第32話 嵐再び(2)

「ふ〜ん・・・あなた中々鋭いじゃない。」


 姫乃はニヤリと笑ってそう言った。

 その顔は、学校では見せていない顔だった。


「・・・それが素ね。」


 灯里は一発で看破する。


「御名答。」

「まぁ、良いわ。別にそんなのを言いふらす趣味も無ければ、気にする必要も無いもの。でも・・・本題よ。あんた健流とどういう関係?」

「相棒、よ。」

「お、おい!姫乃!」


 健流は思わず口を出す。


「健流は黙ってて。」


 しかし、そんな健流を目で制し、そのまま灯里に話し続ける姫乃。

 その様子に、灯里は目を丸くする。


「健流・・・姫乃・・・ふ〜ん。やっぱり仲良いじゃない。それに相棒って?」

「ええ、仲は良いと思うわ。相棒ってのは・・・仕事柄の、ね。」

「仕事?」

「健流と同じ、警備員のアルバイトをしてるのよ。その相棒。」

「・・・警備員?あなたが?」

「あら、弱そうに見えるかしら?」

「・・・いいえ。前にも言ったけど、あんたは強いわ。多分ね。」

「そういう事。こう見えて、健流よりも強いのよ?おそらくあなたよりも、ね。」

「・・・言うわね。面と向かってそんな事言われたのは久しぶりだわ。」


 健流は空を仰いだ。


「(駄目だ・・・なんかしんねーけど、姫乃ムキになってやがる・・・。灯里も引くような性格してねぇし・・・どうなるんだコレ?)」


 そんな健流を尻目に、話はどんどん進む。


「で、結局健流と付き合ってるの?」

「それはさっき健流も言ったけど、違うわ。私達に男女の付き合いは無い。でも、仲が良いのは確かよ。ずっと一緒にいても苦にならないくらいにね。」


 それを聞いて、灯里は眉をピクつかせた。


「・・・喧嘩売ってる?」

「(なんでそうなるんだ!?ただ仲が良いって言っただけじゃねーか!?)」


 健流にはわからない。

 女心など姐さんも教えてくれなかったのだ。

 兄貴に至っては、そもそも女心がまったく理解出来ない人種で、いつも姐さんにシメられているところしか見せていない。

 結構似たもの同士の健流と兄貴であった。


 しかし、姫乃と灯里の話は続く。


「あら?あなたは好きな人がいるって言ってなかったかしら?」

「それとこれとは別。こいつは・・・仲が良いわけじゃないけど、付き合いは長い。だから、ポッと出の奴が、私よりも仲が良いとかほざいてるのは納得できない。」

「(灯里もめちゃくちゃ喧嘩腰じゃねーか!どうなってんだ!?)」


 このまま行けば流血沙汰になるのでは。

 健流はそんな風に考え始めた。


「あらあら、あなたの納得がいるのかしら?のあなたに?」

「・・・あんた・・・」


 二人の体から殺気まじりの空気が流れ始める。


「(おいおいおい!こいつらなんでこんなに険悪になってんだ!やべぇ!)」


 健流は二人の間に割って入った。


「待て待て待て!なんか知らんけど、ここ学校だぞ!?これ以上はやめろ!姫乃は自分のキャラ考えろ!灯里も部活に迷惑かかるぞ!どっちも仲良しで良いじゃねーか!」

「「良くない!!」」

「うおっ!?」


 二人はじろりと健流を見てそう叫んだ後、怯んだ健流を無言で見つめる。

 健流は、ごくりと唾を飲み、そんな二人を見ていた。


 すると、姫乃はため息をつき、空気を弛緩させる。


「・・・まぁ、良いわ。とにかく、健流と仲が良いのは本当。でも、それを周りに言うつもりは今の所は無いわ。今の所はね。その辺り配慮してくれると助かるわ。」


 それを聞いた灯里は、少し考えた後、頷いた。


「私も、ちょっとムキになり過ぎた。でも、もしこいつに悪意を持って近づいたんなら許さない。こいつは女に慣れてないから、あんたみたいな綺麗な子にはころっと騙されるだろうから。」

「それは考えすぎよ。私が健流に危害を加えるのは絶対に無いわ。・・・女の話は同意するけどね。確かに騙されやすそうだわ。」

「・・・おい。矛先がいつのまにか俺になってんぞ。俺はそんな簡単に騙されねぇ。」

「「それは無い」」

「おい!なんでそんなとこだけ息ぴったりなんだよ!?」


 健流が情けない顔をして叫ぶと、ようやく二人に笑顔が見えた。


「まあ、いいわ。これからよろしくヒメノ。あんた面白いわ。そのうち雌雄を決しましょう。」

「ええ、言っておくけど、私は強いわよ?楽しみにしておくわね。」


 そうして、握手をする二人。


「(結局なんだったんだ?どうなったんだこれ?)」


 ただただ混乱する健流であった。

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