《 第17話 外せない用事 》

 待ちに待った休日。


 ジタンは私服に着替えると部屋を出た。



「あら、お出かけ?」



 学生寮を出たところでクロエと出くわす。


 食堂帰りなのか、心なしか満足そうな顔だ。



「おう。これから街中に繰り出すんだ」


「宿題は済ませたの? こっそり抜け出したら、あとがキツいわよ。ほら、上級生の噂。彼女とデートするために夜中に抜け出して、先生にバレて、いまだに特別課題に苦しめられてるって聞くわ。二度と外出できないって嘆いてるそうよ」


「心配いらねえよ。宿題はばっちりだからな」


「そうなんだ。たくさん出てたのにすごいわね。さすがルナちゃんだわっ」


「マジで頑張ったからな。今日の用事はぜったいに外せないんだ」



 ルナと買い物なんてひさしぶりだ。


 しかも今回は近くまで来てくれている。可愛い娘を待たせるわけにはいかない。


 ジタンのわくわく感が伝わったのか、クロエが興味深げにたずねてきた。



「外せない用事って……デートだったり?」


「そ、そんなわけないだろっ! ありえないって!」


「ありえなくないわよ。ルナちゃんなら恋人のひとりやふたり、いてもおかしくないもの」


「マジで!? やっぱクロエちゃんもそう思う!?」


「ええ。可愛いし、強いし、努力家だもの。普通にモテそうだわ」


「だよなっ! わたしに恋人がいないのはおかしいよな! い、いつ言い寄られてもおかしくないよな!?」



 なにか勘違いしたのか、クロエが優しげにほほ笑みかけてきた。


 そして励ますような口調で、



「だいじょうぶよっ。焦らなくても、ルナちゃんがその気になれば恋人くらいすぐにできるわよ!」


「すぐにできるのか!?」


「ルナちゃんはモテるもの」


「モテるのか!?」


「ええ。といっても、モテ始めたのは最近からだけどね。うちの男子はさすがにアレだけど……よそのクラスの男子は良い感じの噂してるわよ」


「マジかよ……」



 衝撃の事実に、ジタンは頭がくらくらしてきた。



(俺がモテの原因じゃねえか! どう考えても普段のルナのほうが可愛いだろッ! 見る目がねえ奴に可愛いルナを託すなんざごめんだぜ!)



 普段のルナがモテるのは、それでそれで困るけど。


 自分が演じたルナが普段のルナよりモテるのは複雑だ。



「よさそうな男子がいたら、こっそり教えてあげるわね」


「なんで!?」


「変な男に引っかかるよりマシじゃない。それに、いずれ義理の息子になるかもしれないし」



 ちょっぴり照れくさそうなクロエ。


 ジタンとの結婚を、まじめに考えている様子。


 ルナのモテ期といい、クロエの恋心といい……この歳になって恋愛に頭を悩ませることになるとは思わなかった。



「クロエちゃんの気持ちは嬉しいが、勘違いだ。恋愛する気はさらさらないからな。いまは恋愛より学業を優先したいんだ」


「さすがルナちゃんね。あたしも元クラス1位として負けてられないわ。昇級試験、お互い頑張りましょうねっ」


「おう! お互い上級に食い込めるように頑張ろうぜ!」



 ジタンとルナ――どちらが試験を受けることになるかは現段階ではわからないが、いずれにせよ死力を尽くさねば。


 でないと、せっかく仲良くなったクラスメイトと別れることになってしまう。



「ところで、デートじゃないならなにするの?」


「パパと買い物だ」


「ジタン様と!? ち、ちち、近くに来てるの!?」


「駅前で待ち合わせしてるぞ。クロエちゃんも来るか?」


「い、いいの!? 迷惑じゃないかしら……?」


「問題ないと思うぞ」



 目的はパロマのプレゼント選びだ。


 クロエが一緒ならためになるアドバイスも聞けそうだし、ジタンとしてではあるがルナもクロエと交流を深めることができる。



「もちろん嫌なら――」


「嫌じゃないわ! 行く! 行くに決まってるわ! ……だ、だけど、あたし……変じゃないかしら?」


「変って?」


「最近寝不足で顔色が悪いし、入学してから髪も伸ばしっぱなしだし……」


「ちゃんと可愛いから安心しろ」



 これがジタンの発言だと知れば感極まって卒倒していただろうが、いまのジタンはルナだ。クロエは純粋に安心した様子。



「とにかくシャワーを浴びてくるわ! あと服も選ばないと……そ、そうよ、宿題! まずは宿題を終わらせないと!」


「宿題が終わったら連絡してくれ」


「そうするわ! ちょっと待ってて! 魔石持ってくるから!」


「わたしのも頼む」



 クロエは大急ぎで学生寮へ駆けこみ、ふたつの魔石を持って戻ってくる。


 それに魔力をこめ、交換すると、ジタンは学院をあとにした。

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