでモンスターを倒す力だ。


防御力。戦う時の耐久力だ。盾役や防御魔法使いの実力で決まる。


情報力。ダンジョン内での情報を集める能力。スカウトの実力だな」

ここでトビアスさんは、一呼吸置いた。


「回復力。治癒魔法使いの実力、または使えるエリクサの数。そもそも怪我をしなきゃいいんだが。


輸送力。ダンジョン内を効率良く移動する力だ。大規模なパーティーは荷車を使ったりもするが……、とりあえず足元が丈夫なら良しとしよう。


資金力。これがあるとないとでは大違い。まあ、新人パーティーに期待してもしょうがない」


「どうだろう?君のパーティー『曙の狼』』はどこに問題があったと思う?」


「『暁の狼』ですよ」

僕は訂正した。



僕は『暁の狼』について考える。

防御力は、まあまあだろう。僕がいろいろ防御結界を張っていたし、盾士のサットンもいた。


情報力は、レイバンがどの程度の実力者なのか正直僕にはわからなかった。ただ、『暁の狼』が探索を行う範囲では問題はなかった。


回復力は、メリアンがいた。専属の治癒魔法使いがいるのは、新人パーティーとしては贅沢な方だ。


輸送力は、時々メリアンが疲れたとこぼしていたな。大きく予定が狂うことはなかったが、遅れ気味だった。


資金力はダメダメだ。『暁の狼』は金が原因で解散したのだ。


攻撃力は……、足りなかった。ジャイアントスパイダーを倒すのにも苦労していた。


「『暁の狼』は、攻撃力が足りませんでした。輸送力も不足しがちでしたね」


「俺も同じ見立てだよ」


ユーフェミアさんがトビアスさんに紙を渡す。トビアスさんは紙に六角形を書いた。


「君らのパーティは俺の見立てで、防御力はA、攻撃力はC、情報収集力はCかB、回復は一応Bと言うところだ」


「ちなみに輸送力と資金力はCだが、これは新人パーティーならよくあることだ」


トビアスさんは、六角形にポイントを取っていく。形は大きく歪んでいる。


「形が歪んでいるのが『暁の狼』が上手くいかなかった原因だと言うことですね?」


「歪んでいても良いんだ。

例えば狩りハントに特化したパーティーもいる。

防御力は弱いが、輸送力が高い。要は足が速い。

勝てないモンスターに出会ったら逃げる。

また、勝てないモンスターに出会わないようにダンジョン内の情報にも常に気を配っている」


「でも攻撃力が弱いのは困ると」


「俺の持論を言うなら、冒険者パーティーに一番重要なのは輸送力・足元だな。二番目に重要なのが攻撃力」


つまりトビアスさんの説によると、輸送力と攻撃力が弱い『暁の狼』は駄目なパーティーと言うことになる。

まあこれは、認めざるを得ないけど。


「特別なのは資金力だな。これがあれば他はどうとでもなる」

最後にトビアスさんは付け加えた。



攻撃役アタッカー剣士であるバーディーに問題があったと言うことだろうか?


「『暁の狼』はどうすれば良かったと思いますか?」


「盾士に盾を捨てさせて、槍でも持たせれば少しマシだったかもな」


それは考えたことがなかった。


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