第654話 自信を持って

 翌朝、起きてすぐに自分の肌を確認する。

 うん、よくなっているのかどうなのか、サッパリ分からないな。やはり子供にはあまり効果が見られなかったか。

 俺の支度を手伝いにきたネロにも聞いてみたが、同じ答えが返ってきた。


「私も効果があまり実感できません。そうなると、ファビエンヌ様も同じでしょう」

「そうなるよね。それなら調合室へ行くまで、結果はおあずけということか」


 支度を調えてダイニングルームへ向かうと、そこにはすでにお母様の姿があった。ファビエンヌはまだみたいだな。

 すぐにお母様は俺たちが入ってきたことに気がついた。


「おはよう、ユリウス」

「おはようございます、お母様。昨日話した抗老化化粧水の効果ですが、まだよく分かりませんね」

「そうなの? 心なしかユリウスとネロのお肌がツヤツヤになっているように見えるけど?」


 ネロと顔を見合わせた。そしてお互いに首をかしげた。

 分からぬ、俺たちにはその微妙な変化が分からぬ。これじゃ女性のちょっとした変化にも気づくことができなそうである。髪の毛を少し切ったことにも気がつかねばならないのに。


「すみません、お母様。私にはサッパリ分かりません」

「そうね、ほんの少しの違いだものね。でも、効果があることは分かったわ」


 どうやらお母様には分かったらしい。これは取りあえず抗老化化粧水を作って、お母様のところへ持って行く必要があるぞ。

 そのままお母様と取りとめのない話をしていると、ファビエンヌや他の家族がやってきた。


「おはよう、ファビエンヌ」

「おはようございます、ユリウス様」

「うーん、確かにツヤツヤになっているかもしれない」


 ジッとファビエンヌの顔を見てそう言うと、ファビエンヌの顔が真っ赤になった。なにこれかわいいと思いつつも、家族の目の前で言うことではなかったなと反省する。

 なんとなく周囲から生暖かい視線を感じるぞ。


「ファビエンヌちゃんのお肌もキレイになってるわね。これはますます期待できそうだわ」

「そうですわね、お義母様。抗老化化粧水ができあがるのが楽しみですわ」


 どうやらダニエラお義姉様も効果が確認できたようである。これは急いで追加の抗老化化粧水を作った方がよさそうだな。調合室に行ったら、すぐに作ることにしよう。

 抗老化化粧水を作ったら、次はジョバンニ様に聖なるしずくの作り方を書いた手紙を送らないといけないな。


「お父様、聖なるしずくの効果が確認できたというお話と、その作り方を書いた手紙を、王都の王宮魔法薬師長のジョバンニ様に送ろうと思います」

「そうだな。その方がいいだろう。すまないが、よろしく頼む」

「お任せ下さい」


 これでよし。ホーリークローバーの育て方も、一緒に手紙に書くことにしよう。緑の精霊様の加護がないので効率が下がるかもしれないが、魔境で探すよりかは効率がいいはずだ。


 朝食を終えるとすぐに調合室へと向かう。みんなの肌の様子を見れば、抗老化化粧水の効果を実感できるはずだ。


「おはようございます」

「おはようございます、ユリウス先生」


 弾むような声が返ってきた。みんなの肌がツヤツヤのピカピカになっている。

 これなら俺にも分かるぞ。確実にみんなが若返っている。若返り効果なんてなかったはずなのに。肌の回復効果ってそういうことだったの?

 みんなの顔は笑顔である。特に女性陣は満面に笑みだ。


「どうやら抗老化化粧水の効果は問題なかったみたいですね」

「問題ないどころか、これはすごい魔法薬ですよ! 絶対にみんなが欲しがります。間違いありません」


 おおう、ずいぶんと圧が強いな。それだけ気に入ったということなのだろう。それでもクギを刺しておく必要があるな。


「ダニエラお義姉様が王妃殿下に、新しい魔法薬が開発されたとして抗老化化粧水のことを話してくれるそうです。新しい魔法薬として認可されるまでは、うかつに作らないようにして下さいね」

「はい、ユリウス先生」


 全員に確認を取ったところで、ファビエンヌから抗老化化粧水の作り方を教えてもらう。

 保存液の効果をいい感じに薄めつつ、化粧水に付与するという、実に素晴らしい魔法薬の作り方だった。


 男の俺にはちょっと想像できないような考え方だったな。さすがは美への探究心が高いだけのことはある。それに比べると、俺はがさつな方だからね。ファビエンヌに開発を頼んでよかった。

 これから化粧品関係の魔法薬を作るときは、ファビエンヌにお願いした方が効率がよさそうだ。適材適所である。


「これで完成ですわ」

「さすがはファビエンヌ。一日でこれだけの魔法薬を完成させるとは思わなかったよ」

「ユリウス様ほどではありませんわ」


 ファビエンヌがはにかむような笑顔を浮かべた。謙遜しているファビエンヌだが、間違ってはいないぞ。土台となる魔法薬があったとは言えども、開発速度が尋常じゃないのは俺でも分かる。


「一日で……さすがはファビエンヌ様だ」

「すごすぎる。次元が違う」


 魔法薬師たちがザワザワし始めた。その目にはファビエンヌに対する尊敬の色が見える。

 よしよし、これでファビエンヌも有能な魔法薬師として、改めてみんなに認識されたことだろう。俺の七光りだなんて言わせないぞ。

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