第387話 新型ランプの魔道具

 ロザリアはすぐに行動を開始した。どうやら風を送り出す魔法陣を追加するようである。俺たちが見ている目の前で、あっという間に魔道具を分解した。そしてすでに用意してあった魔法陣を取りつけ始めた。


「ロザリアちゃん、手慣れてますわね」

「そうだね。さすがは俺の妹ということだね」


 思わずファビエンヌと一緒に苦笑いしてしまう。それも仕方がないことだと思う。一緒に勉強していたときも、ダンスの練習のときも、マナー講習のときも、これほど素早くロザリアが動くことはなかった。本当に魔道具が好きなんだなー。俺の魔法薬に対する行動と良く似ている。


 魔法陣を取りつけ終わったロザリアが、再びあっという間に魔道具を組み上げた。何度も分解、組み立てを繰り返していたようである。リーリエも一緒に手伝っていたみたいで、二人のコンビネーションもバッチリだ。あ、ネロがちょっとあきれている。本業はロザリアのお世話だろうとでも言いたそうである。


「できましたわ。さっそく試してみましょう!」


 返事も待たずにスイッチを入れる。先ほどよりかは吸引力が良くなっているが、大きめのゴミは吸い込めなさそうである。何度か試していたがダメそうだった。吸い込み口が広すぎるのかな? 掃除の効率は悪くなりそうだが、吸引力を高めるならばしょうがないかな。


「ロザリア、ゴミの吸い込み口をもう少し小さくしてみたらどうかな? あとは袋までの空気の通り道を細くする。そうすることで、空気の勢いを調整できるはずだよ」

「やってみますわ」


 ここからは魔道具本体を改造しなければならない。時間がかかるだろう。その間に人工太陽でも作っておこうかな? 使えそうな魔法陣も見つけたことだし、本格的な魔道具にしてみても良いと思う。


 形はちょっとこだわって、ランプの魔道具のような見た目ではなく、魔道具から少し離れた位置に人工太陽が現れるようにしようと思う。できるかどうかはやってみなければ分からないけどね。


 ロザリアには散々、「まずは設計図を描いてから」と口を酸っぱくして言っているくせに、自分は設計図なしで作る。たぶんロザリアが知ったら激おこプンプン丸になることだろう。でも俺は速さを優先するぞ。


「ふんふんふ~ん」

「ご機嫌ですわね」

「あ、分かっちゃう? これがうまく行けば、雨や曇りの日でも植物を育てられるかも知れない。魔法薬を作るのには植物系の素材がたくさん必要だからね。品質が高ければなお良し」


 ファビエンヌも納得してくれているようだ。何度もうなずいている。最高品質の魔法薬を作るのにこれほど苦労するとは思わなかった。もしかしたら作れないんじゃないかという疑惑も、自分の中に浮上しつつある。


 作りはシンプルに四角い箱型である。豆腐ハウスを彷彿とさせるそのフォルムは金属の鈍い光を放っていた。側面にはオンオフのスイッチと、光量を調節するためのスイッチの二つだけがついている。実にシンプルだ。決して手抜きではない。


 あっという間に魔道具を作りあげたのを見て、ファビエンヌとネロが目を白黒とさせていた。ミラは良く分かっていないのか、出来上がった四角い箱をペシペシとたたいている。やめて!


「ダメだよ、ミラ。これはおもちゃじゃないからね」

「キュ」

「それではお兄様、何なのですの?」


 いつの間にかこちらへやって来たロザリアがニコォっと笑った。何だろう、この笑い方。どこかで見たことがあるぞ。あーっ! お母様の同じ笑い方だ。いつの間にそんな笑い方を覚えたんだ。


「ち、違うんだよロザリア。ロザリアが頑張って掃除機の魔道具を改良している間に、ちょっと新しい魔道具を作ってみただけなんだよ」

「何が違うのですの?」


 あ、ダメだこれ。自分に内緒でどうして新しい魔道具を作っているんだって顔に書いてる。別にロザリアの許可は要らないと思うんだけど、同じ魔道具師としては気になるのだろう。


 これ以上、ロザリアを不機嫌にさせるのは良くないと判断した俺は、この魔道具が何なのかを説明した。それを聞いたロザリアは一応、納得してくれたようである。アゴに手を当てたままではあったが。


「日の光を再現する魔道具……要するに新しいランプの魔道具ですわね」

「そうだね」

「そうですわね」


 ロザリアの言う通りだな。これは新しい形をしているランプの魔道具ということにしておこう。その方が色々と都合が良さそうである。ナイス、ロザリア。


「それではこれより、新型ランプの魔道具を使ってみたいと思います」


 パチパチパチパチ。みんなが拍手をしてくれた。ありがとう、俺の微妙なノリに付き合ってくれて。ロザリアは魔道具を改良中なのにすまないね。

 まずは光量をゼロの設定してスイッチを押した。当然のことながら、何も起こらない。みんなが首をかしげている中で、少しずつ光量を大きくしていった。


「わあ、小さなお日様ですわ!」

「キュ、キュ!」


 興奮したミラがその小さな太陽を触ろうとしたが、キレイにすり抜けた。不思議そうに自分の手を見つめるミラ。ロザリアも同じように手をかざしている。予定通り、光だけを発し、熱はないようである。これで火傷や火事、温室が必要以上に暑くなることはないだろう。


 もちろん俺も触ろうとしてみる。問題なく手がすり抜けた。ファビエンヌもネロもリーリエも、不思議そうな顔をして同じような動作をしていた。

 ランプの魔道具は格子状の枠の中が光っているからね。こうして触る機会なんてなかったのだろう。

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