第6話 カミノコ池の出会い
のぶ君は、おじいちゃんとおばあちゃんが、ホッカイドウという大きな島に住んでいるので、毎年夏にホッカイドウへ行きます。今年はチミケップ湖に来て、昨日はフラメロとドウザンの湖上の対決を見たのでした。さて、一夜明けて。。。
クッシャロ湖
朝になり、のぶ君とあっ君は、ホテルの1Fのレストランで、眠い目を擦りながら、朝食を待っています。昨晩は二人とも、フラメロとドウザンの戦いを目撃して、色々考えることが多く、なかなか寝付けなかったのです。
「さあ、今日は、これからクッシャロ湖とマシュウ湖へ向かうわよ。張り切って、行こー!」とお母さんは、張り切りまくってます。
車に乗り込んでクッシャロ湖へ向かいましたが、のぶ君とあっ君は車の中で早々に寝込んでしまいました。
「この子達、朝ごはん食べたらもう寝ちゃったわよ」
「なんだが、昨晩は、二人ともひそひそ話をしてて、ちゃんと寝てなかったみたいだぞ」
「あら、そうだったの。ぐっすり寝てて分からなかったわ。ちょうど寝てくれて、静かでいいわね。久しぶりにパパと二人でドライブな気分ね」とルンルンなお母さんでした。
「まぁ、綺麗な眺めよ〜〜!のぶ君もあっ君も起きなさい!」
しばらく車は走っていたようで、のぶ君とあっ君は、お母さんの叫び声で目を覚ましました。
前を見てみると、クッシャロ湖が一望できる素晴らしい眺めが広がっています。
「これが、ビホロ峠なのねぇ。いいわねぇ。」とお母さんはうっとりと前を眺めています。
「ねぇ、パパ、そういえば、クッシャロ湖といえば、クッシーよね。見られるかしら」
「笑 何言ってんだ。そんなの迷信だろ」とお父さんは、取り合うすべもありません。
そうこうしている間に、のぶ君とあっ君はまた眠くなってしまったのでした。
産み分け
17年ほど時は遡ります。
フラメロが瞑想をしていると、ホッカイドウの守り神の声が頭の中にこだまして来ました。
「フラメロ、いつもホッカイドウの調和を保ってくれて、感謝してますよ」
「そろそろ、分け産みの時期が近づいてきたようです」
「3日後に、イオウ山へ行って、瞑想をするのです。よいですね」
フラメロは、その言葉を聞くと、久々に緊張感が高まってきたのでした。
とうとう、分け産みの時が来たのか。
この前は、確か、登別の守護のノボリロが産まれたんだったな。
今度は、どこの守護が生まれるのかな。
僕が考えてもわかることではないけど、とにかく、分け産みを成功させるためにしっかり瞑想しなきゃ。
とフラメロは決意を新たにしたのでした。
いよいよ3日後。今日はイオウ山で瞑想をする日です。
フラメロは、イオウ山に着くと、硫黄が立ち込める中、少しでも集中できそうな場所を見つけて、瞑想を始めました。
周りには、他の守護妖精たちの気配がしています。
みな、ホッカイドウの守り神の言葉を聞いて集まってきたようです。
ホタテンさまやフキノンもいるようです。
みな、すでに一心に瞑想状態に入っています。
フラメロも深く深く瞑想状態に入るように、雑念を消して、集中しました。
しばらくすると、ホッカイドウの守り神のお言葉が聞こえてきました。
「守護たる妖精達よ、いつも、調和を図ってくれて、ありがとう」
「今年は、汝らの仲間を産み落とす年となりました」
「今回は、フラメロ、そなたを雛形に、仲間を産み落すことにします」
「今一度、みなで力を合わせて、深い瞑想に入るように。よいですね」
そして、エネルギーが集中して光る球体が現れました。
でも、眩い光が放たれて、球体自体は良く見えません。
その球体はしばしそのまま収縮を繰り返しています。
すると、突然、空が掻き曇り、稲妻が轟き、雷が地上に落ち始めました。
そのうち、なんということでしょう、その雷の一つが、球体に命中してしまったのです。
球体は収縮を止め、やがて、その球体から、なにかがが出てきました。
そのモノは、「我が名はドウザン。ホッカイドウの守護を任された」と名乗ったのです。
しかし、その時、守護妖精達には、ホッカイドウの守り神からの警告が届きました。
「今回の分け産みは失敗のようです。邪魔が入ってしまった。そのモノは、守護ではない。恐らく、闇の力を持ったものだろう」
「今後、皆の脅威となるやもしれぬ。そのモノの力を皆で抑えて、ホッカイドウの調和を維持するように」
そして、フラメロだけに、以下の言葉が聞こえてきました。
「フラメロよ、そのモノは、お前の分身でもある。次の分け産みの時に、そのモノ、ドウザンと言ったか、を連れてくるように。今回の邪魔をした闇の力を取り除かなければならぬ」
「はい、かならず、そのモノ、ドウザンを連れて参ります」とフラメロは、ホッカイドウの守り神に硬く誓ったのでした。
マシュウ湖
車の中で今まで寝ていたのぶ君とあっ君は、ふと我に返りました。なんか、不思議な夢を見たのです。
「おにいちゃん、あっ君ね、今、なんか不思議な夢を見てた」
「え、あっ君も?僕も夢見てたんだよ。ドウザンの話」
「そうそう、それだよ。フラメロの分身という話だった」
「そうそう、それ。同じ夢を見たんだな。ということは・・・」
と二人は、そのあと、深くうなずいて、ドウザンとフラメロの因縁に思いを馳せて考え込んでいました。
すると、お母さんの声が聞こえてきました。
「二人とも起きてる?マシュウ湖に着いたわよ。」
そうです。次の目的地のマシュウ湖に着いたのです。
マシュウ湖は、「霧のマシュウ湖」として有名で、日本一の透明度のあるとても綺麗な水をたたえた湖です。
マシュウ湖の展望台から見る一望はまたすごい景観で、のぶ君とあっ君は、その眺めに圧倒されました。
しばらくして、お父さんが、「じゃ、そろそろ、次のイオウ山へ行くよ。」と言いました。
のぶ君とあっ君は、「イオウ山」という言葉にはっとして目を見合わせました。
「あっ君、次に行くところが、イオウ山なんだ。フラメロいるかもね」
「おにいちゃん、そうだね。ドウザンもいるかもね」
二人は、ワクワクしながらも一抹の心配な気持ちを抱えて、車に乗り込みました。
イオウ山
いよいよ、一行はイオウ山に着きました。
草木もない荒れ果てたような山肌が続いています。
あちこちからは蒸気が上がっていて、異様な雰囲気です。
奥の方まで行くと、かなり暑く、硫黄の匂いがきつくなってきました。
のぶ君もあっ君も、こんなところで、守護妖精達が瞑想をしていたのかと、思いを馳せました。
でも、あまりにも臭くなってきたので、
「お父さん、お母さん、ちょっと臭いから戻ろうよ」と言うと、お母さんが、
「そうね。これは臭いから、戻りましょう」とあっさりと戻ることになりました。
お母さんは麓のお土産屋さんに行きたかったようで、一目散にお土産屋さんに突入しました。
「暑かったから、アイスでも食べましょう」とお母さんは、真っ先にアイスに突進です。
「のぶ君とあっ君も食べるでしょう?パパはどうする?」と、結局全員食べることになりました。
「あっ君、フラメロもドウザンもここにはいないのかな」
「うん、そうみたい。出てくるかなと思ったけど、いないよね」
とのぶ君とあっ君はちょっとがっかりしています。
お土産屋さんでは、お母さんが色々と物色を始めました。
「のぶ君、あっ君、日差しが強いから、このサングラスみたいなのいいんじゃない」
ということで、おもちゃのサングラスを買ってもらいました。
さて、お土産の物色も終わり、お父さんが、
「この近くにサクラマスが滝を上るのが見れるところがあるらしいからそこへ行こう」ということになりました。
サクラの滝
しばらく車を走らせて、サクラの滝ということろに着きました。
駐車場に車を止めてさくらの滝へ向かうと、そこにはこじんまりとした滝があります。
滝というので見上げるような滝だと思っていたのぶ君とあっ君ですが、見下ろすような感じの川で、その中の一部が10m程度の高さの滝になっているのでした。
最初は良く分からなかったのですが、じっと見ていると、時々滝の下から上に向かって魚がジャンプしています。
その魚がサクラマスなのです。
でも、ほとんどのサクラマスが滝の上段に到達できずに、落ちてしまいます。
のぶ君とあっ君は、気がつくと、思わず、「がんばれー!」と叫んでいました。
お父さんとお母さんも「がんばれー!」と叫んでいます。
すると、どこからか、「アダマール!」という声が聞こえて、時間が止まり、フラメロが現れました。
「やぁ、のぶ君、あっ君、昨日はありがとう。今日は、君たちが、ここにいるのを見つけて、貴重なものを見せたいと思って来たんだよ。ほら、その滝をサケが頑張って登ろうとしてるだろう?」
「ああ、あれ、頑張ってもなかなか滝の上に上がれないよ。」
「だろう。実は、僕たち妖精が助けてあげてるんだよ。良く見えるようにしてあげるから、そのサングラスを付けてみて。」
のぶ君とあっ君がさっき買ってもらったサングラスを付けると、フラメロが杖のようなものを振って何か唱えました。
「それで見てごらん。拡大してよく見えるようになってるだろう。これから何匹か上にあげてみるからさ。」
「え、そうなの。楽しみ!」とあっ君が答えます。
「じゃ、時間を動かすよ。アダマール!」とフラメロが言うと、時間が動き出しました。
二人がそのサングラスで滝を見ていると、フラメロの他に羽を生やした妖精がいるのが大きくくっきり見えました。
その妖精達は、サケの背中に取り憑いて上に持ち上げようと頑張っています。
かなり失敗しているのですが、やっと1匹フラメロが滝の上まで持ち上げるのに成功しました。
続いて、他の妖精が、もう1匹持ち上げるのに成功しました。
フラメロはのぶ君とあっ君の方を見てガッツポーズのような仕草をしました。
ノブ君も「フラメロ、やったー!」とガッツポーズです。
あっ君も「あ、あっちの妖精もうまくやったみたい」と喜んでいます。
お父さんとお母さんも「おお、突然あの2匹うまくいったぞ。すごい!」と喜んでいます。
もちろん、お父さんとお母さんには妖精は見えてないので、単純に喜んでいるだけですが。
カミノコ池
「今日は忙しいぞ。次は、カミノコ池に行くからな。出発だ!」とお父さんが滝を見るのを止めて駐車場に向かうと言い出しました。
のぶ君とあっ君は、もっとゆっくりサクラマスとフラメロ達の様子を見たかったのですが、お母さんに急かされて、駐車場に戻りました。
しばらく車を走らせていると、お父さんが「そろそろこの辺のはずなんだけどなぁ」と運転しながら周囲を見ています。
「ああ、あそこから、入るのか」とカミノコ池に向かう林道を見つけたようです。
「あれ、なんで、入り口にバイクが置いてあるんだろう?ここから池まではまだ結構距離があるけどなぁ」
と不思議そうです。しばらくその林道を走っていると、
「これはたまらんなぁ。砂利道か。走りにくいやん」とお父さんがぶつぶつ言っています。
すると「あ、前の方に人がいるわよ。あれ、あの格好は、バイク乗りの人かしら?」とお母さんが言っています。
のぶ君とあっ君が前の方を見ると、一人の若い女性がライダースーツに身をまとって、何かを追い払おうと必死になっています。
のぶ君とあっ君にはピンと来ました。今までに何度も遭遇したカミキリムシの大群に襲われているのです。
車がその女性ライダーに近づくと、そのライダーが止まって欲しいという合図をしました。
お父さんが横に車を止めて窓を開けると、「すみません。虫がすごくて。カミノコ池まで行くのでしたら、車に乗せていただけませんか?」とそのライダーが頼んで来ました。お父さんとお母さんは、「もちろん、どうぞ」と車の中に入れてあげました。
後部ドアを開けて、ライダーを載せると同時に虫もたくさん入って来ました。
「きゃー、なによ。この虫。また、あの虫なのね。もう、いやだぁー!」とお母さんは半狂乱状態です。
窓を開けるともっと入ってくるし、車内ではみんなで虫退治を始めましたが、あっくんが「アダマール!」と言って、時間を止めました。
そして、のぶ君とあっ君は、水鉄砲を取り出して、さっそく攻撃を始めました。窓を開けると、カミキリムシ達は一斉に出て行きました。
のぶ君が、ほっと一息ついたところ、そのライダーが「君たち、すごいわね。なに、それ?」と言いました。
のぶ君とあっ君は、ライダーが自分たちの行動を見ることができていたことに驚いて、
「え、お姉さんは、今の見てたの?普通の人には見えないはずなのに。」
「え、なに、なに、普通の人には見えないことをしたのね。ちょっとゆっくり聞かせて欲しいなぁ。」とお姉さんは興味津々の様子。
「うーん、そうなんだけど、また後でゆっくり話をするよ。ひとまず、時間を動かすね。」とのぶ君は「アダマール!」と叫んで、時間を戻しました。
お母さんは絶叫中で「なんとかしてしてよ〜!虫はいやだー!」と泣いてますが、「あれ、いつのまにか、いないわね」と落ち着きを取り戻したようです。
ライダーが、「お子さん達の大活躍で虫達は逃げて行きましたよ」と言うと、お父さんもお母さんも、キョトンとして、
「え、この子達があっという間にやっつけたって?」
「はい、すごいお子さん達ですね」
「あ、はい、自慢の息子達です」とお父さんはなんだか訳がわからない様子ですが、
「とにかく、神の子池に向かいましょう」と車を動かしました。
やっと、カミノコ池に着きました。カミノコ池は、マシュウ湖のちょっと北に位置する小さな池で、湖底までコバルトブルーに透き通って見えるとても綺麗な池です。
一同は、駐車場からその池まで遊歩道を歩いて行きました。
お父さんは、女性ライダーに興味津々の様子ですが、お母さんの手前、平静を装っているようです。
お母さんは、お父さんの鼻の下が伸びているようなので、「あら、綺麗なお嬢さんね。お名前は?」と聞いています。
「あ、すみません、私は、神城早苗と言います。ミヤザキ出身で今東京で医学生をしています。バイクが趣味なので、卒業するまでに日本全国をバイクで回るのを目標にしてるんです。今日は本当に助かりました。ありがとうございました」
「早苗ちゃんね。まぁ、若くて綺麗ね。そんな方がお医者さんになったら、大勢の殿方が殺到しそうねぇ」
と二人は笑って、話をしています。
さて、早苗さんがそっとのぶ君とあっ君に近づいてきて、「ねぇ、さっきの教えてよ」と聞いて来ました。
のぶ君とあっ君は、顔を見合わせて、「どうする?さっきの見てたみたいだから、しょうがないか」と言うことで、フラメロや仲間の守護妖精がこのホッカイドウを守っていること、普通の大人は守護妖精は見えないこと、フラメロに教えてもらった時間を止めるおまじないのこと、水鉄砲などが虫達を追い払う武器になること、ドウザンと言う敵がいるらしいこと、などを教えてあげました。
早苗さんは興味津々で、「すごいわね。私も仲間に入りたいなぁ。お父さんとお母さんはそのこと知らないのね?」
「うん、大人は見えないから、知らないんだ」とのぶ君が答えました。
「じゃぁ、私も秘密は守るわ」
「ありがとう!おねえさん」
カミノコ池を見終わって、お父さん、お母さんと早苗さんは次の目的地の話をしています。
「早苗さんは、これからどこへ行くの?」
「私は、シレトコまで行きます」
「あら、一緒ね。また、知床でも会えるかもしれないわね」
「はい、是非!着いたら連絡していいですか?お子さん達ともお話したいです」
「いいわよ。でも、一人旅なのに、お邪魔じゃないかしら?」
「いえ、全然大丈夫です。むしろ、せっかく知り合いになったので、よければ、晩御飯とかご一緒できれば、嬉しいです」
「あら、そうね。じゃ、シレトコに着いたら連絡してちょうだい。何で連絡してもらうといいかしら?」
「SNSのパルスってお使いですか?」
「ああ、パルスね、やってるわよ」
「じゃ、お友達になってください。パルスでメッセージ送ります」
と、お母さんと早苗さんはパルスでお友達になるために、QRコードがなんとかかんとか言ってます。
のぶ君とあっ君は、晩御飯の時に早苗さんにもっと聞かれることになるのかと、ちょっと困った顔をしていました。
ところが、お父さんは、「じゃぁ、この林道の出口までまた一緒に車で行きましょう」と嬉しそうです。
一行は、車に乗り込み、また砂利道の林道を抜けて、入り口まで戻りました。
「はい、着きましたよ。ところで、なんで、バイクで池まで行かなかったんですか?」とお父さんが聞くと、
「バイクは砂利道は転倒の危険があって、危ないので走らないようにするのが普通なんですよ」と早苗さんが答えると、お父さんはなるほどと大きく頷いてます。
「では、シレトコに着いたら、パルスしますね」と言うと、
早苗さんは、バイクにまたがってさっそうとエンジンをふかして出発して行きました。
お父さんは、そんな早苗さんを見て、「かっこいいなー、さて、俺たちもシレトコへゴーだな!」と車を動かしました。
つづく
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