第26話 消えた玲璃

 次の日麗桜は風雅に早速哉原たち鬼音姫が一緒に戦ってくれると言ってくれたことを話していた。


『そうか、鬼音姫が。それは心強いな。僕の方はダメだったよ。すまない…』


『何謝ってんだよ。あとは伴さんにも相談してみようぜ』


 そう言ったものの、その日伴は学校に来ていなかった。愛羽も玲璃もやはりまだ学校には現れず、連絡しても返事はなく電話もつながらなかった。





 その頃蘭菜と蓮華の病院を、その伴と愛羽が訪れていた。


『愛羽ちゃん。あなたそれ本気なの?』


 伴は真剣な表情で言葉を求めた。


『はい。色々考えたけど、やっぱりチームを解散してあたしが雪ノ瀬とやります』


『それは他のみんなにちゃんと話したのかしら?』


『いえ…まだ話はできてないんです。みんなが納得してくれるかは分からないし。…でも、みんなを守るには、あたしにはその方法しか思いつかないんです』


 伴はいつになく厳しい顔を見せた。


『甘いわね。解散した位でみんなを守れるのかしら?あなたが2人と同じような目に合わされたとして、他のみんなが無事で済むなんてそんな保証はないわ。それで傘下に入れとでも言われてみなさい。あっちの言うことを完全に聞き入れるまで同じことをされる気がするわ』


『じゃあ、あたしは一体どうすれば…』


 力なく肩を落とす愛羽を見て、伴はある決心をした。


『愛羽ちゃん。あなたに今のしかかっているのが暴走愛努流というチームの看板なのよ。総長としての使命なの。敵は確かに大きいわ。でもね、あなたたち6人もそんなに小さくないと思うわ』


『守りたいものを守れないことが、こんなにツラいことだなんて知りませんでした。自分の大切な人たちだけは何があっても守るつもりでした。たった5人も守れない自分が、許せないんです』


 伴は愛羽を見つめると胸が痛かった。総長という立場である伴は愛羽の気持ちがよく分かった。


 彼女は小さく深呼吸をした。


『あなたのお兄さんも、そう思っていると思うわ』


 愛羽は不思議そうに伴を見る。


『自分の仲間を捨ててでも守りたいと思った、たった1人の妹を結局側で守ることができなくなって、きっと同じようなことを思っているはずだわ』


 愛羽はまだ伴の言おうとしていることがよく分からなかった。


『今のあなたを見ていると、彼のそんな姿が目に映るように想像できてしまうの』


『伴さんって、まさか知ってるんですか?お兄ちゃんのこと』


 伴は優しく、でも恥ずかしそうに微笑む。


『きっと運命なのね。今思い出しても、そうとしか思えないもの』


 龍玖に出会ったこと、そして愛羽と出会ったことは、伴からすれば偶然だとしてもそれ以上ない奇跡だ。


『暁龍玖は私を助けてくれた人。私の大切な人なの。もう2度と会えないと思っていたけど、彼の単車が現れたと思ったら、あなたが彼の妹だったのよ?信じられなかったわ。彼の大切な妹さんですもの、私が代わりに守ろうと決めたわ。まぁ、いつも助けられてばかりだったけどね』


 愛羽はこれまでの伴の不思議な態度や言動が何故だったのか、今のでやっとつながっていった。


『初恋なのよ?それに、今だって…私を好きにさせといて消えるなんて許せない。バカよ。本当にバカだわ…でもね、今は彼がそうしなければならなかった理由も気持ちもよく分かるの。だから私も、何があってもあなたを守ってみせるわ』


 伴は真正面から愛羽を抱きしめた。


『伴さん…』


『一緒に戦いましょう。私も、夜叉猫のみんなも、あなたたちと共にあるわ』


 伴たちを巻きこむ訳にはいかない。そう思っていても、今の愛羽にそれほど嬉しい言葉はなかった。


 死ぬなら自分1人でいいと思っていた。みんなを守れるならそれでいいと本気で思っていた。


 だが、誰かを頼ってもいいと思えることが愛羽に戦う意志を再び甦らせた。





 愛羽は次の日やっと学校に姿を現した。


『ごめんね、心配かけちゃって』


 愛羽は伴や夜叉猫のみんなが一緒に戦ってくれることになったのを麗桜と風雅に話していた。愛羽が学校に来てくれたことと伴たちの参戦は正直2人を内心ほっとさせたが、まだ肝心なことを2人は話さなければならなかった。


『愛羽、実はさ…』


『え?』


 麗桜と風雅はここ何日かのことを順を追って愛羽に説明した。七条と龍のこと、土曜日のこと。そして哉原たち鬼音姫が助太刀してくれることも話したが、1番肝心なことがまだあった。


『…ねぇ、玲ちゃんは?』


『いや、それがてっきり今日来ると思ってたんだけど、まだ連絡も取れてないよ』


『愛羽は会ってないのか?』


『会ってないよ。連絡も来なかったし、あたしもしてなかったから』


 愛羽はすぐに玲璃に電話したが電源が入っていないようだ。


『もしかして玲ちゃんは…』


『1人でベイブリッジに突っこむつもりないのかもしれないね』


『あいつは易々と犠牲になるつもりなんてないだろうな。何考えてるか分かんねぇけど、止めねぇとまずくねぇか?』


 愛羽は焦りを覚えた。


『あたし家に行ってみる』


『いや、家は昨日も訪ねたけどいないみたいだった。今朝も…』


『どうする愛羽』


『どうするって!もう金曜だよ!?なんとかして探さなきゃ!』


 3人は互いにうなずき学校を出ると玲璃を探し始めた。






 蘭菜は眠り続けて7日目になる。最初はその寝顔もツラそうだったが今は割りと落ち着いているように見える。声をかけたら目を覚ますんじゃないかと思って何度か名前を呼んでみたが、やはりまだ蘭菜は目覚めなかった。


『蘭菜…』


 6人で花火を見に行った日、蘭菜に彼と会ってくるように背中を押してしまったのは玲璃も同じだった。愛羽や蓮華にそんなこと気にするなとは言ったが、自分も責任を感じていた。


 自分のせいでこんな目に合わされた、まだ目を覚ますかも分からない仲間の顔を見て、玲璃は握った拳に強く力を込めた。


 自分が高校に入ってから1番最初にできた友達。その思い出と記憶の中で蘭菜はいつも優しく笑っていた。


 何があっても怒らず、何かといつもみんなの世話をしてくれるお姉さんのような存在だった。頭がいいからいつも自分の知らないことを教えてくれた。


 一緒に彼氏の所に行った日のことも、忘れることのない2人のいい思い出になっている。


 玲璃はどうしようもない怒りと、その裏にある悲しみと悔しさを噛みしめ復讐を誓うと病室を後にした。


 蘭菜と別の部屋で蓮華もまだどこか苦しそうな表情で眠り続けている。だがその手にはある物が握らされていた。


 それは銀色の長い髪の女の可愛らしい人形だった。

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