第500話 広がる輪
さすがに昼食前だったので、二人には午後から試してもらうことにした。午後からはすぐに追加のシャンプーとリンスを作ろうと思っていたのに、予定が少しズレてしまったな。その間に、ミーカお義姉様へ手紙を書いておこう。
「ユリウス、今度は何を作ったんだい?」
「ふむ、レディたちがさらに美しくなっているのはユリウスが原因かな?」
昼食時、アレックスお兄様とお父様からそう言われた。もはや俺ではない可能性を疑うことさえないようだ。でも本当のことなので否定できない。
二人はさりげなく情報収集をしていたようで、夜にでも自分たちにも使わせて欲しいと言ってきた。いいですとも。
昼食が終わり、ダニエラお義姉様とロザリアがシャワーを浴びるのをサロンで待とうとしたのだが、なぜか俺とファビエンヌも一緒に連れて行かれた。どうして……。
困惑しながらも二人の髪を洗い、ついでに魔法で乾かした。もちろん二人とも、ファビエンヌとお母様のようなキレイな髪質になっている。
お風呂場の鏡の前でしばしぼう然とする二人。そんなに衝撃的だったかな? 俺にはよく分からないが、ファビエンヌには通じるものがあったようで、ウンウンとうなずいている。男にはよく分からない世界があるようだ。
「ユリウス、このシャンプーとリンスはどうするつもりなのかしら?」
「えっと、バラの香りをつけた物を、お母様とファビエンヌ用に作ります。それからそれを王都のミーカお義姉様にプレゼントする予定ですね。もちろん、ダニエラお義姉様用の物も作っておきますよ。香りは同じでいいですか?」
「ありがとう、ユリウス。それじゃ、同じ物をお願いするわね」
ダニエラお義姉様は変なところで遠慮するときがあるのだ。義姉弟なのだから、遠慮せずに言ってくれればいいのに。隣で欲しそうな顔をしているロザリアにも、ロザリア専用の物を作る約束をしておいた。これでよし。
より美しくなった髪の毛をなびかせながら、二人はハイネ商会へと戻って行った。アレックスお兄様とエドワードくんがビックリするかな? 今日はハイネ商会へは行かないでおこう。なんだか騒ぎになっていそうな予感がする。
午後からも調合室で作業である。使用人が届けてくれたバラの香水を使って、高級品仕様のシャンプーとリンスを作る。こんなことなら始めからお母様に相談して、香水を入手しておくべきだった。
「先生、その髪は先ほどのシャンプーとリンスの効果ですか?」
「そうだよ。お風呂に常備するから、みんなも使ってみてね」
おおお、と歓声があがる。特に女性であるライラさんの叫び声が大きかった。これはアレかな、少量だけど、みんなが使う物にもバラの香りをつけておいた方がいいかも知れないな。
そうなると、男性用と女性用で分けておくか? いや、無香タイプとして別に作っておこう。
シャンプーとリンスの作り方はファビエンヌにも教えてある。そのため、香料の分量だけを一緒に決めたら、あとはお任せすることにした。その間に、今度こそミーカお義姉様へ手紙を書く。そして手合わせチケットも作る。
「手合わせチケットは何枚にしようかな。おっと、使用期限もつけておかないとね。ネロ、何枚がいいと思う?」
「そうですね、夏休みはユリウス様も競馬の運営の手伝いがありますからね。あまり枚数が多いと、休む時間がなくなるかも知れません。ここは五枚くらいでよいのではないでしょうか?」
「よし、それじゃ、五枚にするよ」
大体、週に一度くらいのペースになるだろうか。これなら問題ないと思う。偽造防止とか必要ないよね? しっかりと使った枚数を数えておくことにしよう。
結局その日はシャンプーとリンス作りに終始することになってしまった。
この際なので、騎士団にも提供しようと思う。間違いなく、髪の毛が痛んでいる人たちが多いだろうからね。香りが戦いの邪魔をする可能性があるので、こちらは無香タイプのみにしておく。
夕方、屋敷と騎士団で働いている人たちをある程度集めて、シャンプーとリンスの使い方をレクチャーした。どこでウワサを聞きつけたのか、女性の割合が圧倒的に多かった。女性の美への追究心が高いことを改めて実感した。美容に関する物を作るときはなるべく女性に相談してからにしよう。
その後、ハイネ辺境伯家には天使の輪を頭につけた人たちが大量に発生した。みんなに広げよう天使の輪。もちろん、男女問わずである。なんなら騎士団に務めている人たちもである。
女性の騎士団員からは香りのある物を使いたいと要望があったので、お休みの前日だけ、屋敷に設置されている香りがついた物の使用を許可することにした。申し訳ないとは思っていたのだが、それでもとても喜んでくれた。
もちろん、ハイネ商会で売りに出すことになった。ただいま追加の従業員を募集中である。シャンプーとリンスが日用品でよかった。作り方は秘密なので、当分、他でまねされることはないだろう。その間にハイネブランドを確立させてもらうとしよう。ウッシッシ。
アレックスお兄様とダニエラお義姉様が王都へ行く日になった。俺は準備しておいた手紙と、シャンプーとリンスをミーカお義姉様に届けてもらえるようにお願いした。
「大丈夫よ。必ずミーカちゃんに渡しておくわ」
「カインにも、ユリウスが作ってくれた回復薬を渡しておくよ」
「よろしくお願いします」
カインお兄様に回復薬を渡しておけば、いい感じに使ってくれるだろう。自分で使うのもよし、だれかにあげるのもよし。ハイネ商会の魔法薬は優秀であると広まりつつあるみたいだからね。
「ユリウスが作ったシャンプーとリンスを、きっとお母様も喜んでくれると思うわ」
そうなのだ。ミーカお義姉様に作るついでに、王妃殿下にもプレゼントすることにしたのだ。それは「絶対に欲しがる」という、お母様からの強い勧めからであった。確かにその通りだと思う。
作り方を王宮魔法薬師に教えるかどうか悩んだのだが、これは魔法薬ではない。そのため、見送ることにした。仮に売り上げが好調になれば、従業員を増やせばいいだけなのだ。日用品カテゴリーにしたことがここで生きてくる。
まあ、しばらくの間は庶民には広がらないと思うから、貴族向けに作るくらいになるだろうけどね。高級品として高く売ろうとひそかにもくろんでいる。利益率がすごいことになりそう。ちょっと楽しみだ。お給料をはずまないとね。
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