第10話:騎士は有名イベントに遭遇する
ギーザの混乱が落ち着くのを待ってから、俺はこの世界のことを彼女に説明した。
ここがゲームの世界であること。ただ俺の行動で、展開がかなり変わっていることを話せば、彼女は合点がいったという顔で頷く。
「悪役令嬢なのに悪役要素と破滅フラグが見えない! って思ったのは、アシュレイが折ってくれてたからなのね」
「記憶が戻るとは思ってなかったけど、ギーザに転生したのはわかってたから、どうしてもそのままに出来なくて……」
「ありがとう。おかげでお父様もお母様も幸せだし、セシリアとも仲良くやれてるのね」
お礼を言われると、これまでの苦労が報われた気持ちになる。
「けど色々納得だわ。赤ちゃんの時から求婚されてたって聞いてさすがにちょっと引いてたんだけど、そういうことかー」
「ひ、引いてたんだ……」
「うん。それに幼女趣味だったらどうしようって思ってたの。私ほら、もう大きいし」
「安心してくれ、幼女趣味じゃない」
「わかってるわよ。私を守るために、一芝居打ってくれてたのよね」
ありがとうと再度お礼を言われたところで、俺はふと気づく。
「一芝居?」
「私を好きだっていうふりよ。フラグを折るためにそういうことにしたんでしょ?」
「んっ?」
「えっ?」
ギーザのきょとんとした顔を見て、俺は硬直する。
これはもしかして、あれか?
ギーザの時に上げた好感度が、完全にリセットされているのか?
いやまあ嫁の俺への好感度が0だったことを考えると当たり前だが、可愛らしくキスしてくれたこともなかったことにされているのではと不安になる。
そしてその不安は、見事的中していた。
「でも安心して。これからは、自分のフラグは全部自分で折るから。だからアシュレイはアシュレイとして、自分のために生きて」
「いや、それは!」
「もちろんあなたがしてくれた事は忘れないし、ちゃんと恩返しもするわ。でももう私に構わなくて良いの」
「恩返しなんて必要ない。全部好きでやったことだし、俺はただ、これからも君と一緒にいられればいいんだ」
「いやいやいや、あなたは攻略キャラでしょう? 悪役の私に構ってる暇があったら、ヒロインとのエンディングを目指しなさいよ」
ゲームではそうだったとしても、俺はヒロインのセシリアにまだ会ったこともないし、何より彼女に対してまつげ一本分の興味もない。
「ヒロインなんてどうでも良いんだよ俺は!!」
「あ、じゃあマル狙い? それともカイン?」
「俺は異性愛者だ」
「あ、そうよね。現実とごっちゃにしちゃ駄目よね。普通に、女の子の恋人がいるわよね」
「……俺は、君と婚約してたんだが」
「ええ。でも安心して、破棄してあげるから!」
曇りのない笑顔で、ギーザが言い切った。
あまりに眩しいその笑顔を見た瞬間、情けないことに、俺の右眼からつーっと涙がこぼれた。
嫁が、俺のことをまったく好きではなかったと言う事実が急に胸に来て、止める間もなく涙がこぼれていたのだ。
何とか一筋ですんだのが奇跡だ。
「婚約破棄イベントって……たしかに……辛いな……」
だとしたら、それをギーザが体験しなくて良かった。
それだけでも、きっと俺が頑張った意味はあったのだと、無理矢理思い込む。
「マルやっぱり俺……帰る」
「おい、帰るってどこに……」
「……夜の街に」
悲しみのあまり自分で何を言っているのかまったくわからなかったが、これ以上ギーザの側にいるのが辛くて俺はマルの家を出た。
「もう、今夜は飲もう……。死ぬまで飲もう……」
悪魔が憑依しても生き残ってしまった俺が酒で死ねるかどうかはわからないが、とにかく飲もうと決めて、俺はフラフラと夜の街をさまよい始めた。
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