第532話 魔石砕き

 ライオネルの案内で宿舎の中を進んで行く。宿舎の部屋は数人が同時に滞在できるみたいだな。扉の間隔からして、それなりに広い部屋が並んでいるようだ。嫌な臭いはしない。清潔そのものである。ファビエンヌに不快な思いをさせなくてよかった。


 そのまま奥へ進むと、大きめの部屋に出た。どうやらここはだれでも自由に使ってよい、騎士たちの憩いの場になっているようだ。

 突然現れてた俺たちに、なんだ、なんだ、とこちらの様子をうかがう騎士たち。その中に知った顔があった。スペンサー王国からの護衛たちである。


「これはユリウス様にファビエンヌ様ではないですか。それにライオネル殿も。……何かありましたか?」


 俺たちがそろってここへやって来たことで、早くも何かを察したらしい。話が早くて助かるな。もしかして、スペンサー王国の国王陛下やダニエラお義姉様から何か聞いてたりする? 主に俺のやらかしについてのことだけど。


「お願いがあってここへ来ました。皆さんの力を貸してもらえないでしょうか?」


 そうこうしている間にも集まってくる残りの護衛たち。これだけの人数がいれば、なんとかなるかもしれない。護衛たちの頭の上には疑問符が浮かんでいるようだが、取りあえず首を縦に振ってくれた。


「もちろん構いませんよ。こちらへ滞在している間にできることを探そうとしていたところですからね。それで、我々は一体何をすればよいのですか?」

「魔石を粉にして欲しいのです」

「魔石を粉にですか? 聞いたことがない話ですね」


 やっぱり魔石を粉にするなんて人はいないようである。そりゃ珍獣みたいな目で見られるか。

 護衛たちに力を貸してもらうべく、俺は魔石の砕き方について話した。


「なるほど、小さい魔石の方が少しだけ柔らかいのですね。それで大きな魔石を小さな魔石にたたきつけて、少しずつ粉にしていくわけですか。分かりました。それがこの国を救う魔法薬の素材になるのであれば、喜んで引き受けましょう」


 ちょ、声が大きい! 合点がいったからなのか、それとも自分たちにもできることがあってうれしいのかは分からないが、ちょっと声が大きくなっていた。そしてその声は休憩室にいたレイブン王国の騎士たちにも聞こえたようである。その騎士たちも集まってきた。


「あの、今、この国を救う魔法薬という言葉が聞こえたのですが……」

「私にも聞こえました。我々にもお手伝いできるのであれば、ぜひとも手伝わせて下さい!」


 わわっ、声が大きい! その声が聞こえたようで、どんどんと騎士たちが集まってくる。

 レイブン王国の騎士たちは他にも仕事があるはずだ。その仕事に影響が出るようなことをさせるわけにはいかない。


「あの、お気持ちはうれしいのですが、皆さんは自分たちに与えられた仕事を優先して下さい。私たちだけではどうにもならなそうなときは、そのときに改めて皆さんにお願いします」

「そ、そうですか。気をつかわせてしまってすみません」

「なんというお人だ。ウワサに聞いていた通りの御仁だ」


 なぜか感激して震えている騎士たち。だれだ、妙なウワサを流した犯人は。ソフィア様か? それともエルヴィン様なのか? どうにも困ったね、こりゃ。苦笑しつつ振り返ると、護衛たちも同じように震えていた。


 もしかして、騎士って感情の上下が激しい人たちの集まりなのかな? 冷静沈着な人物が好まれるように思っていたのは、俺の気のせいだったのか。

 それよりも。

 キミたちはこれから地獄を見ることになるかもしれないんだよねー。大丈夫かな?


「それではせめて、作業を拝見させていただいても構いませんか?」

「もちろん構いませんよ。それを見て、やりたくないと思うかもしれませんけどね。あ、くれぐれも言っておきますが、時間外でやろうとは思わないで下さいよ。仕事が終わったらしっかりと休むようにして下さい」


 全員がそれに納得したところで、室内訓練場の一角を作業場として借りることにした。ここなら風で魔石の粉が飛んでいくこともないだろう。移動している間に、ライオネルには魔石と鉄板を取りに行ってもらっている。


「この辺りをお借りしますね。ガンガンとうるさくならないように、念のため、防音の魔法を施しておきます。もしそれでもうるさかったら遠慮なく言って下さい。なんとかします」


 うるさいと言われたら防音室を作るしかないな。土壁をいい感じにスポンジ状にすればなんとかなるはずだ。それよりも防音の魔道具を作った方が早いかな?

 そんなことをつらつらと考えていると、ライオネルが戻って来た。どうやらどこからか、持ちやすそうな大きめの魔石も借りてきてくれたようだ。さすがはライオネル。


「ご苦労、ライオネル。さっそく魔石砕きをやってみるとしよう」


 ここで何をするのかレイブン王国の騎士たちも分かったみたいだ。見てもらった方が早いと思って、説明していなかったのだ。

 鉄板の上にバラバラと小さな魔石を転がし、そこに大きな魔石を打ちつける。


 ガンガン! という派手な音がする。これは耳栓が必要だな。魔道具工房へ行ってすぐに作ってこよう。何度かたたきつけると、鉄板の上に魔石の粉がほんの少しだけできた。

 うん、これはツライ。まるで魔石砕き終身刑のようである。


「こんな感じで魔石の粉を作ってもらいたいのですが、見ての通り、かなり大変だと思います。ですから無理のない程度に休憩を挟みながらやってもらえればと思います。あと、すぐに耳栓を作ってきます」

「ユリウス様、我々にお任せ下さい。この程度、日頃の鍛錬に比べれば、どうということはありませんよ」

「その通りですとも。何も心配はいりませんぞ」


 よかった。みんなやる気のようである。自分で頼んでおいてなんだが、さすがにこれはないと思っていたところだったのだ。だれかに頼むような仕事じゃないよね。

 護衛たちはさっそく作業を始めてくれた。俺たちもすぐに次の作業に移らないといけないな。

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