第35話 遠く



フリーウェイを右に折れると

海に向かう道に出る


ターミナルと長い煙突が並ぶ

川沿いの国道をひたすらに走ると

工場地帯は無くなり

海が見える


そこから更に海沿いに走ると

都会の喧騒も無くなり

浜に並ぶ民家を見る


浜から見る空は灰色

振り返れば遠く灰色の町に民家が並ぶ


海にも浜にも

彼方に見える島磯にも

既に飛ぶ鳥は無く

静かに寄せては引く波の音だけ


遠い昔

絵の具の好きな色だけを混ぜた事

どんなに素敵な色になるのだろうと期待した事

そこに見た色はグレーだった事


何もかもが混ざり合った時間

何もかもを許容してくれる時間

全てが許された時間


素敵な灰色の空

愛する灰色の町


苦しかった片想いの時よ

この場所に捨てていかなければ

長い冬を越せそうにない

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る