第36話 忘年会と完成したチームジャージ
東尾師匠のレース終了後、表彰式に参加した。ビギナークラスで3位に入った木野さんが表彰されるからだ。
1位の人から次々に名前を呼ばれて表彰台に上がる。そして、3位の木野さんが最後に名前を呼ばれて表彰台に立った。私達5人で木野さんの雄姿を写真に収める。
数日後には立ち上げたチームブログに活動記録が上がるだろう。気を使いすぎる木野さんの事だ。自分自身の3位入賞より、私のアシストを大々的に記事にするだろう。そう思うと少し恥ずかし思いがこみ上げてくる。
でも、それも良いか……西野の言う通り私が負けながらも活躍する姿を見て、ロードレースを始める人が増えるかもしれない。それならチームの広報役としては十分な働きだ。
表彰台の上で木野さんが最高の笑顔を浮かべている。木野さんだけではない。私達にとっては、一番下のクラスで3位でも最高に嬉しい瞬間だ。この思いを多くの人に伝えられたら良いなーー
表彰式が終了した後、チームメンバーで忘年会の約束をした。今年のレースは今日が最後だからだ。意外だったが幹事は西野が名乗りを上げた。どうやら行きたいお店が決まっているようだ。
そして、お互いの健闘を称えて帰路についたのであった。
*
忘年会の会場は中華料理店だった。私は初めてだが、西野にとっては打ち上げの定番らしい。西野が予約したお店に、北見さん、東尾師匠、南原さん、木野さんと一緒に来ている。
「全員成人しているし、とりあえず生6つで良いか?」
北見さんが飲み物のオーダー確認をする。希望が無ければ、とりあえず生ビールを注文する予定の様だ。
「私はコーラで」
「自分は烏龍茶で」
私は筋肉に悪影響があるからお酒関係は避ける様にしている。同じ筋肉系の南原さんも烏龍茶を頼んだので、同じ思いなのだろう。
「なんだ中杉君と南原君は飲めんのか?」
「猛士が飲めないなんて意外ね」
北見さんと西野に驚かれる。南原さんは兎も角、中年男性の私がお酒を飲まないのは意外と思われるようだ。
「お酒は筋肉に悪いから飲まない様にしている」
「自分も同じです。お酒より筋肉が大事です」
私がお酒を飲まない理由を説明すると、南原さんも同意した。やはり、想像通り南原さんも同じ思いだったか。
「うっわぁ、筋肉マニアか! そんなに気を使わなくても大丈夫だろ?」
「駄目です、筋肉は繊細なんです。気にかけて下さい」
大げさに冷やかす北見さんを、南原が真顔で否定する。
「レースにかける意気込みが感じられて良いな。俺もコーラにするぜ」
師匠も筋肉系メンバーに同意する。小柄だけど師匠も筋肉系のサイクリストだからな。
「僕は生で大丈夫です!」
木野さんの返事が空しく響く。一番まともな発言なのだけど、何故か浮いて見える。
「あぁ、グダグダね」
西野が呆れる。
「まぁ、高校生の部活の打ち上げ気分で良いではないか」
「そんなもんかねぇ」
部活気分で楽しそうにする私を見て、北見さんがぼやいた。
結局、私と師匠と南原さんの筋肉系サイクリストの3人はお酒を注文せず、西野、北見さん、木野さんの3人だけ生ビールを注文した。料理については西野にお任せだ。
エビチリ、チャーハン、麻婆豆腐、エビチリ、
西野の手元を見るとエビチリが大量に積まれている。西野はエビチリが好きだったのだな。一部料理の偏りがあったが、皆で料理を取り分けながら、今年のレースについて楽しく話あった。
そして、楽しい忘年会が終わり店を出た所で、今日のメインイベント……チームジャージのお披露目だ! 北見さんが全員にチームジャージを配布する。これが私達のチームジャージか。
ジャージを掲げて出来栄えを確認する。ベースカラーは赤色で文字は黒で縁取りされた金色か……派手で良いな! 背中にはチーム名であり、いつまでも仲間と楽しく走りたいとの思いを込めた『いつも一緒』の文字が書かれている。筆で大きく書かれると、とても素晴らしい言葉に見える。更に右袖口に『always』、左の袖口に『together』とチーム名の『いつも一緒』の英文が書かれている。
「まったり系のデザインになるかと思ったが、結構カッコよくなったな」
「そうですね。チーム名だけ聞いたらツーリングクラブみたいですからね」
北見さんと南原さんがチームジャージの感想を言う。
「格好良く見える様に、文字の配列は拘ったわよ。一応レーシングチームだからね」
「カラーは俺の好みで選んだけどな」
デザインは西野と師匠が考えてくれたのだよな。
「みんなのお陰だよ」
私は皆にお礼を言った。皆のお陰で最高のチームジャージが完成したのだから。
「来季のレースはこれを皆で着て走るのですねぇ」
木野さんが感慨深い顔でジャージを見つめている。木野さんは今まで一人でレースに参加していたと言っていたからな。だけど、これからは私達が『いつも一緒』にレースに参加するのだ。
「あぁ、これからはチームとしてのレース参加が増えるな」
私もこれから袖を通す、自分のチームジャージを眺めながら、来年参加するレースに想いを馳せた。
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