第23話 仮説の検証と魔法実験
「ん~!いい実験日和だな~!!!」
朝日が眩しく光輝いている窓辺から伸びをしながら外を眺める。昨日の夜はもしかしたらワクワクしすぎて寝れないかと思っていたが、ベッドで横になってから30分ぐらいするとぐっすりと深い眠りについていた。健康というべきか何というか...まあしっかりと寝れたのだから問題はない。
俺はランちゃんに頼んでいつもよりも早めに朝食を頂くことにした。そして食べ終わるとすぐに準備を済ませて町を出発した。もちろん町を出る前に今日の昼食を買っておくのを忘れない。今回の目的地は町の南側に広がっている草原地帯。あそこなら実験にぴったりだと昨日から目星をつけていたのである。
町を出てから走って20分ほど進んだところにある大きな木のところまでやってきた。そう、ここは俺がこの世界へと降り立った場所である。ここなら少し道から離れれば思いっきり魔法を試せるとにらんだのである。強いて言えば、所々に野生動物たちがちらほらとのんびりと草を食べているぐらいなので彼らに被害が出ないようにさえ気をつければ大丈夫だろう。それに所々に少し大きな岩がちょこちょことあるので的にも困らないと思う。
では、早速だけれども仮説の検証といきますか!!!
まずは普通に魔法を発動してみる。
後で応用がしやすいことを考えると火属性の初級攻撃魔法『ファイアボール』が良いだろう。
俺は正面の何もない大地に向けて右手を伸ばす。
そして深く息を吸い込み、詠唱を始める。
「火よ 球となりて 撃ち放て! 『ファイアボール』」
詠唱を終えると正面へと突き出した右手からサッカーボールほどの火球が現れ、そのまま勢いよく手の向く方向へと放たれた。ドンッ!と着弾した地点で小規模の爆発が起こり、辺りの地面は少し削られて所々に焦げている様子が見られる。これが通常の『ファイアボール』である。
ではここからが本番だ。
第一段階として無詠唱での魔法発動を試してみる。先ほど発動させたファイアボールを強くイメージだけで構成する。一見簡単そうに思えるが、実際にやってみるとどれほどイメージというのがあやふやなものであるかを痛感する。
「......!」
すると先ほどよりも一回り小さめの火球が右手から出現し、先ほどと同じように勢いよく手の向く方向へと放たれていった。ボンッ!とこれも先ほどよりも小規模な爆発が着弾地点に発生し、地面が多少削られる結果となった。
一応、無詠唱での魔法発動は成功したのだが明らかな弱体化である。これでは実戦では到底使い物にはならないだろう。これも練習を積み重ねていって慣れていかないといけないだろうな。
まあでもとりあえずは無詠唱でも出来るということが分かったので検証は成功である。
...ただ何か悔しいのでちょっとこのまま無詠唱の練習を続けたい!!!
というわけで俺は無詠唱でもそこそこの威力で打てるようになるまでひたすらに練習を続けることにした。俺の負けず嫌いなところが遺憾なく発揮されたというわけだ。
およそ1時間で何とか無詠唱でも同威力で発動させることが出来るようになった。様々な思考錯誤の結果、無詠唱のコツのようなものを掴んだような気がする。1時間ずっと地面に火球を打ち込んでいたら辺り一帯はクレーター地帯になってしまうので、逐次土魔法で補修をすることはもちろん忘れてはいないよ。こう見えても俺、自然環境は大切にしたいと思う人間だもんで。
というわけでようやく次の検証へと移ることにする。
次は効果や性質の変更だ。今回のファイアボールという魔法は単発の火球を正面へと打ち込むという魔法であるが、そこを色々と変更してみようという試みという訳だ。
まず先ほどと同じように火球を右手に出現させる。
そしてその火球をこれまた先ほどと同じように発射するが、ここから先のイメージを変更する。
放たれた火球は先ほどまでと同じように一直線で正面に飛んでいき、地面へと着弾した。すると先ほどまでとは違い、着弾地点で衝撃が発生することなく火球の炎はそのまま着弾地点を火の海へと変化させた。
そう、先ほどまでであれば着弾地点で小規模な爆発が起こるという事象が発生していたが、今回は着弾地点で爆発が発生するのではなく燃焼が広がるという事象へとイメージで変更することにしてみたのだ。
これまた検証は大成功である!
ここまでで俺の仮説はほとんど実証出来たも同然ではないだろうか!!!
...っとこのまま火の海を放置するわけにもいかないのですぐさま水魔法で鎮火させる。
危うく放火魔になるところだった。
そこからも俺は様々な魔法に関する検証を行っていった。魔法の形状を変えてみたり、軌道を任意に変えてみたり、威力をイメージのみで変化させてみたりなどなど。結果はどれも成功。魔法書に書いてあった通り、魔法はイメージによって具現化しているのでその詳細な効果などもイメージによって変更可能であることが証明できた。
よしっ、次は前世の科学知識がこの世界の物質にも影響があるのかというのを調べたいと思う。昨日読んだ魔法書に書かれていたが、この世界では生物の肉体は『生命エネルギー』から構成されているあった通り、この世界には原子や分子などの概念は存在していない。
そんな中で前世の科学知識がこの世界の魔法にも影響を与えることが出来るのか、そこが非常に気になるところである。もし影響するのであればかなり魔法も応用の幅が広がっていくというものである。
そこで一番簡単にそれを確かめることが出来るのが『青い炎』である。青い炎は科学的にざっくりと説明すると「超高温の炎」である。その考えをもとに俺が青い炎を生み出すことが出来れば、この世界にも前世の科学知識が通用するということなのではないだろうか。要は「イメージ」なのだから、自分の頭の中でさえちゃんと定義付けできれば何でもできる気がする。
では早速挑戦してみることにしよう!
まず、右手の手のひらからある程度の大きさの炎を出現させる。現段階では今までの火魔法と同じようにオレンジ色の炎が手のひらの上でゆらゆらと揺らめいているだけである。ではここからが本番。頭の中でこの炎に酸素を大量に送り込み、温度をさらに上げていく。そしてどんどん温度が上昇していくと次第に炎の色が青く変化していく。そのようなイメージを強く強く頭の中で構築していく...
ボウッ!!!
すると手のひらにあったオレンジ色をした炎が一瞬にして青い炎へと変化を遂げた。その炎は先ほどまでとは違い、安定した輝きを放つ鋭く凛々しい雰囲気を醸し出していた。
実験は成功である。
この世界でも科学知識が有効に働くということが証明された瞬間であった。
それと同時に頭の中でイメージ構成さえできればどんな魔法も構築可能であることも示されたのだ。
「よっしゃ~!!!!!」
俺は高らかに左手を上空へと突き上げてこの喜びを余すことなく体現する。これは某名言風に言えば、魔法としては小さな一歩だが私にとっては大きな一歩である!ってところだろうか。
これは全く大げさな話ではなく、本当に大きな一歩となると俺は考えている。つまりは自分で未知なる効果や事象を発現させる魔法を生み出すことが可能であることを証明したことに他ならない。いわばオタクのロマンともいえる『オリジナルの魔法』を作り出すことが出来るという証なのだ。
《熟練度が一定に達しました。エクストラスキル『魔法創造』を習得しました。》
かねてからの夢が一つ叶うという喜びに浸っていた中、さらにそれを後押しするかのような素晴らしいアナウンスが脳内に流れる。スキル『魔法創造』、これは正しく待ち望んでいたスキルそのものであった。つまりはこの世界からもお墨付きをもらえたという訳である。
もうこうなったら俺を止められるものは誰もいないだろう。
すぐさま今まで考えていた魔法を実行に移すべきだろう!!そうだろう!!!
その時、俺がいる平原に少し強めの風が吹きつける。平原に生えている丈の短い草たちが一斉にザザッー!と音を立てて風になびいている。今まで魔法実験に熱中していた俺の意識は、その出来事を機に目の前の現実へと戻ってくることが出来た。
...っと危ない、危ない。危うく熱中しすぎて暴走するところだった。こういう時に限って重大なことを見逃してしまったり、何か余計なことをやらかしてしまうんだから順調に進んでいるときこそ冷静に、だな。
俺は興奮気味の感情を落ち着けるためにも一度ちゃんと頭を冷やすことにする。
偶然とはいえ、我に返してくれた突風に感謝しないとな。
もうすっかりお昼は過ぎているのだが、まだ昼食を食べていなかったことを思い出したのでお昼休憩を取ることに決めた。こういうことが冷静に判断できるようになっているのは前世から成長しているところだろうな。
俺は少し離れたところにある例の巨木へと向かい、その木陰で休憩を取ることにした。
町で購入しておいた出来立てほやほやのサンドイッチをインベントリから取り出し、昼食を取る。草原に吹く穏やかで涼しいそよ風が熱を帯びた俺の心を優しく冷ましていくように感じた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます