星空のステージで歌う君に

まさな

プロローグ

「だから、あなたと月野つきの明莉あかりはもうここで終わりなんです」


 彼女が言った。

 ここはステージのバックヤードの暗がりで、近くには誰もいない。

 重大なことを話しているというのに、彼女の表情はとても幸せそうで、晴れやかだった。

 とてもこれから一人のアイドルを世界から消し去ってしまおうという深刻さはどこにもない。

 だからこそ、僕は恐ろしかった。


「……やめろ。そんな事をしたら、今まで明莉のことを想って応援してくれた人達は、どうなる」


 僕は震える声を絞り出す。それだけは、絶対にダメだ。


「はい。怒ったり悲しんだりする人もいるかもしれません。でも、それは永遠なんかじゃありませんよ。人はいつか死ぬんですから。アイドルだって同じです」


 確かにそれはそうだ。人間の命は永遠などではない。アイドルの命はさらに短く儚い。彼女達は彗星の如く地上に現れ、必ずいつかは消えていく。

 だけど、それは人気を失ったり時代の流れによってなされるべきものだ。

 決して、誰かの私心で、だまし討ちで無理矢理に刺し殺すようなことがあっていいわけがない。


「月野明莉の代わりはいくらでもいるんですよ?」


「そんなわけは無い! 少なくとも僕にとっては月野明莉が最高のアイドルなんだ。人生で初めて憧れたアイドルなんだ。それを君は……」


「もうそろそろ時間ですね。あなたはそこで見ていて下さい。月野明莉の最後のステージを」


 きらめく短剣を握りしめ、スポットライトの向こうへ走り出す彼女。

 僕は止める事ができなかった。

 どうしてこうなってしまったのだろう。

 どうして彼女はそうなってしまったのだろう。

 わからなかった。


 僕は事の発端、最初に月野明莉と出会った日のことを、思いだそうとした。

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