第603話 話は続くよ、どこまでも
大きなやらかしの一つ目があらわになったところで、次のやらかしの話になった。
もうやめて、ユリウスのヒットポイントはもうゼロよ。
「ユリウスたちが屋敷へ戻ってくる前に、レイブン王国の国王陛下から手紙が届いている。なんでも、けがれによって使えなくなっていた土地をすべて元に戻したそうだな? 突然の国王陛下からの手紙にはさすがに度肝を抜かれたよ」
そう言ってから、”ハッハッハ”と乾いた笑い声をあげるお父様。国王陛下からの手紙が届く前には、ライオネルからの手紙が届いていたことだろう。心の準備はできていたと思うんだけど。
「ええと、それにつきましては、私の勘違いでして……」
「勘違いで十年はかかると思われていた国土の復興が完了してたまるか!」
さすがのお父様も、語尾が強くなっている。
そっかぁ、十年かかると思われていたのか。そりゃみんな驚くし、感謝もするか。どうしてこうなった。でも、本当に俺の勘違いなんだよな~。つらい。
「あの、それにつきましては、ユリウス様は本当に勘違いしていたようでして……。それで、その、ユリウス様の勘違いを指摘しなかった私たちにも責任があると思いますわ」
ファビエンヌが頑張って俺のことをかばってくれている。ありがたいけど、申し訳ない気持ちの方がいっぱいだ。やっぱり連れてくるべきじゃなかったな。ミラだけにしておけばよかった。
「ファビエンヌ様の言う通りです。ユリウス様のお間違えを指摘しなかった我々にも責任があります。あまりにも滞りなく浄化が進んでいくので、それが普通なのだと錯覚しておりました」
沈痛の面持ちをしているライオネルだったがちょっと待ってほしい。それってあまりにも異常すぎて、逆にこれが普通なんだと思っちゃったってこと? あまり俺のフォローにはなってないような気がするんだけど。
いや、違うぞ。今は俺へのフォローじゃなくて、ファビエンヌに対するフォローだ! ファビエンヌ様が指摘できなかったのは当然です。ファビエンヌ様は何も悪くありません。そういうこと!?
「そうか。それならしょうがないな。ユリウスを近くで見ていると、それが普通だと見誤るのも仕方がないのかもしれないな」
ふう、と大きなため息をつくお父様。ちょっとそれ失礼じゃないですかね? 俺が普通じゃないみたいじゃないですか。
俺はいつでも普通でいたいと思っているぞ。
「ファビエンヌ嬢、ライオネル、次からは何か少しでもおかしいと感じたら、すぐにユリウスに確認をするに。そしてできれば、ことが大きくなる前に、ユリウスを止めるように。このことはネロにも伝えておいてくれ」
「分かりました」
ライオネルがうなずく。俺はもう完全に手がつけられない猛獣扱いである。悲しい。でもあながち否定できない。確かにあのとき二人から止められていれば、レイブン王国の国土を完全復興させる前に引き上げることもできたことだろう。
「さてどうしたものか。他国の王家から直接、手紙が来るのはあまりよいとは言えないな。ともすれば、他国と通じていると思うやつらが出てくるかもしれん」
「申し訳ありません」
「レイブン王国の民のことを思ってやったことだ。もちろんユリウスにはなんの非もない。ただ、少しやりすぎてしまったな」
苦笑しているものの、お父様はそのことについて俺を怒るつもりはないようだ。ただ、少々厄介なことになったと思っているのだろう。
もしかすると、レイブン王国から俺を引き抜きたいという話が来ているのかもしれないな。もちろんスペンサー王国を出るつもりは今のところないけどね。
「浄化の粉にドンドンノビールか。どちらも国土の復興にずいぶんと役立ったみたいだな? 次はその二つについて教えてくれ」
そこからは浄化の粉とドンドンノビールの話になった。生産効率を高めるために、ドンドンノビールを無理やり肥料のカテゴリーに入れた話をしたときには、お父様が頭を抱えていた。
「魔法薬とするか、肥料とするか。それとも日用品とするか。生み出した者のさじ加減次第か。今はまだいいが、そのうち問題が表面化してきそうだな」
「共通規格がありませんからね。国によっても状況が異なるでしょうし。こればかりは少しずつ法改正をしていくしかありません。ですがそれは国が考えることなのではないですか?」
「そうだな。ここで我々が話してもしょうがないか。しかし、ドンドンノビールの効果を聞くと、肥料ではなく、魔法薬ではないのか?」
おおよその区分として、効果が異常に高い物を魔法薬とする傾向にある。今回使ったドンドンノビールは数週間で木を生長させる力を持っている。どうやらお父様はそのことが気になったようである。
お父様がそう感じるのも無理はないが、すでに一瞬で木を生長させる”植物栄養剤”という魔法薬があるんだよね。お父様もそのことについては知っているはず。それを踏まえても、ドンドンノビールの効果は高いと思っているようだ。
「それが、どうやらドンドンノビールの効果が異常に高かったのは、精霊様たちが力を貸してくれていたからのようなのですよ」
「そういえば精霊様たちが力を貸してくれたと手紙にも書いてあったな。それなら納得だ。それでは、もし、精霊様たちの力がなければ、効果はどのくらいになりそうなんだ?」
「苗木が生長するまでには数ヶ月はかかると思います」
「そうか……」
アゴに手を当てて考え込むお父様。きっとそれが正常なのか異常なのかを考えているのだろう。通常、木が生長するまでには数年かかる。だが、魔法薬を使えば一日で生長させることもできる。
そうなると、生長するまでに数ヶ月かかるのは早いのか、そうでもないのか。悩ましいところなのだろう。
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