第七師団親睦会Ⅰ

「あははははは! 散々な初任務だったね」



 捕虜の引き渡しが完了し、第七師団支部に戻った私たちの報告を聞いたレミリアさんは口を大きく開けて笑い転げた。



「あの、笑い事ではないんですけど……」

「なんでだ? 村の人たちはちゃんと守ったんだろ? なら、いい事じゃないか」

「それはそうですけど……」

「入団初日でここまで出来たのはすごいことだぞ? なぁ、お前もそう思うだろ、ベルヴェット」



 そうレミリアさんが声をかけたのは、狼の獣人、ワーウルフの青年。



「ん? ああ、そうだな。初任務にしては充分すぎる活躍だ」



 ベルヴェットさんは眼鏡をくいっと上げながら、至って平静にクールに話す。

 そう、クールで知的な雰囲気を醸し出しているんだけど……。

 なんで裸なの!? 目のやり場に困るんですけど!

 私はなるべくベルヴェットさんの方を見ないように気を付ける。



「と言うことだ。これから宴会をするってのにそんなしけた面じゃ、メシが不味くなる」

「え、宴会? 宴会って何ですか?」

「決まってんだろ。お前たち、新人の歓迎会だ。今ちょうどもう一人新人が買い出しに行ってる。そろそろ帰ってくると思うが……」

「ただいま戻りましたー」



 すると、丁度大荷物を抱えたヘイヴィアがアジトに帰ってきた。

 いつの間パシリ……いや、買い出しに行かされてたんだろう。



「あ、地味顔じゃん」

「誰が地味顔だ! 俺の名はヘイヴィアだ。ヘイヴィア・アークエイド。覚えておけ、ミドリムシ!」

「ミドリムシじゃねぇ! 俺はゼルだ! 地味顔!」

「だから、ヘイヴィアだっつってんだろうが!」



 顔を合わせるなり、またしても喧嘩を始める二人。



「おいおい、喧嘩もいいが、宴会の準備をするぞ。バーベキューだ! ヘイヴィア、食材を並べろ」

「あーはいはい。……と言うか、なんで新人の歓迎会なのに、その買い出しを新人の俺にやらせるんだよ」



 大量に買い込んだ食材を広げながら、ヘイヴィアはぶつくさと文句を言っていた。



「バーベキューだって!!!!???」



 バンっ! と奥の部屋の扉が勢いよく開かれ誰かが叫んだ。

 誰かと言ったのは、声は聞こえたがそこには誰もいなかったからだ。



「ん? なんだ? 勝手に扉が開いたぞ?」



 ゼルも不思議に思ったのか、奥の部屋へと続く扉の前まで行く。

 私もゼルの後に続いて、扉の前まで来た。



「建付けが悪いのか?」

「でも、声は聞こえたよ?」

「おい! どこ見てるのだ! こっちだこっち! 下なのだ!」

「下?」



 言われて下を向くと、そこには手の平サイズの小さな少女が仏頂面でこちらを見上げていた。



「わっ! ちっさ! なに? 迷子?」

「誰が、迷子だ! 私はこれでも立派な騎士なのだ」

「え、騎士……?」



 本当に? そんな視線をレミリアさんの方に向ける。



「ああ、ホントだぜ。そいつはミザリー・ランヴェート。小人族だ」



 小人族。見た目通り小柄な種族だけど、魔力量はエルフ族に引けを取らないって聞いたとがある。



「小人族ぅ~? そんなのが役に立つのかよ。一緒に戦いに出たら間違えて踏んじまいそうで心配だぜ」



 小人族だと聞いたヘイヴィアは彼女が騎士であることに疑問を持っており、彼女を小馬鹿にする。



「うるさいのだ」



 しかし、ミザリーさんはぴょんと跳ねてヘイヴィアの顔を思いっきり引っ叩いた。



「ぼばぁ!!!!」



 すると、ヘイヴィアは軽々と外まで吹き飛んだ。



「すご……」



 高い跳躍力もそうだけど、ビンタ一発で人一人を軽々と吹き飛ばせる腕力もすごい。

 多分、あれは身体強化魔法をかけているんだろう。それだけであそこまでの威力を引き出せるのは小人族の魔力量あってこそのものだろう。



「ふふ~ん、敬え愚民ども」



 私が感心していたことに気づいたのか、ミザリーさんはテーブルの上に着地し、自慢げに胸を大きくそらして尊大な態度を取る。



「なんか、この団、変な人ばっかじゃね? 外れか?」



 確かにゼルの言う通り、第七師団は噂にたがわぬ変人ぞろいの団だ。

 私、この団で上手くやっていける自信がちょっとない……。

 悪い人たちでないんだろうけど。



「あはは、ゴブリンがいるのだ。お前、めっちゃ醜い顔してるのだ。火傷でもした?」

「これ素顔なんだけど!?!?!」



 突然毒を吐き出したミザリーさんにゼルはツッコんだ。

 え、ゼルがツッコんでる……そんなことが起きるなんて……。第七師団、なんて恐ろしいところ……。



「なに!? この人いきなり失礼なんだが!?」



 そして、ゼルはレミリアさんに文句を言う。



「ちょっと口が悪いけど、腕は確かだから、大丈夫だ」

「何が大丈夫なんだよ!?」

「そのうちきっと仲良くできるから」



 元気出せ、って感じでレミリアさんはゼルの肩をポンポンと叩く。



「それより! バーベキューって聞こえたんだけど! 肉! 肉はないのだ!?」



 ミザリーさんはヘイヴィアの買ってきた食材にたかり、中を荒らし始める。



「おぉ、待て待て。まだ、準備をしてない。おい、新人。さっさとコンロの準備しろ」



 レミリアさんはミザリーさんに殴り飛ばされたヘイヴィアを叩き起こす。



「い、いでぇ……。というか、だからなんで新人の俺にやらせるんだよ……」

「お前の魔法ならコンロが作れるだろ?」

「そりゃあ、出来るけど」

「じゃあ、頼んだ」

「はいはい」



 仕方ないと言った風にヘイヴィアはアジトの庭に魔法で石造りのコンロを生成する。



「ふぇ~便利だなぁ~、お前の魔法」



 ヘイヴィアの魔法を見てゼルは感嘆の声を漏らした。



「ゴブリンごときに褒められても嬉しくはないが、ま、俺を敬うのであればその限りでもないがな」

「ドヤってるとこ悪いが、お前の魔法属性って土なのな」

「そうだが、それがどうした?」

「ぷぷー、顔だけじゃなくて魔法属性も地味なのかよ」



 ゼルはたまらず吹き出し、ヘイヴィアを馬鹿にする。

 確かに四大属性の火、水、風に比べて土は、地味っぽくはある。



「なんだと!? 土属性は応用力があって使い勝手のいい属性だぞ! 訂正しろ! 後、俺の顔は地味じゃない!」



 また喧嘩が始まってしまった。

 あれはもう止めるだけ無駄だろう。

 あの二人は根本的に相性が悪いんだと思う。



「~~♪ ~~♪」

「肉! 肉!」



 新人二人が喧嘩しているのをよそに、レミリアさんはご機嫌に火を起こし、肉を焼いている。

 その肩の上ではミザリーさんが酒瓶片手に肉が焼きあがるのを楽しみにしている。

 ……というか、ちょっと待って。



「ミザリーさん!? 足元のそれは何ですか!?」

「何って? 空の酒瓶だけど」



 ミザリーさんの足元、いや正確にはレミリアさんの足元には大量の酒瓶が転がっていた。



「いつの間にそんなに飲んだんですか……」



 見たところ酔っぱらっている風には見えない。

 相当酒に強いのだろう。

 ミザリーさん、あの見た目でうわばみなんですか、そうですか。

 小人族だから見た目の年齢が分かりづらく、どうしても幼く見えてしまう。



「あらあら、随分と騒がしいようですけど、何事かしら?」



 外の騒ぎを聞きつけて、アジトの中からまた新たな人物が顔を出した。

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