第741話 空気を読むダニエラお義姉様
できあがった内部構造を収納するための箱を作る。まずは木材を使って作ってみるとしよう。
完成したタイマーの魔道具はネロが持っている懐中時計とほとんど変わらない大きさだった。これなら持ち運びも便利である。
「完成したぞ。タイマーの魔道具だ」
「さすがはユリウス様。これだけのすごい魔道具をこんなに簡単に作ってしまわれるだなんて」
「そんなことはないよ。音の出る仕組みは前に作ったことがあるし、時計の部分も他からの魔法陣を流用しただけだからね。組み合わせればだれでも作れるはずだよ」
そうは言ってみたものの、ネロの熱いまなざしは変わることはなかった。もちろんライオネルもである。
さっそくみんなで試しに使ってみる。何か予期せぬ不具合があるかもしれないのだ。テストは大事である。
そうしてピピピとやっていると、ダニエラお義姉様とミラが工作室へやって来た。どうやら音が外まで聞こえていたようで、部屋の扉が開くと同時にミラが飛び込んできた。
「キュ、キュ!」
「ああ、これが気になるの? 遊んでいるわけじゃないからね。実験しているだけだよ」
そう言いながら、タイマーを十秒にセットして、ミラの前で鳴らしてみせる。箱から音が出たのに驚いたのか、目を大きくして、前足でタイマーをペシペシしていた。かわいいな。
「ユリウス、それは、結界の魔道具ではないわよね?」
「そうです。その前に、時間を計ることができる魔道具を作ってました」
「どうしてそんなことに……」
ちょっと遠い目をしたダニエラお義姉様に、もろもろの事情を説明する。なんとか納得したようだが、その眉はハの字に垂れ下がっていた。もしかして、あきれられてる?
「事情はよく分かったけど、だからって新しい魔道具を作り出すだなんて。さすがはユリウスね。でも、これはいい魔道具なんじゃないかしら? 学園とかで使えそうよね」
「確かに学園の試験とかでも使えそうですね。あとは、料理するときにも、調理時間を計ったり、火を消し忘れたりすることがなくてすみそうです」
「商談の時間を区切るのにもよさそうだわ。ここぞとばかりに際限なく話す人がいるものね」
困ったような顔をするダニエラお義姉様。ハイネ商会での商談で、どうやらそんなことをする人がいたようだ。しかも、一人二人じゃないな。それもそうか。向こうも売り込もうと必死だろうからね。
「お役に立つことができそうでよかったです。この魔道具はネロと一緒に作ったんですよ」
「ユリウス様、私は隣で見ていただけですよ」
「そんなことないよ。魔法陣を描いたり、箱を加工してもらったりしたでしょ?」
「それは、そうですが……」
口ごもるネロ。だが、ダニエラお義姉様にはピンと来たらしい。すぐにとてもいい笑顔になった。
「いいことだわ。二人で作業をするようになれば、もっと効率良く魔道具を作ることができそうね。開発速度も上がるんじゃないかしら?」
「そうかもしれません。ネロに意見を聞けたら、もっといい物が作れるようになると思います」
俺がそう言うと、恥ずかしがったネロがうつむいた。耳が赤くなっているからバレバレだぞ。もちろんそんなことは言わないけどね。
そのままダニエラお義姉様とお茶をしつつ、結界の魔道具の話をする。きっとそれが気になってここへ来たのだろうからね。
「ユリウスでも修理するのが大変なのね。それじゃ、量産するのは難しいのかしら?」
「分かりませんが、やるだけやってみようと思います」
「分かったわ。ユリウスに任せるわね。国王陛下も期待しているみたいだから」
黒い魔物の騒動がこれから本格化していくことだろう。それを予見しているからこそ、国王陛下は結界の魔道具に期待しているのだろうな。町や村の中に安全地帯を作ることができれば、救援が向かうまでの時間を稼ぐことができるのだから。これは頑張らないといけないな。
その後はなんとか壊れた魔道具に描いてある魔法陣を使えないかと模索しているうちに、日が暮れてしまった。王城に泊まるかとダニエラお義姉様に聞かれたが、タウンハウスへ帰ることにした。
急ぎとは言っても、そこまで急ぐ必要はないはずだ。それに早く修理しすぎると、違和感を持たれるかもしれない。それは困る。ついでに言えば、連絡がなかったカインお兄様のことが気になる。一体、どこへ行ったのやら。やっぱりミーカお義姉様の実家かな。まさかそこで怒られたりしてないよね?
気になった俺は帰りの馬車の中でダニエラお義姉様に聞いてみた。
「私も気になっていたところなのよ。ユリウスからタウンハウスへ帰ると聞いて、実のところ、ちょっとホッとしているのよ。まったく、カインくんにはお説教が必要ね」
プリプリと怒ったような演技をするダニエラお義姉様。もうすでに、ダニエラお義姉様はハイネ辺境伯家の長女だな。手のかかる次男の様子を楽しんでいる様子である。
まあ、カインお兄様だからなー。忘れていたというよりも、最初から報告するつもりはないような気がする。
きっと、”何か起きれば、そのときに連絡する”とかそんな感じなのだろう。
そろそろカインお兄様も、成人した大人としての常識を身につける必要があると思う。きっとダニエラお義姉様はそのことも含めて、カインお兄様を叱ってくれることだろう。
今のハイネ辺境伯家のタウンハウスには、ダニエラお義姉様しかカインお兄様を怒ることができる人はいないのだから。ライオネルじゃ、遠慮があるからね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。