第683話 二人を巻き込む作戦

 翌朝、朝食を食べると訓練場へと向かった。そこにはもちろん、アクセルとイジドルの姿があった。


「おはよう、アクセル、イジドル」

「おはようユリウス」

「おはよう。来てたんだね」


 朝の鍛錬をしつつ、蓄音機の話をする。もちろん二人は喜んでくれた。そしてそのまま今日は何をするかの話になった。


「今日は一度、屋敷に戻って、二人の蓄音機に音楽を記憶させようと思う。それが終われば、二人に渡すことができるよ」

「なんだか、してもらってばかりで悪いな」

「そうだよね。でも、ボクたちがユリウスにできることなんて、何かあるかな?」


 イジドルが首をかしげた。それを見て、アクセルも首をかしげる。

 俺からすると、特に報酬や何かをしてもらおうとは思っていない。本当にただの好意なんだけど、それでは二人の気がすまないかもしれないな。


 二人が遠慮していたたまれなくなる前に、お願いごとをした方がいいと思うんだけど、さて、何かないかな? あ、そうだ!


「そう言えばさ、俺の兄のカインお兄様が、学園の七不思議に挑んでいるみたいなんだよね」

「学園の七不思議?」

「そうなんだよ。それでさ……」


 俺は二人に先日、カインお兄様から聞いた話をした。アクセルはゾンビの話に、”王都にそんなのがいるわけないだろ”と笑っていたが、イジドルは顔が明らかに引きつっていた。どうやら苦手なようである。


「俺もゾンビがいるとは思っていないよ。でも、カインお兄様とミーカお義姉様は地下道を探すみたいなんだよね。それでさ」

「ついて行こうと思ってる?」

「うん」


 アクセルの言葉に笑顔でうなずく。そんな俺を見たイジドルが声を震わせて聞いてきた。


「ボクたちも一緒に?」

「さすがイジドル。話が早い」


 震えるイジドル。ニヤリとするアクセル。イジドルにはちょっと気の毒だけど、ゾンビが本当にいるかも分からないし、いたとしても、一度でも遭遇したことがあれば、次からは心に余裕ができるからね。


 イジドルには立派な男の子になってもらいたい。今はなんだかちょっぴり頼りないところがあるからね。


「でもさ、もし本当にゾンビが出たらどうするんだ? 魔法で倒すにしても、地下道だと手加減しなきゃいけないんじゃないのか? あ、もしかして、銀の剣か!」

「残念。たぶん銀の剣は今ごろ武器屋に返品されているよ」

「武器屋に返品……買ったんだね、ユリウスのお兄さん」


 遠い目をするイジドル。銀の剣が高価な品であることは知っているみたいだな。まあ、それならそんな顔にもなるよね。

 それを聞いたアクセルは残念そうな顔をしていた。銀の剣を使ってみたかったようである。


「それじゃ、見つけても逃げるのか?」

「心配はいらないよ。武器にふりかけると、銀の剣と同じ効果を発揮するようになる魔法薬があるからさ」

「なにぃ!」


 ガッとアクセルが詰め寄ってきた。声がちょっと大きかったので、周囲からちょっと注目を集めている。

 ここであんまり騒ぐのはよくないような気がする。団長さんから怒られそうだ。そんなわけで、続きはあとでにしてもらった。


 訓練場をあとにした俺はまっすぐに、昨日、通信の魔道具を作った部屋へと向かう。追加を作らないといけないからね。少しでも作業を進めてからタウンハウスへ帰りたい。

 そんなわけで、必死のパッチで通信の魔道具を作り上げる。昼食の時間には、アクセルとイジドルと合流する。


「それで、どんな魔法薬なんだ?」

「聖なるしずくという名前の魔法薬なんだ。効果はすでに試してある。ゴーストだけじゃなく、レイスも倒すことができたよ」

「レイスも!? それって銀の剣以上の性能じゃないか」

「まあ、一日しか効果が持続しないという欠点もあるけどね」

「いやでも、毎日使えばいいだけだしな?」


 アクセルがカインお兄様と同じことを言った。大丈夫かな、アクセル。脳筋になってないよね? 顔が引きつりそうになっていると、イジドルが”脳筋だ~”ってつぶやいていた。どうやらそう思ったのは俺だけではなかったようだ。


「結構レアな素材を使うから、毎日使うのはさすがに無理だよ」

「そうなのか。それは残念。でもそれなら、俺の持っている剣にも使えるってことだよな?」

「それはもちろんだよ。イジドルの杖にも使えるよ?」

「えええ! 杖でゾンビを殴るの? やだなぁ」


 想像したのか、ものすごく嫌そうな顔をするイジドル。確かにゾンビを杖なんかの堅い物で殴ったら、べちょってなりそうだよね。嫌な色をした液体が飛び散りそう。確かにそれは嫌だな。


「まあ、俺たち魔法使い組は後ろから支援するだけになるはずだから大丈夫だよ」

「そ、そうだよね? ちょっと安心した」


 どうやらイジドルは一緒に行くことに決めたようである。無理やり連れて行くつもりはなかったけど、一緒に来てくれるのならうれしい限りだ。友達と何かをするのは楽しいからね。


 昼食を食べ終えた俺は再び通信の魔道具を作る。一日の大半をそれに費やしたが、お願いされていた数をそろえることができなかった。残念無念。でも、これはこれでよかったのかもしれない。


 一日で頼まれていた数を作ったら、”頑張れば作れるんだ”と思われかねない。続きはまた明日だな。聖なるしずくも追加で作りたいし、あせる必要はないか。


 そうして俺は、今日こそハイネ辺境伯家のタウンハウスへ戻ることにした。ダニエラお義姉様にそのことを話すと、一緒に帰ることになった。

 もしかしてダニエラお義姉様もあんまり休めなかったのかな? 窮屈なしがらみから解放された経験があるからね。それもしょうがないのかもしれない。

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