第94話 Cランク冒険者の強さ

「さあ、どっからでもかかってこい!」


次の日、街の外で大男が普段背負っている大きな斧を構えてそう言う。

今は昨日の夕食時の約束の模擬戦を大男とやる寸前のところだ。街の外とは言っても依頼主に言われた通り街からあまり離れていないが、それでも魔物がいる街の外なので大男の他のパーティの面々が審判兼見張りをしてくれている。



「行くぞ!」


俺は大男に向かって身体強化を全力にして向かって行く。身体属性強化が使えない以上、最初から強化は全力だ。


「はあっ!」


「ほう!」


俺の全力の大鎌は大男の斧で簡単に止められた。大男も身体強化はしているが、それでもピタッと受け流すことなく止められたのは予想外だった。


「ふっ!はっ!せいっ!」


「おお!強いな!」


何度も大鎌を振り続けるが、どれも斧で止められる。


「…パワーで負けてる」


多分スピードは負けているか互角くらいだと思う。しかし、俺のパワーが大男に負けているせいで攻撃が止められる。普段の様子から薄々感じていたが、やはりパワーはかなり高いな。


「よっ…」


「お…」


不動とも言える大男の斧に大鎌を引っ掛ける。そして、左手に持った大鎌を引っ張ることで勢いよく俺は大男に近付く。それこそお互いの武器の間合いよりも内側にだ。


「だあっ!」


俺はその勢いのまま大男の腹に右の拳を全力で打ち込む。しかし、寸前のところで大男の左腕が腹の前に来てガードされる。


「ほお!今のは少し痛かったぞ!」


「そんな嬉しそうに言われてもな…」


俺の攻撃を受け止めた大男が笑顔でそう言ってくるが、こっちは全く嬉しくない報告だ。

俺も大鎌を普通に引き、数歩下がって距離をとる。



「…どうする?」


大男は本当にCランクかと疑いたくなるほどに強い。現に物理職スキルしか使っていないとしても、俺は相手にすらなっていない。まだ大男の50%の力も引き出せて居ないだろう。

Cランクパーティのリーダーである大男の強さも分かったので、ここで終わりとしても全く問題は無い。むしろ、物理職スキルのみでの目標となる強さが分かったので良いことだ。

ただ、ここで終わってしまうと俺の中で手も足も出なかったという結論だけになる。物理職スキルだけでは勝てないのを認めるが、それだけでは終わりたくない。



「…無属性付与」


俺はボソッと誰にも聞こえない声でそう呟く。すると、俺の大鎌にも身体強化のような白いもやのようなものが纏う。


「………」


俺は怪しまれない程度に軽く少し周りを伺うが、全員特に何も反応していない。何か珍しいスキルを使っているな程度だろう。

無属性付与で付与するのは闘力を使う無属性魔法なので、大きく使われるのは闘力だ。しかし、付与魔法を使ってもいるので、少ないが魔力も使われている。しかし、誰もそれに反応しないということは魔力を感知できるものは居ない、または感知はできるけど少量では気付かない程度ということになる。


「闇身体強化」


俺はレベル1程度の弱い身体属性強化を行う。これでもさっきのような反応だけで驚いている様子は無い。


「準備は終わったか?」


「ああ!」


俺の強化を待ってくれていた大男の問いに返事をしながら俺は大男に向かって行く。


「だらっ!!」


「おお…!?」


俺の大鎌をさっきと同じように大男は受けたが、少し斧が押された。これは無属性付与の大鎌の威力上昇と闇身体強化で攻撃力が強化された影響だ。


「らっ!はあっ!うらっ!」


「お…おお……おわっ?!」


大鎌を連続でわざと斧目掛けて振るとだんだん斧が押され度合いが強くなった。

それを続けると、大男が少し仰け反るくらい斧を押し返すことができた。


「ふっ…」


その隙を付いて再びパンチをする素振りをとる。すると、大男も先と同じようにガードしようとする。しかし、今回のはフェイントで、パンチはしない。


「っ!」


「おがっ!」


俺の本命は大鎌だ。大鎌の峰の部分が大男の脇腹に直撃する。

咄嗟に横に大きく飛んで勢いを殺した大男はゴロゴロと転がっていく。



「いつつ……!」


大男は片手で脇腹を抑えながらすぐに立ち上がる。ここで痛みを我慢してすぐに起き上がるのはさすがだ。魔物との戦闘中は横になっている暇なんてないからな。…単純にあまりダメージになっていない可能性の方が高いけどな。

しかし、まだ大男も本気では無いとはいえ、闇身体強化を全力でかければ大男に勝つことができそうな気がする。


「魔導具を使ったとは言っても全赤化ベアをソロで討伐したんだぞー!普通のDランク冒険者じゃないんだよ。それなのにその装備は舐めているとしか言えないぞー」


「かっこ悪いわよ!そろそろ先輩らしくちゃんと強さを見せなさい。刃で攻撃されてたら負けてたかもしれないって分かってるー?」


「油断して負けたら恥ずかしいですよー。現時点でも大分恥ずかしいですけど」


「あはは!厳しいな!でもすまんすまん!結果的に舐めてたっていうのは事実だな」


大男がクリーンヒットの一撃を食らったというのにパーティの面々はかなり楽観的のように感じる。


「準備運動はこれで終わりだな。ここからは本当の装備で真面目にやってやるからな!」


「え?」


大男がそう言いながら腰にある俺よりも1、2周り小さいマジックポーチからあるものを取り出す。それは大男と並んでもあまり大きさが変わらないほど大盾だった。

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