第21話 まさかこんなことになるなんて
お父様の視線だけでなく、お母様の視線もこちらに向いている。先ほどの魔道具の件で、どうやらお母様からもロックオンされたようである。聞いてないよ。
「そうですね、ハイネ辺境伯領の守りを強化するためには強い騎士団が必要だと思います。なので、武術大会などはどうですか?」
「武術大会か。それなら王都で規模の大きな大会が行われているからな。わざわざここまで人が来ないかも知れないな」
お父様があごに手を当てて考えている。それもありかもと思っているのかな? だが決定打に欠けていると。
「それなら……競馬とかはどうですか?」
「競馬?」
「この辺りでは確か馬の飼育が盛んですよね? 各地で飼育された自慢の馬を競走させるのですよ。そして見に来た人たちに、どの馬が一番になるのかを賭けてもらうんです」
「賭ける?」
「そうです。そのみんなが賭けたお金を、競争で一番になった馬を当てた人たちで山分けするのですよ。そして私たちは入場料でお金を稼ぎます」
「なんと」
「あらまあ」
単勝のみだが、娯楽の少ないこの世界ではそれなりに楽しめるのではないだろうか? ハイネ辺境伯領はまだまだ土地が余っている。その一角を競馬場に変えることくらい造作もないことだろう。
俺の考えにお父様とお母様が悩み始めた。
「中々面白そうですな。領民に娯楽を提供すると共に、領内の馬をアピールする。馬の質が良くなれば戦力アップにもつながるでしょう。他の領地からも買い付けが来るかも知れませんね」
ライオネルがうれしそうな顔をしている。そう言えばライオネルの趣味は乗馬だったな。良い馬が手に入るかもと思っているのだろう。
俺は単に、競馬が有名になれば人が集まって来るのではないかと思っているだけである。
「そうだな。まずは試しに騎士団の娯楽の一つとしてやってみるとしよう」
「そうですわね。乗馬の訓練にもなりますし、無駄にはなりませんわ」
こうして俺が提案した競馬が開催されることになった。まずはここでしっかりとしたルールを決めないといけないな。あ、屋台なんかを出してもらえば賑わうかも知れない。
「それではルール作りと運営はユリウスに任せるとしよう。騎士団とも連携が取れているようだしな」
確かにそれは言えている。騎士団との仲の良さはたぶん俺が一番だろう。適任と言えば適任なのかも知れない。だが、二人の兄がいる手前、どうなのだろうか。ライバル心を持たれるかも知れない。それにかわいい七歳児にそんなことさせる?
「えっと……」
「もちろん後見人をつけるぞ。ライオネル、頼めるか?」
「もちろんです」
「では頼んだぞ」
「……分かりました」
ライオネルが後ろにいるなら良いか。七歳児の俺ではなく、ライオネルが主導した催し物だと判断してくれるだろう。領民は。
騎士団のメンバーはごまかせないだろうなぁ。むしろ、全力で宣伝しそうだ。先手を打って口止めしておかないと。
二人の兄を見たが、事態が飲み込めていないのか、ポカンとしていた。実際に動き出してみれば、すぐに分かるさ。
「アレックスお兄様、学園の見学にも行ったのですよね? 王都の学園はどうでしたか?」
かなり無理があったが、俺は露骨に話題を変えた。これ以上この話を続けるとボロがでるかも知れない。触れない方が無難だろう。
「え? ああ、すごく大きかったよ。領都の学校の三倍以上はあったかな? 学校の敷地内に教会もあったしね」
「教会がですか? 学園内が一つの町みたいになってますね」
「うん。ユリウスのその考えは間違ってないよ。学園内にお店もあったしね」
これはもう一つの町みたいではなくて、一つの町だな。スケールが大きい。さすがは全土から優秀な生徒や、貴族の嫡男が集まってくるだけのことはあるな。俺は三男なんで、領都の学校に通うけど、ちょっと面白そうだと思ってしまった。
「学園内の寮から通うことになるのですよね? 寮はどんな感じでした?」
「フフフ、ユリウスもやはり寮が気になるみたいだね。カインからも散々聞かれたよ」
「そりゃあ気になりますよ。私とユリウスは寮生活を体験できませんからね」
カインお兄様が心外だとばかりに口を挟んできた。今回カインお兄様が王都に行ったのは、王都がどのようなところなのかを見学するためであった。ちなみに俺はまだ王都には行ったことがない。まだ早すぎるということなのだろう。
「寮の部屋はこの家の自室よりも狭かったかな? でも、机やイス、ベッドなんかはすべて備え付けてあったよ。それはみんな共通みたいだね」
「身分の違いをなくすためですか?」
「そうだよ。だからお姫様も同じ条件みたいだね」
「お姫様!」
思わず声を上げてしまった。知ってはいたが、この世界には本当にお姫様がいるのか。せっかく異世界まで遠路はるばるやってきたのだから、一度くらいお目にかかりたいものだ。
あ、ちょっとロザリアが膨れている。
「一度お目にかかって見たかったけど、来年までのお預けだね」
「来年? もしかして、アレックスお兄様と同じ学年なのですか?」
「うん、そうだよ。もしかすると、お姫様と友達になれるかも知れないね」
おお、それは夢が広がるな。王族と仲良くなれれば、おいしい汁をチューチュー吸えるだろからね。ぜひお兄様には頑張ってもらわなければ。
「ユリウスはお姫様に興味があるみたいだな」
「はい。うまくいけばお金をたくさん稼ぐことができますよ」
「なるほど、お金が。ユリウスは夢ではなく、現実を追うタイプみたいだな」
「それはもう。夢ではおなかは膨れませんからね」
俺の発言にみんなが笑った。ようやく家族が戻ってきた実感が湧いた。
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