勇者、などではなく
桜居春香
邂逅
今まで、何人もの戦士と刃を交えてきた。自ら剣を取り、外敵である我ら魔族へと立ち向かう勇気ある人間たち。彼らは皆、死への恐怖を抱えながらも「戦う理由」を持っていた。家族を守る為、巨額の報酬を得る為、栄誉を手にする為、強者の証明を得る為……「戦う理由」はそれぞれだ。そして、私にはどれも関係のないこと。立ち向かってくるならば戦うだけのこと。そうしてこれまで、何人もの戦士を葬り去ってきた。そう、何度も。
だが、これはどういうことだ。今、私の前に立つこの男は、そんな戦士たちの頂点に立つ勇者のはずだ。これまで我ら魔族と死闘を繰り広げ、そして死んでいった先代勇者たちの力を受け継ぎ、最強の人間として生まれた新たな勇者。そのはずだ。そうでなければ、これまで誰一人として到達し得なかった我が魔王城の玉座へ、単身乗り込めるような実力があるはずもない。
それなのに私は、目の前に居るその男を勇者と認めかねていた。無論、実力は確かだろう。それは、こうして向かい合っているだけでよく分かる。だが、それと同時に違和感が襲う。この男、何かが欠けている。
「よく来たな、勇者シシア。この部屋、我が玉座の前に辿り着いた人間は、シシア、貴様が初めてだ」
「…………」
「……既に魔王軍は崩壊寸前だ。我らの一騎打ちは避けられまい。しかし、その前に一つ、尋ねておきたいことがある」
無言のまま剣を握りしめ、勇者は私を睨みつけている。その目を真っ直ぐに見つめ返しながら、私は一つの問いを投げかけた。
「貴様、何故そんなに怯えている?」
「ッ……!」
「殺し合いに挑むのだ、怯える気持ちは分かる。しかし解せないのは、貴様が怯えてばかりだということだ。貴様からは『戦う理由』を感じられない。貴様から感じるのは『死にたくない』という怯えばかりだ。何故そんな臆病者が、私の前に現れる」
「……ああそうだ、死にたくない。だから、僕が殺される前に魔王、お前を殺す」
「そうか、ならば私も応えよう。最期まで足掻いてみせろ、勇者!」
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