【完結】攻撃魔法が苦手で追放された陰キャ防御魔術師のパーティー経営~冒険は金策と人事である〜

ミンミンこおろぎ

第1章 転んでもただでは起きるな

第1話 人生最悪の日は唐突に

 冒険者として成功する上で何が一番大切だろう?

才能?努力?運?でも一番大切なのは、妥協できる仲間に出会えるかだと思う。



 僕達パーティーは、冒険者クランの隅にあるテーブルを囲んでいた。


 パーティーの名前は『暁の狼』。その名の通り、5人組の若く希望に満ちたパーティー、のはずだ。


 まず、魔術師の僕。一応一級魔術師だ。

自慢じゃないけど、21歳で一級魔術師と言うのは結構珍しい。


 剣士でリーダーのバーディー。

パーティーリーダーのバーディーだ!が彼の持ちネタである。

運動神経抜群でおまけにイケメン。髪は薄茶色で、鮮やかな緑色の目がまた目立つ。


 盾役のサットン。

バーディーと同じ村の出身で、幼なじみだ。黒い髪で地味なタイプだが、パーティーの調整役は彼だ。

2人とも18歳である。


 無口なスカウトのレイバン。

パーティーに入れてくれとフラリとやって来たベテランである。


 そして、もう一人の魔術師で紅一点のメリアン。

金髪の美人さんである。

本人曰く19歳。多分嘘じゃないと思う。


 どう見ても完璧な冒険者パーティーだ。

とは言え、僕達の空気は少し重い。

原因は、単純に金である。



 今回のダンジョン探索は思ったほど金にならなかった。

魔石が出なかったのだ。ついでに痺れ毒にあたって薬草を使った。なんとか赤字にはならなかったが、予定を下回る利益になった。


 ただ冒険には、こういう日もある。


 冒険者の報酬には相場がある。契約金額の支払いか、配当の支払いか、計算方式はいくつかあるんだけど。

このパーティーで一番取り分が多いのは、一級魔術師である僕になる。

でも、僕には多少蓄えもあるし、家もある。僕が少し譲れば、なんとかなるだろう。



「今回の分配はバーディーとサットン優先が良いと思う。一番働いたのは二人だし」

僕がこう言ったのは、バーディーとサットンが田舎から出てきて、何かと物入りなのを知っているからだ。


「俺を後回しにされるのは困る」

レイバンが言った。

地味だけど、スカウトは重要だし、今抜けられると困る。

「バーディーとサットンとレイバン優先で」


「ちょっとなぜわたしが後回しなの?ジャイアントスパイダーを仕留めたのはわたしの攻撃魔法なんだけど」


 確かにジャイアントスパイダーを仕留めたのは、メリアンの攻撃魔法だ。

でも、あのジャイアントスパイダーはバーディーとサットンの攻撃で既にヘロヘロだった。メリアンの攻撃魔法がなくても仕留められたんじゃないかな?


「メリアンの魔法は役にたったな」

バーディーが言った。

リーダーの発言だ。ここは尊重するか。

「バーディーとサットンとレイバンとメリアン優先でいいんじゃないかな」


 今回も、僕が泥被りらしい。

これは冒険者パーティーに限った話ではない。冒険者になる以前から僕は、こう言うことが多かった。


「僕の取り分はツケにしておこう。将来大きな魔石を当てた時に返済してくれればいいよ」

期限は設けない。下手に無理して、パーティーから怪我人がでても困るからね。

うん、なんとかなるな。



「納得いかないな」

サットンだ。サットンがこういう場所で発言するのは珍しい。顔に緊張がある。

「……僕たちは、身体を張って戦っているのに、後ろに立ってるだけのヤツより分け前が少ないのは納得できない」


「メリアンは治癒魔法も使えるじゃないか」


「いや、サットンが言いたいのは、メリアンじゃなくてクリフのことだろう」


ここで示し会わせたように、レイバンが発言した。レイバンがパーティーメンバーについて発言するのは、サットン以上に珍しい。


 リーダーであるバーディーが僕の方を見た。

「俺も二人と同じ考えだ」

バーディーが宣言した。バーディーの声は良く通る。


「クリフ、お前こそダンジョンで立ってるだけの役たたずじゃないか」



 僕は言葉が出なかった。

ショックだったと言うより、何を言われているかわからなかったと言うのが正しい。


 クリフこと、僕は防御魔法使いだ。

自分で云うのもなんだが、防御魔法においては、この迷宮都市でもそういないレベルだ。


 そもそもパーティー『暁の狼』は、迷宮ダンジョン都市ロイメにやって来たばかりのバーディーとサットンが、僕に声をかけたことから始まった。


 三人でダンジョン一階を中心に探索範囲を広げていった。

その後スカウトのレイバンが加入し、さらに探索範囲が広がった。

メリアンが参加したのは最近だ。彼女は治癒魔法が使える。

パーティーの今後を考えると、いて欲しい人材だ。


 それでも、パーティーがダンジョン内を自由に動き回れたのは、僕の防御魔法があったのが大きいと思う。



「俺は剣が使えるし、サットンは盾役、レイバンはスカウト、メリアンは治癒、パーティーの基本はこれで揃う。

一級魔術師だって言うから、期待させといて、初歩の攻撃魔術も使えない。突っ立ってるだけじゃないか。

突っ立っているだけの中途半端なヤツはいらない」

バーディーは畳み掛ける。


 バーディーは立ち上がり僕に言う。

「新生暁の狼は四人パーティーになる。

いいか、クリフ、お前の席はない。『暁の狼』のメンバーでないヤツに渡す金もない!」


「……。」

僕は返答に詰まった。

実は報酬を後払いにしたのは、今回に限ったことではなく、パーティー『暁の狼』には、貸しがいくらかある。


 ツケの金額はノートに書いて会ったが、正式な文書にした訳ではない。

ついでに、結成当初、パーティーの会計係は僕だったが、最近メリアンに変わっている。

うまく魔法のタイミングが合わなくて、落ち込んでいたメリアンに、リーダーのバーディーが仕事を与えたのだ。メリアンに自信をつけさせるためだと言って。


「話は終わりだ。お別れだな、クリフ」

バーディーの発言と同時にサットンが席を立った。

続いてレイバンとメリアンも。


彼らはクランのロビーから出ていき、僕だけが残された。



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