第107話 健流を想う者達の戦い(1)

「姫乃、灯里、わたしはあなた達と戦うわ。ついて来て。」


 そう言って光が歩き出す。

 

「・・・二人共、頼んだ。」

「任せて。光は必ず取り戻すわ。」

「健流!あんたも負けるんじゃないわよ!!ミツルを頼んだわ!!」


 姫乃と灯里も歩き出した。


 三人が入った部屋は、かなり広い空間で、何も無い。部屋なのに空があり、星空が広がっていた。


「どうせこの景色をみるのなら、健流とが良かったなぁ・・・」


 光がポツリと呟く。

 

「ねぇ・・・光。」

「何?姫乃。」

「あなたは・・・なんでこんな事をしているの?」


 姫乃の言葉に光の顔が憎悪に歪む。


「姫乃・・・あんたがそれを言うの?私は見たのよ!健流と二人で裸で抱き合っているのを!!」

「えっ!?ちょっと姫乃!?あたしもそれ知らないんだけど!!」


 予想外の言葉に、灯里まで姫乃を見る。

 

「・・・旅行最終日の朝の話ね。それは認めるわ。でも・・・」

「でも!それが原因じゃない!」

「えっ?」

「健流は・・・健流はあんたが好きなのよ!!見てればわかる!!」

「え!?」

「・・・」


 光の言葉に姫乃は驚くが、灯里は反応しない。

 

「なんで!?私がずっと好きだったのに!!ずっとずっと好きだったのに!!なんで取っちゃったの!?ねぇ!?なんで!?」

「光・・・」


 光の慟哭に姫乃は何も言えなかった。


「だったら!だったらもう姫乃がいなくなるしかないじゃない!!私が・・・私が健流といる為には・・・それしか・・・無いのよ・・・」

「・・・」


 光の両眼からは涙が流れている。

 姫乃は言葉が出なかった。

 しかし、


「ふ〜ん。そんな事なんだ。」

「えっ!?」

「・・・灯里?」


 光と姫乃が灯里を見る。

 灯里は腕を組んで胸を張っている。


「だって、健流がヒメノを好きな事くらい前からわかってた事じゃない。少なくとも、あたしは自分の気持ちに気がついた時にはもう気がついてたわ。」

「「・・・」」


 灯里の言葉に二人は無言になった。


「で、ヒカリはそんな事で諦めちゃうの?」

「そんな・・・事って・・・」

「健流がヒメノを好きって事に、あたしが諦めなきゃいけない理由があるの?」

「!?」

「・・・」


 灯里の言葉に、今度は光が驚愕する。

 姫乃は無言だ。


「あたしは逃げも隠れもしない!欲しいものは真っ向から奪い取る!誰が相手だろうがね!それがヒメノでも・・・ヒカリ!あんたでもよ!!」


 灯里はビシッと光に指をさした。


「ヒカリ!あんたの健流への思いはそんなもんなの!?あたしは違う!諦めるなんてありえない!ちょっと天秤が傾いたからって何よ!そんな事で友達を殺そうとするの?それで健流に顔向け出来るの!?」

「うるさい・・・」


 灯里の言葉に光は震えながら返した。


「うるさい、うるさい!うるさい!!私の気持ちはそんな軽いものじゃない!!!」


 それを聞いて灯里はにやりと笑う。


「なんだ、言い返せるじゃないの。だったらかかってきなさいヒカリ!こっからは乙女の勝負よ!!殺し合いなんかじゃない!!そんな簡単に逃がさない!!あんたが諦めるかどうか!これはそういう勝負よ!!」

「灯里・・・そうね。そうだわ。光!私は健流を絶対に譲らない!それはあなたでもよ!!灯里!!あんたもね!!」


 姫乃は身構えた。

 それは、灯里と共闘すようなものではなく、灯里までも相手取るような構えだった。


「ふん!ヒメノ!負けないわよ!こっからは全員敵よ!まとめてかかってこい!!」


 灯里も抜刀した。

 姫乃と同じく、姫乃と光を相手取る姿勢を見せる。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!負けてたまるか!私が一番健流を好きなんだ!!!!来なさい!黒夜!白夜!」


 光は杖を構えた。

 傍らには二匹の大きな狼。

 三人は三角形を描きお互いに力を高める!


 乙女たち三人のバトルロワイヤルが始まった。


 光が魔法を放つと、飛び退った姫乃に灯里が刃を振るう。

 姫乃は灯里と光を諸共に爆発に巻き込む。

 灯里はそれを躱し、今度は光に刃を振るう。

 

 障壁で不防いだ光は、水の矢を生み出し姫乃と灯里に飛ばした。

 姫乃はそれを土の壁で防ぎ、灯里は切り捨てる。

 そこに狼の追撃!

 しかし、灯里は二匹を蹴り飛ばした。

 姫乃は灯里の隙を見て、風の弾丸を飛ばした。


 灯里はそれを躱しながら光の方向へ移動する。

 狼は光を守ろうと跳ね起き灯里の方へ。


 目まぐるしく動く状況。


 光の心の中にある黒いモヤは段々と薄れていく。


 不純物はいらない。

 

 純粋な健流への気持ちが勝敗を分ける戦い。


 誰もが真剣に、そして鮮烈に。


 光の目の濁りは既に無い。

 ライバル相手に賢明に食らいついていく。


 炎が飛び交い、刃が振るわれ、氷が踊り、風が吹き荒れ、粉塵が舞う。


 ライバル同士の戦いは激化していくのだった。

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