第688話 うさんくさい話

 まるでイタズラがバレたかのような反応をしたカインお兄様とミーカお義姉様を見て、ダニエラお義姉様の目が細くなった。

 あ、これは色々と察したやつだな。


「もしかしてだけど、帰りが遅いときがあるのは地下道を探しているとかじゃないわよね?」


 ズモモ、という音がダニエラお義姉様の背後から聞こえてきそうだ。言葉で詰め寄られたカインお兄様とミーカお義姉様はそろって明後日の方向を向いていた。その態度、バレバレですよ!


「やめておきなさい。本当に地下道が存在することが明るみにでれば、その避難路が使えなくなるわ」

「えっと、それならなおさら調べる必要があるかも?」

「どういうことかしら?」


 かくかくしかじかと説明する二人。ゾンビの話を聞いたところでダニエラお義姉様の美しい顔が引きつった。どうやらゾンビは苦手なようである。もしかして、遭ったことがあるのかな?


「は、初めて聞いたわ、そんな話。でも、本当にゾンビが地下道にいたりするのかしら?」

「火のない所に煙は立たぬと言いますし、何もなかったにしても、調べておいた方がよいかと思います」

「そう言われるとそうね。でも困ったわ。地下道があることはあまり公にしたくないのよね。調査するにしても、学園内を騎士がウロウロしていたら目立ってしまうでしょうし」


 真剣に超常現象クラブの話を検討し始めるダニエラお義姉様。そのクラブが古い地下道を探したいがための、単なる口実だと俺は思っているのだが違うのかな? それとも、何か確信めいたものでもあるのだろうか。


「カインお兄様、超常現象クラブの部長さんはどこでその話を手に入れたのですか?」

「えっと、なんでも部長のお姉様が教会で働いているみたいで、そこでお告げをもらったとか?」

「お告げ?」


 なんだか急にうさんくさくなってきたな。ダニエラお義姉様もそう思ったのか、眉がハの字になっている。これは困ったときにする顔だな。お告げでは調査隊を送ることは難しいだろうからね。


「そう、お告げ。学園の古い地下道に魔物が住み着いているから排除してくれってさ」

「そのお姉様は大司教か何かなのですか?」

「いや、普通に働いているみたいだったぞ」


 うーん、これはダメかも分からんね。ますます信憑性が低くなったぞ。これではダニエラお義姉様も、国王陛下に進言することは難しいだろう。そして学園でその地下道が見つかった場合、王家の大事な避難通路が一つ、潰れることになるわけで。


「カインお兄様、地下道を探すのはやめた方がいいのでは?」

「その通りなんだが、もし魔物がいたら困るんじゃないのか?」

「確かにそうね。避難通路に魔物が住み着いているだなんて、ちょっと問題になるわね。分かったわ。それじゃ、カインくんたちに地下道の調査をお願いしようかしら? もちろん、他には漏らさないという条件つきだけど」

「もちろんだれにも言いませんよ。ゾンビと戦えるかも、と思っただけですから」


 いい笑顔でカインお兄様がそう言った。隣に座っているミーカお義姉様もいい笑顔である。どうやらミーカお義姉様はアンデット系の魔物には耐性があるようだ。それなら一度、戦ってみたいと思うかも。俺は散々戦ってきたので、今さらなんとも思わないけど。


「それならお願いするわね。場所と必要なものを調べておくわ」

「ありがとうございます! ユリウス、魔法薬の準備も頼んだぞ」

「分かりました。明日には準備しておきます」

「楽しみだわ~」


 ほくほく顔になるミーカお義姉様。見た目はウサギのような小動物系なんだけど、中身はライオンか何かかな? これはカインお兄様もミーカお義姉様の尻に敷かれそうである。お父様もアレックスお兄様もそんな感じだもんね。残すは俺だけか。でもファビエンヌの尻に敷かれるのもいいかもしれない。

 元気にしてるかな、ファビエンヌ。今晩にでも話しておこう。


 ダニエラお義姉様に小型蓄音機を見せるときに、カインお兄様とミーカお義姉様にも一緒に見せた。二人もほしいということだったので、こちらも準備しておかなければならないな。作るのにも慣れてきたし、それほど時間はかからないだろう。


 夕食を終えた俺はお風呂の順番が回ってくるまで、ファビエンヌと話をした。精霊の加護を使った通信でもいいけど、今日は指輪の通信機能を使おう。


「ファビエンヌ、元気にしてるかな?」

『ユリウス様! 元気にしていますわ。そちらの状況はどのような感じですか?』


 ファビエンヌに魔道具のことや、学園の七不思議のこと、ミラが少し丸くなったことなどを話した。もちろんゾンビの話は伏せてある。ファビエンヌが一人で眠れなくなったら困るからね。俺がそばにいるのなら、話したかもしれないが。

 指輪の向こうからは楽しそうな声が聞こえてきた。


『相変わらず色んなことが起こっておりますわね。楽しそうで何よりですわ』

「そうかな? アクセルとイジドルもファビエンヌに会いたがっていたよ。いつか、ハイネ辺境伯家へ招待したいと思ってる」

『いい考えだと思います。その日を楽しみにしておりますわ』


 アクセルとイジドルがハイネ辺境伯領に住み着いてくれたらうれしいんだけど、さすがにそれはわがまますぎるか。二人にも人生設計があるだろうからね。

 ファビエンヌとの通信を終えると、小型蓄音機の製作に取りかかった。タウンハウスに調合室はないが、魔道具作りの材料ならそこそこあるのだ。


 そんなわけで、寝るまでの間に、カインお兄様とミーカお義姉様にプレゼントする用の小型蓄音機を作っておいた。これで明日は魔法薬作りに集中できるぞ。

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