第43話 新メンバーの顔合わせ
レース会場で知り合った新メンバーの顔合わせの為、チームメンバーでヤビツ峠を走る事にした。
集まったのは私と西野、北見さん、南原さん、木野さん、鈴木さんの6名だ。東尾師匠は最上位クラスで走れる実力があるから、最近はトップレベルのサイクリストと一緒に走る事が多くなり、私達と一緒に走る事が少なくなったのは残念だ。まぁ、SNSでつながりはあるし、レースの時は会えるから疎遠になった訳ではないのだけど。
「ちょっと年甲斐もなくこんな可愛い女の子誘ってるのよ!」
ひまりちゃんを見た西野が咎める様に言う。
「いや、誘ったのは南原さんだよ」
「自分が猛士さんにお願いーー」
「でも許可したのは猛士でしょ」
南原さんの発言を遮って西野が私を責める。
「ご迷惑でしたでしょうか?」
「迷惑じゃないわよ。私も女性サイクリストが増えるの嬉しいから。私は西野綾乃、皆からはノノって呼ばれているわ。宜しくね」
西野がひまりちゃんに挨拶をする。
「良かったです。鈴木ひまりと申します」
「私は北見勇登。チームのお目付け役のお節介なオッサンだよ」
続いてひまりちゃんと北見さんが自己紹介した。私と南原さん木野さんの3人は、レース会場で既に挨拶しているから自己紹介を割愛した。
新メンバーのひまりちゃんは大学生で南原さんより一歳年下の20才だ。愛らしい顔立ちで大学ではモテるのだろうな……大学では。普通であれば男性陣から質問攻めになるのだろう。だけど、ここにいるのは変なロードバイクマニアのオッサン集団だ。
私と木野さんと北見さんの3人はひまりちゃんのロードバイクに群がった。ひまりちゃんのロードバイクが長距離や荒れた路面で楽に走れる様に設計されているエンデュランスモデルだったからだ。一般的には珍しくないロードバイクだが、ホビーレーサーはあまり購入しないタイプなので、どうしても気になってしまう。
「エンデュランスモデルですよ。レース会場では見かけないから、近場で見れて感動ですよぉ」
「見どころはここだな。ここに振動吸収機構が組み込まれているのさ」
「なんだか特殊メカが満載で結構熱いですね」
「レースモデルは空力を追求して似たような形状ばかりですけど、エンデュランスモデルは複雑な形状でたまりませんなぁ」
「メーカーによって設計思考に違いがあってロマンがあるよな!」
「楽に走る為のロードバイクの方が凄い機構が満載なのは不思議ですね」
「こいつは楽に走る為のバイクじゃない。石畳の上を速く走る為のレースマシンなんだぜ」
私と木野さんと北見さんの3人で熱く語る。ひまりちゃんのロードバイクは、ただのエンデュランスモデルではなく、石畳区間があるクラシックレースで勝利する為のレーシングバイクだったから尚更だ。
「ちょっと! 鈴木さんを放置して何3人で盛り上がっているのよ!」
西野に注意される。すっかり忘れていた。西野と南原さんが相手してくれてると思って安心してたからかな。
「ロードバイク談義で盛り上がって放置して済まなかったな、ひまりちゃん」
「ひまりちゃん?! なんで知り合ったばかりなのに名前呼びなのよ!」
西野に詰め寄られる。困ったな。前回参加したレース会場で南原さんをからかう為に「ひまりちゃん」と呼んだ事が裏目に出たか。今更呼び方を変更するのも不自然だよな。
「南原さんがそう呼んでいたから合わせただけだよ。ノノと同じであだ名みたいなものだ」
「本当なの南原!」
私の苦し紛れの説明を聞いた西野が、今度は南原さんに詰め寄る。
「本当です。自分が本名を聞く前にひまりちゃんと紹介したので……」
「本名を聞く前? 南原と鈴木さんはどの様な関係なの?」
「……この前のレース会場で知り合ったばかりです」
西野に問い詰められて、南原さんが鈴木さんとの関係を渋々話した。ひまりちゃんは南原さんと親しげに話していたが初対面だったのか。南原さんは、この前の私と木野さんのレースを見ないでナンパしていた? それは流石に想像出来ないな……
「ごめんなさぁい。私が気軽に話かけちゃったから誤解させちゃいましたか?」
ひまりちゃんが可愛い声で謝る。これが男性陣だけなら和むのだろうな。
「猛士ぃ~。何も確認しないで連れて来たの?」
「まぁ、良いではないか。悪い人じゃない事は確認済だ。年齢が近い南原さんに任せるよ」
「南原が責任とるなら良いわよ。泣かせるんじゃないわよ」
「分かりました。頑張ります」
「ありがとう御座いますぅ、猛士さん!」
「猛士さん?! 名前で呼ばせているの?」
「呼ばせてはいない。呼ばれているだけだ」
最早何を言っているのか自分でも分からない。西野がひまりちゃんを嫌がっているのか歓迎しているのか分からない。放置しても、親し気にしても不満なようだ。
「4人揃って何やってるんだよ。木野君が暇そうにしているぞ」
北見さんに指摘されて放置された木野さんに気付く。
「済まない。それでは走りに行こうか」
私の合図で峠を走り始めた。いつものメンバーはさっさと視界から消えてしまった。上り坂で遅いのは私と……ひまりちゃんか。
ひまりちゃんはレースをしない人なので、あまり速くはなかった。具体的に言うと、私と同じ程度の走力だ。つまり、私はひまりちゃんの後ろに張り付いて走っている。南原さんに任せると言っておきながら、結局私とひまりちゃんの二人で走っている。これはかなり恥ずかしい状況だな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます