第211話 ちょっとしたイタズラ
さてどうしたものか。これは設計図を描き直さないといけないぞ。この氷室が無事に完成してから設計図を渡すと約束しておいて良かった。下手すると、王城が凍り付くところだった。危ない危ない。
「ユリウス、失敗したのか?」
「そうだね。だが、失敗なんて良くあることさ。気にすることでもないよ。それよりも、どうやって改善するかの方が大事だね」
まずは「強化の魔法陣」の効果と、魔法陣の大きさがどのように関係しているのかを確かめなければいけないな。そのためには大きさの違う魔法陣をいくつか用意しないといけない。小さいのは昨日俺が作った魔法陣を利用しよう。あとはその間に、二段階ぐらいの大きさの魔法陣が必要だな。
「何やってるの?」
「明日の実験に向けた準備だよ。今日はこれ以上の作業は無理だね。時間が余ったら、残りの石材を加工して終わりかな。アクセルとイジドルも、やることがあるならそっちを優先してもらって構わないよ」
そう言って二人を見ると、二人が顔を見合わせた。そしてお互いに眉をハの字に曲げてこちらを向いた。困ってる? なんで?
「俺たちの仕事はユリウスの護衛だ。その仕事をほっぽり出してまでやることなんてないよ」
「そうだよ。ユリウスがどうしても邪魔だって言うなら考えるけど……」
「そんなことないよ。ありがとう、アクセルとイジドル、イジドル」
おおお、すでに俺の正式な護衛になっていたのか。知らなかった。アレックスお兄様が手配しておいてくれたのかな? それともダニエラ様かな? どちらにしろありがたいことだ。俺の一存ではどうすることもできないことだからね。
正直なところ、騎士団長の息子のオビディオや、魔導師団長の息子のピエトロじゃなくて良かった。あの二人とは合わない気がする……。
残りの二つの魔法陣を完成させたところで今日の作業は終わりにすることにした。石材の加工という地味な作業は明日でもできるし、王都に滞在する時間はまだまだ残っている。焦らなくても良いだろう。木材もまだそろってないからね。
翌日の午前中はいつもの様に調合室で魔法薬を作った。万能薬は無事に完成したが、王都では今、風邪が流行り、それに付随するかのように肺の病が広がりつつあった。そのため、風邪薬と肺の病を治す魔法薬、それから初級回復薬の需要が高まっているのだ。
それに「王宮魔法薬師が作る魔法薬が欲しい」と一部の貴族たちから言われ始めているのだ。どうやらどこかで、「王宮魔法薬師が作った魔法薬はひと味違う」とウワサになっているようだ。確かにひと味違う。俺は知らん顔しておこう。
それにしてもこの流行病、まさか隣のラザール帝国が仕掛けて来たんじゃないだろうな? もしそうなら、そんなものはスペンサー王国には通用しないと分からせる必要があるな。
流行病に対抗できる薬は広まりつつあるし、そのうち無意味だと分かるだろう。
午後からは予定通り、国王陛下とのプライベートでの面会という名の謁見である。アレックスお兄様に連れられて、王族のプライベートスペースへと向かった。
人通りがピタリとなくなり、その代わりに高そうな壺や絵画が飾られる廊下が続くようになった。窓からは美しく整えられた中庭が見える。赤と白のバラが咲き誇っており、実に見事だ。
お兄様が美しいレリーフが施された扉の前で立ち止まった。いよいよ国王陛下と面会なのか?
「アレックスだよ」
扉をノックしながら、お兄様が軽い調子でそう言うと扉がすぐに開いた。待っていたかのようにダニエラ様が飛び出してきた。あー、ここはダニエラ様の私室ですね。ダニエラ様も一緒に来るのかな。
「お待ちしておりましたわ。さあ、どうぞ」
「お、お邪魔します?」
困惑する俺に、ウフフと笑いかけてきた。俺が困惑する様子を楽しんでるな、ダニエラ様。お兄様も笑っている。イタズラが成功したような顔をするんじゃない。こっちは慣れないことだらけで、ギリギリなんだぞ。
部屋の中にはお菓子が用意されていた。今も使用人がお茶の準備をしている。
ダニエラ様の部屋は何だか甘くて良い匂いがした。大きな窓には白いレースのカーテンがかかっており、そこからは中庭が一望できた。室内にある調度品は白と金で統一されており、ゴージャスの一言だ。
どうやら寝室は奥の扉の向こう側にあるみたいだ。この部屋からは見るとができなかった。きっと天蓋付きの豪華なフカフカのベッドなんだろうな。
「ユリウスはここに座って下さい。もうすぐしたら国王陛下がお見えになりますわ」
「この部屋に来るんですか!?」
「ええ、そうですよ」
クスクスと笑うダニエラ様。その「ドッキリ成功!」みたいなの、やめてもらえませんかね。こちらにも心の準備というものが……。
「ダニエラ様が提案してくれたんだよ。この部屋なら騒ぎが大きくならないだろうってね。国王陛下が娘の部屋に行くのは何の不思議もないからね。それとも、王妃殿下の私室の方が良かった?」
「……冗談ですよね?」
「いやいや、一度、検討されたんだよ。王妃殿下がぜひ自分の私室を使ってくれってね」
顔から血の気が引いていくのが分かる。王妃殿下の私室に入るとか恐れ多い。王族以外、入ったらダメな空間だろう。俺が震えていることに気がついたのだろう。ダニエラ様が思わずの体で吹き出した。
「ごめんなさい。まさかそんなにお母様を苦手にしているとは思わなくて」
「ご、誤解ですよ、ダニエラ様! そんなことありませんからね!?」
ダニエラ様が再び吹き出した。もうダメとか言っている。もうダメなのは俺の方なんですけど……。
「ユリウス、そんなに必死に反論したら、本当にそうだと思われてしまうよ」
アレックスお兄様が苦笑している。苦笑してないでかわいい弟を助けて下さいよ。
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