第21話 誤解


「…………は?」


 私?

 なぜ唐突に私の話になったの?


 私が急な話の展開についていけずに意味が分かっていないことを勘違いしたようなデュークに、がしぃっと両肩を両手で掴まれた。

 至近距離の彼の真剣な表情に、思わず息をのむ。


「家同士のため!? そんな理由で俺がカリンと結婚したいと思ってるわけないだろ? どれだけ俺がこうなるのを待ち望んでいたことか……っ、思い返してもくれない好きな人を追いかけるだけの人生って!? 昔はともかく、君は俺を今は好きでいてくれるんじゃないのか!? 確かに俺はずっと君のことを追いかけていたからそう見えていたかもしれないけれど」

「あの、話がよく……」

「わからないのは俺の方だよ。どういうこと? カリン、他に誰か好きな人いるのか?! それなら俺、勝手に勘違いしていた恥ずかしいだけの男じゃないか」

 

 勘違いしていた恥ずかしいだけの男?

 何をどう勘違いしていたというのだろう。ということは、私の気持ちを知ってから婚約を申し込んだというのだろうか。

 それ自体があり得ないはずのことなのに。


「あの、私、貴方のことを好きなんて言ったことないのですけれど」


 確かに私の想う人は目の前のデュークである。

 しかし、姉の恋人に懸想するようなこと、絶対外に漏れないようにしていたはずなのに、そんなに自分はわかりやすかったのだろうか。

 私はただ、そのことが恥ずかしくて訊ねたかっただけなのに、それを否定の言葉だと勘違いしたらしいデュークが目に見えて落ち込んだ。


「頼むからカリン、俺のことを見捨てないでくれ。君にふさわしい男になれるようもっと努力するから。好きになってくれ……っ」

「デューク?!」


 見捨てるもなにも、もう結婚をするって決まっている相手に、このように愛を乞う必要なんてあるのだろうか。みっともないくらいに。


 デュークって、こんな人だったろうか。

 元々顔立ちがいいため、必死になって迫られると凄みがすごいし、悲壮感も甚だしい。もっと落ち着いていて、大人だと思っていたのだけれど。

 これではまるで、初めて出会った時に、泣く私の前でなすすべもなく立ち尽くす、あの男の子のままではないか。


「私が貴方を好きになる前に、貴方だって私のことを、好きでもなんでもないですよね?」

「好きだよ!」

「…………え?」

「なんで今さら驚いているんだ?」


 え、なにを言ってるの? みたいに既知のことのように言われても困る。

 とりあえず、話を戻して整理しようと、私は掴んでいたブレスレットを彼にもう一度見せた。


「このブレスレット、誰に渡すつもりで買ったんですか? 女物ですよね」

「これ……前に俺が選んだ、君が好きそうなブレスレットだよ。覚えてないかな。初めてデートした時のこと」


 一人だけデートだと思っていたけれど、ちゃんとデュークもあの買い物した日のことをデートだと思ってくれていたのかと思うと、ほわりと胸の中が温かくなってきたけれど、今はそれどころではない。


「そういえば、そんなことありましたね……でもなんでそれを買ってたんですか?」

「…………ヨーランダのプレゼントに合わせて、君にもプレゼントしたかったけれど、君に理由もなくそういうのを贈ると重すぎるかなって……。渡すのを悩んで、悩んで……」



 今に至る、と。



「ばれたっていうのは……」

「君に贈ろうというタイミングを見計らっていたことだよ。あの時に勢いで渡した方がよかったんだろうけれどさ……」


 ああ、そういうことか。


「渡せなくてうじうじしてるのを、知られてたのかと思って焦った……けど、君はそんな意地悪な人じゃなかったね。ごめん」


 結局、ここで知られてしまったのだけれど、とますますへこんでいる彼を慰めようがなくてどうしようもない。


「そんなに気にしたり悩んだりしなくても……」


 デュークは色々と気を回し、回しすぎて空回りしているように思えて仕方がない。


「君からしたら、そう思うようなことかもしれないけど、俺にはそうだったんだよ」

「…………」

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