4話
「さて、新入生の優樹はこっちだな。」
阿須那父さんに連れられ、保護者とその親(時折祖父母)+その子の視線がやけに背中に集まって来るのを感じつつ、歩を進める。これは気にしたら負け、かな。
恐らく僕の身長が年齢より低身長なのが気になるのかも知れない。もしくは阿須那父さんと連れ歩くから余計目立つのかも。
阿須那父さんは元母と離婚後、僕と陽平さんと阿須那父さんの三人で同居し始めた頃…掃除やら家事がロクに出来ない僕達を見兼ね、当初は次の転職が決まるまでと家政婦さんの代わりに住み込むことに決めたらしい。それが諸々あって陽平さんの恋心が再発?し、あっという間に恋仲に発展。
結婚となった。
そして、陽平父さんと付き合い出した頃から阿須那父さんは息子の僕の目から見ても妙に色気が増し、更には陽平父さんプロデュースの以前のちょっとダサめなおじさん風な服装から一変。
小洒落た何処か艶のある大人の男性へと劇的な変貌を遂げた。
ついでに僕のダサい服も一気に変貌を遂げたのは、やはりと言うか何というか、陽平父さんのお陰だったりする。
「父さんやけに詳しい?もしかして前に来たことある?」
「前日にパンフレット読んだからな。」
大事な一人息子の学校だからな、何かあったらって思ったら予備知識ぐらいは頭に詰め込んでおきたいし。等と言って僕の頭を優しくひと撫でした。
うん、僕甘やかされているよねぇ。
こうやって父さん達に甘やかされて撫でられるのは気に入っているから、素直に撫でられるままの僕。本当は高校行ってからそろそろこの甘え癖は卒業したいなって思うのだけど、まだいいかなって思って居る。他に学生が居ても気にしない。
父さん達に甘えるためならまだまだ子供って言う利点を利用しても恥ずかしくはないし、平気なのです。むしろ積極的に甘えに行きますよ。
中学の同級生等には「優樹はまだまだお子様だよな」って言われていたけど、僕は父さん達の一生涯の子供ですから未成年のうちは甘えん坊なのです。
にへへへと緩んだ笑みを浮かべていると、彼方此方からやけに視線を感じる。
僕変な顔しているのかな?甘えているだけだと思うのだけど。
阿須那父さんと一緒だから、かな?
それでも陽平父さんの睨みが未だ効いているのか特に誰も話し掛けて来ず、生徒用の玄関で阿須那父さんと別れてから校舎に入って移動する。因みに阿須那父さんや他の家族の親達は別の通路を通ってさっさと体育館へと移動するらしく、係の人が移動整理をしていた。
その移動の波を何となく見詰めてから下駄箱に移動し、手に持っていた学校指定の上履きへと履き替える。
「へぇ、君、一戸先生の息子さん?」
「え」
一戸って言うのは陽平父さんのことだ。
夫婦別姓。あ、夫夫別姓か。
父さん達は結婚してからも前の名字のままで居てくれたので僕の名字の変更は無く、僕は倉敷のままで通している。ついでに言うと、息子は息子でも正式には陽平父さんにとっては義理の息子。
出来たら元母より陽平父さんの本当の息子になりたいよ。まぁ無理だし、仕方無いから力一杯甘えまくって両父親から失笑を貰ったりしているけどね。
「へ~…可愛いね。」
僕をジッと見詰めるのは、とても綺麗な顔付きのイケメン…あ、違った。スカート履いている。という事は女生徒か。日本人特有の真っ黒な髪の色とは違って、ほんのりと色が入ったような栗色の髪色に、茶色の瞳。顔付きは日本人なのだけど、ちょっとだけ色素が抜けていて異国人のように見える。そして、何よりも特徴的なのがその中性的な顔立ち。
まるで宝塚の男性役の女優さんみたい。
「は~一緒に住んでいる一戸先生とっても羨ましいなぁ、すっごい可愛い。滅茶苦茶可愛い。こんな子が弟とか兄弟だったら夢のようなのに~!目に入れても痛くないって本当だったってことか~。」
「は、い?」
僕が目に入れても痛くない?ナニソレ?孫へ対する祖父母みたいな台詞。
あ、やだ、元祖母思い出しちゃったよ。
むむぅ。
「一戸先生の息子さんがこんなに可愛いなんて、α共は苦労しそうだなぁ。」
うんうんと一人腕を組んで佇む宝塚の男性役風の女生徒。
どういうこと?と思って小首を傾げると、「か~!その仕草に胸が貫かれるぅ!」とその場に自身の胸元を押さえて蹲る。え、何々、何事?というか、台詞がおっさん臭いよこの宝塚の男性役みたいな女生徒。キラキライケメン風な見た目裏切っているよ。
「ええと、君…」
「あああ!ゴメン!自己紹介がまだだったね!私は杏花音!杏と花と音って書いてあかねってよむの!名字は叔父さんと同じ一戸。一戸先生の遠い、と~ぉ~い親戚!」
その場でくっそ血筋遠すぎる!諸々残念!と項垂れる宝塚の男性役みたいな女生徒に、僕はどうしたら良いのかわからない。困惑中。
それは兎も角、この人ほんっとイケメンみたいだけどαなのかな?僕まだαって会ったことが無い。家にはαみたいな陽平父さんが居るけどβだし、阿須那父さんはどっちかって言うとΩみたいなβだし。Ωって発覚してから何となく人と接触するのが怖くなって、以前のように活発に外へ行かなくなったからαとの接触はほぼ無いと思う。
この世界のαっていうのは言わば王様みたいなもので、とっても優秀な人が多いらしい。
大抵の会社のトップ等はαが占めているし、権力者って言うのもほぼα。次がβになる。僕みたいなΩって言うのはほぼ居ない。それはΩ特有の性格のせいもあるけど、殆どがαがΩを囲ってしまうからだと言われている。
その囲い方も上位αになると特に強く雁字搦めにして囲い込むらしく、囲われたΩはほぼ家から出られなくなるとか。
「陽平父さんの。」
「そそそそ!だからね、お願い!」
ガシィッと僕の片手を彼女の両手で確りと握り締め、
「私のことを是非!杏花音お姉さまってよんで!」
…。
……。
シーンとなった生徒入口玄関。
ああ、これは余程注目されているってことなんだよね。
そしてこの陽平父さんの遠い?らしい親戚の女生徒、多分気が付いていない。というか、自分の世界にドップリ浸かっちゃっている。
よし、冷静になろう。
「嫌です。」
「即答で拒否キタァァァ!」
絶望ー!と喚きその場で大袈裟に項垂れる杏花音さん。
オーバー過ぎませんかね?
「取り敢えず悪目立ちするので立ち上がってくれません?」
「存外冷たい台詞キタコレ。」
「はい、身体動かす。」
「うっひょ、まじ可愛い顔して冷静、沈着。お姉さん何かに目覚めそうで怖いっ」
何だかプルプルしている杏花音さん。
その仕草のがちょっと怖いんだけど。
初対面でこの対応って、この人大丈夫だろうか。と言うか、シーンとし過ぎでしょう周囲。
あと僕、可愛いではなくて、童顔なだけじゃないかなって思うけど。ちょっと前まで中学生だったわけだし、うんうん、きっとそう。だからそんなに注目しないで欲しいなぁ、そして何度も言うけど皆こっちを見過ぎじゃない?
「あーそこのレズプレイ中の子達、目の保養だけど玄関入り口の中央だと皆の迷惑になるからさ、お喋りするならもう少し端に寄ってね~。」
上級生のαかな?と思わしき男子生徒が此方をニッコリと微笑みつつも端へと圧力?で誘導を掛け、僕ら二人は失礼しましたと謝りつつ移動する。
と、言うか。
「Ω?」
「そそ、皆、えーとΩとかβ達からはαと勘違いされるけど、流石にαにはわかっちゃうか~。」
かんらかんらと笑いつつ、一戸さんは確りと僕の右手を握り締めたままで先程注意されたαの男子生徒へと軽く会釈をする。
「悪かった、でもレズプレイなんて初めて言われた。」
※ ※ ※
・お願い
7行目部分の『陽平さん』と書かれている部分はわざとです。
結婚前は父親ではありませんので。
この部分の誤字報告は何度も指摘せぬようにお願い致します。
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