ジェイド居場所を特定しよう

「おいコラ、ジェイドの居場所を吐け」

「ひぃ!!!」



 レミリアさんとその他二人が領主に詰め寄りジェイドの情報を吐かせようとしていた。

 三人に言い寄られた領主は涙目で今にも漏らしてしまいそうな感じだ。

 いや、あれはもう手遅れっぽい。ズボンがびしょびしょになってる。

 領主には同情するしかない。

 だって、一つの街を一瞬にして破壊してしまう人が目の前にいて、しかもその人に脅されているのだから。



「は、話す! 全部話すから! どうか! どうか命だけは!」

「別に殺しゃしねぇよ。正直に話すならな。ジェイドの野郎はどこにいる?」

「や、奴が今どこにいるかは……知らない」

「あ? やっぱ死んどくか?」

「ひぃいいいい!! ほ、本当に知らない! 知らないんだ!」

「じゃあ、なんでここに翡翠の妖狐の連中がいた? それにジェイドがここにいたって情報はアンタが流した情報だろう? 一体、いつ奴に頼まれた」

「き、昨日の夜だ。ここに俺がいたという情報を騎士団に流せと頼まれた」

「その言い方だと。アンタはジェイドに直接会ったのか?」

「あ、ああ」

「なら、奴はグリモワールを持っていたか?」

「な、なぜ貴様らがそれを……!?」



 私は領主のその物言いに少し引っかかりを覚えた。



「あ? なんだその反応」



 それはレミリアさんも同じだったようだ。



「い、いや……」

「おい、知ってることは全部話すんじゃなかったのか?」

「っく! あ、あれは私がカルデネ洞窟の奥で見つけたものだ。どこから情報を得たのか、ジェイドがそれを買うと言って来たんだ。だから、私はそれを売った。それだけだ……」

「地底都市でグリモワールを持って行ったのは翡翠の妖狐じゃなくて、アンタだったのか。まぁ、今更どっちが先でも大差ないが……」

「ひっ!」



 レミリアさんに睨みつけられた領主は身をすくめた。



「お前、グリモワールの発見を隠蔽したな?」

「はい……」



 レミリアさんに隠し事は出来ないと領主は全てを話した。

 ユミル近くの洞窟からグリモワールを発見した領主はそれを騎士団には報告しなかった。

 理由はグリモワールが闇市で、高額で取引されていると知ったからだそうだ。

 闇市にグリモワールを出品したところ、それをジェイドが買い取ったとのこと。取引相手がテロリストだと知っていた領主だったが、金に目が眩んで取引をしてしまったのだと言う。



「それで、お前が発掘したと言うグリモワールはどんなんだ?」

「どんなんだ? って言われても……特徴的なものは何も……いや、狐! そうだ。狐の紋様が表紙に刻まれていた!」

「狐……?」



 あまりピンと来ていないレミリアさんは首を傾げた。

 けど、私はそれを知っている。



「それってもしかして……」

「なんだ、知っているのか?」

「これはあくまで都市伝説なので何の確証もないのですが、もし本当に狐の紋様が刻まれていたとしたら、それは大罪魔法の一つ、代償を払うことであらゆる願いを実現させることの出来る禁術魔法、強欲の天秤アワリティア・リーブラかもしれません」

「強欲の天秤だと? っち」



 それだけでレミリアさんは事の重大性を理解した。

 領主も大罪魔法の名を聞いて自分がした愚かさを悔いていた。



「な、なんだよ、みんなして。強欲の天秤が何だってんだ?」

「うんうん」



 当然、ゼルとヘイヴィアは知らない。相変わらずの無知だ。



「大罪魔法って言うのはね、それ一つで大国をも滅ぼすことの出来る、禁術魔法の頂点に位置する大魔法のことだよ。その中でも強欲の天秤アワリティア・リーブラってのがもっと最悪なんだよ。この魔法を発動させる条件である代償って言うのは自分以外も含まれるの。だから、魔法の結果に関わらず、その代償だけで帝国民全員の命を生贄に出来てしまうってとこなの」

「え、それってヤバいじゃん」

 


 だからさっきっからそう言ってんじゃん。



「だが、それが分かったところで、ジェイドの居場所が分からないんじゃ話にならない。大罪魔法を手にして最初にすることって言えば、封印を解くことか?」

「もしそうなら、向かう場所は古代ミケラ文明の遺跡しか考えられないんですけど」

「っつっても国内だけで四か所、いやカルデネ洞窟を含めて五か所か」

「騎士団本部に連絡して増員は出来ないんですか?」

「無理だな。理由は今朝と変わらん」

「でも、領主が言ってたって言えば……」

「一度嘘をついた人間の話を信じると思うか? 上層部は頭の固い連中ばっかなのはもうしってんだろ?」



 レミリアさんの言う通りだ。

 なら、ここにいる四人で何とかしないといけない。



「クッソ候補が多い。何とか絞れねぇか。あいつらが時間稼ぎをしようとしていたことを考えるなら、ここから一番遠い遺跡か」



 普通に考えるならそうだろう。

 でも、今までの情報から考えるにジェイドって男はそんな単純な人じゃないと思う。

 逆に一番近い場所? うんん、それならもうとっくに封印を解いて大罪魔法を使ってるはず。国内で大量虐殺が起きていないことを考えれば、まだ封印が解けてないってことになる。

 昨日の夜は間違いなくここにいたことを考えるなら、まだ、遺跡についてなくて向かっている途中? なら、やっぱりここから一番遠い場所?

 あー! もう分かんない!

 どうにも何か考慮してないピースがある気がする。



「………………………あ」



 そうだ。そもそもどうやって封印を解くのだろうか?

 大罪魔法について私たちが知っていることはそんなに多くない。

 ミケラ文明の遺跡は関係なくどこでも封印を解くことが出来る? うんん、それはないと思う。それなら、もうとっくに封印は解かれていると思う。それに、実際に大聖堂の中にある祭壇を見たから分かる。あそこには特別な魔方陣が描かれていた。多分、あれは封印解除に必須だと思う。

 それなら他にも封印解除に必要なものがあるって考えられない?

 古代ミケラ文明……あそこにあったのは……大聖堂……神殿……月光石……月?



「そうか! 分かった!」

「分かったんです。ジェイドがいるかもしれない場所が」

「本当か!?」

「多分ですけど……」



 私は部屋にあった地図を広げる。



「まず、大前提として大罪魔法の封印を解くためには古代ミケラ文明の遺跡であること、そしてカリスト帝国内であること。この二つは絶対条件です」

「そうだな。国外に出るのはリスクが伴う。そうなると五か所だな」



 そうして、レミリアさんはその五か所に印を付けていく。



「でも、カルデネ洞窟のものに関しては、今は騎士団本部が調査の為封鎖しています。なので、ここはあり得ません」



 私はレミリアさんの付けた印の上にバツ印を書く。



「それと現在もまだ封印を解かれていないことを考えると、昨日の夜から移動していける場所は除外されます。それから私たちの連絡が途絶えてから、騎士団本部が動き、ジェイドを補足できるまで最短でおおよそ二日。なので、それを加味すると、ここから三日かかる場所へ行くには時間が足りません」

「確かにそうだな。そうなると残り二か所か」

「そして、最後に重要となるのが、封印を解くための条件です」

「条件? 古代ミケラ文明の遺跡以外にあるのか?」

「これは憶測なのですが、古代ミケラ文明に月が大きく関わっています。なので、封印を解くためには月の光が必要なのではないでしょうか?」

「月……そうか、古代ミケラ文明は月から来たとも言われているな」

「はい、なので、最短で封印を解除しようとするためには、昨日の夜に出発して今日の夜までに着ける場所」



 私はその一か所に丸をつける。



「ここ、ディオナ神殿です」

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