第6話―オナガは隣に留まる弐―

「この中だと…うん。

たぶん年長者である私から自己紹介したいと思いまーす!

イケイケな私の名前は変だけどね…前田栄君まえだまさぎみと言うんだよ。

なかなかダサいとは思われるけどね。あっはは。よろしくビシッ!」


想像していたよりも明るくて饒舌じょうぜつな方のようだ。

その多く頭に浮かび上がりそうな理想な清楚系の条件をほとんど備えて

ある。

そんな典型的とまで素材一つ一つを集結させたと評価されても違和感など与えないほど印象を放つ前田栄君。


「いえ、ダサいなんてそんなことありませんよ。

素敵な名前だと思います。

俺は栴岳承芳せんがくしょうほうと言います」


名前に関してはダサいとかカッコいいとかの響きを俺はそういう無頓着。

それに清楚系の塊である学年一つ上にある彼女を可憐と思っても、それ以上を惹かれるという健全な高校生には

あるであろうものをこれも無頓着。

なので作り笑いで、思ってもいない事お世話として言っただけである。


「そうですよ。センガクの言うとおり素敵な名前だとワタシは思います。

あっ、自己紹介でしたよね。

えへへ、ワタシ加賀千代かがちよです。加賀百万石の加賀と千代は千代目の目を取れば漢字表記になります」


対極的な意見をするのは千代。

俺の隣で激しくかぶりを振って素敵な名前とスポーツ観戦のような興奮気味に言った。

彼女には基本的に正直で頭にバカとつくほど愚直。もし正直者ランキングなどという変わった大会なら優勝候補に挙げられる。

そんな指を数えるぐらいにな性格の

千代に前田先輩は嬉しそうに頷く。

そうでなければ俺に対して好意をぶつけたりしないからな。


「……」


前田先輩の隣に黙々と焼きそばパンをかじっている毛利弘元。

一応はペンを置いて表面上は食事だけを取ってはいる。

が目は動いており、その向けられている視線の先はノートの文字。

一文字一文字と目を追って読んでおり勉強している。

ここまでいくと執念深さを感じられ半ば引いてしまうほどの熱意だ。


「そんな仏頂面で勉強すると幸福が逃げてしまうぞ弘元少年」


前田先輩は慣れているのか柔和な笑みで優しい声と顔を覗いて言った。

そんな狂気のようになっている弘元の頬を人差し指でプニプニと押して離したり繰り返して遊ぶ。


「…おい、やめろ。ボクにいちいち構うなよ栄君。

…どうして僕の隣なんかを?」


「もしかして…迷惑だったりした?」


年下から拒否反応をされて、顔と肩を落とし著しく落ち込んでしまう。

分かりやすい反応で男子の俺でもあざといなと嘆息してしまうほど反応だ。

それで明るさを存分に振る舞うこと

する彼女が落ち込むと俺たちも暗い気持ちが浸透していくような気がした。

初対面で自己紹介をしたばかりである俺にここまで情動があるのだから

カリスマ的な器があるのかもしれないなぁ。


「そんなことは…ない」


「そう答えると思っていたよ」


「た、たばかったのか!?」


「あはは。たばかったって何?それって古いんだけど弘元」


この切り替えの早さからして察するに、前田先輩さきほどは悲しそうに演技していたみたいだ。

お弁当の箱を開けて俺達はよくやく昼食を箸で取ることが出来る。

軽い談話に花を咲かしながら異変に気づく。前田先輩のお弁当に入っている量が尋常ないほど山ほどある。


「凄い数だねセンガク」


「あ、ああ。そうだな」


そのあと前田先輩この数(おそらく10人分)を一人で平らげるのであった。

それからは前田先輩は俺と千代のことでどういった関係性なのかと近所のおばさん並みに鬱陶うっとうしく…もとい質問攻めにあった。

のんびりとしていると生い茂みの奥から鳥の鳴き声が聞こえる。


「こうして聴くと風流ですよね。この鳴き声オナガが鳴いているようだね」


千代はオナガという鳥の一種の鳴き声を美しい響きでいい声と言った。


(そうだろうか…)


細身の身体を空のような色をしたすそを引いたドレスをまとった姿は美しいとされる有名な鳥の名だ。

しかしそれは、まやかしで鳴き声は煩わしさを覚えるほどに…うるさいのである。

声には出さずに呟く程度に収める。


「そうか?

あんな自己主張の激しい声するの隣だけで十分だと言うのに…」


「えぇーっ!なかなか辛辣だよ、それって。まぁ先輩である私としては

特別に女の子にひどいことを言ったことを許してあげるけどねぇ」


「…オナガよりうるさい」


「また!いくら天使で女神な私でも怒る時は怒るよ。

でもオナガみたいというのは綺麗なんだって遠回しな言葉として受け止めておくよ」


とにかく明るい前田先輩の唯我独尊モードにさすがの奴も辟易している。

正直ここまでグイグイこられると

俺も少しだけ同情してしまう。

オナガという鳥が前田先輩とよく似ていた。見た目や声がいいのだけど全てが台無しとなるほど声が大きくて、どこか無秩序な一致しないような鳥。

一匹と一人のオナガが鳴いて響かせるのであった。

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