第15話 異能調査(2)

『それでは大和くん。まずは、普段の動きを見せて貰えるかな。』


 健流は現在、訓練場の中央に立っている。

 目の前には人形が数体立っていた。


『その人形は、一般的な軍人程度の力を持っている。別に壊しても問題ないよ。存分にやってくれたまえ。』


 スピーカーから、エレン博士の声が響いている。

 そして、言葉が終わった瞬間、一体の人形が動き出した。


 人形は両手を両拳を目の高さまであげている。

 一番近い構えは、ムエタイだろうか。

 健流は腰を落し、半身に構える。


 じりじりと距離を詰める健流。

 人形の間合いに入ると、人形は右足で前蹴りを放って来た。

 健流はそれをタックル気味に躱しながら前に詰め、人形の懐に入り込む。


 人形はすぐに肘を落して迎撃しようとしたが、健流はお構いなしにその肘を背中で受け止めた。


「ぐっ・・・せぁっ!!」

 

 健流は背中の痛みに顔を顰めつつも、そのまま人形の水月に突きを打つ。

 突きがもろに入り、人形は前かがみになった。


「おらぁっ!!」


 健流は人形の顔面を掴み、飛び膝蹴りを放った。

 人形の顔面に膝が入ると、そのまま人形は沈んだ。


「ふぅ・・・」

『・・・驚いたね。まだ異能を使っていないのに、ただの高校生が軍人以上に戦えるとは・・・』

「あ〜・・・こうみえて、いくつか修羅場はくぐってるからな。」

『ふむ・・・それでは、今度は、3体同時で行ってみようか。』

「ああ!かかって来やがれ!」


 人形が一斉に健流に襲いかかった。


「はぁ・・・はぁ・・・あ〜・・・きっちぃ・・・」

 

 10分後、立っていたのは健流だけだ。

 しかし、健流の息はかなり洗い。


『なるほど。よくわかったよ。それでは、10分後、今度は同数を異能を使って戦ってくれたまえ。』


 博士の声が響く。


「あ〜・・・それはいいんだが・・・異能ってどうやって使うんだ?」

『・・・なんだって?』


 博士が訝しげな声をあげた。

 モニタールーム内には、エレン博士、アンジェリカ、クリミア、そして姫乃がいた。


「おい、長よ、どういう事だ?」


 モニターしていた博士がアンジェリカに問う。


「う〜ん・・・ねえ姫乃くん。間違いなく大和くんは異能を使ったんだよね?」

「はい。見ての通り、彼は人形3体と同時に戦うのが限界です。しかし、彼はあの時、10人以上の強化兵と、『雷撃』のミハエルを単独で倒しています。それ以外考えられません。」

「だよね・・・」

「あっそうか。」


 博士が何かに気がついた。


「大和くん、ちょっといいかい?」

『なんすか?』


 スピーカーから健流の声が聞こえる。


「ちょっと聞きたいんだけど、ミハエルとの戦闘の時に、君は何を考えてたんだい?」

『・・・それ、言わなきゃ駄目ですか?』


 健流の声は如何にも嫌そうだった。


「勿論だとも。その時を再現するのが、一番発動しやすいだろうからね。」

『・・・なら・・・聞くのは博士だけにしてくれませんか?』

「何故だい?」

『それは・・・まぁ・・・ちょっと恥ずかしいと言うか・・・言いづらいというか・・・』

「エッチなことかい?」

『ちげーよ!死にかけの時に、んなこと考えるわけねーでしょうが!!』

「なら良いじゃないか。」

「そうだよ大和君。私は、長として、部下の事を知っておく必要がある。」


 そこにアンジェリカが口を出した。

 その表情は、いつもの無表情では無く、少しニヤついている。


「そうですね。私も、作戦立案をし、指揮を取る者として、知っておいた方がいいだろう。」


 そこに、クリミアも乗っかった。


『ぐっ・・・』


 モニターで見る健流の表情は、本当に嫌そうだった。


「それなら!相棒の私は絶対に聞く必要があるわ!」

『お前は絶対に駄目だ!』

「なんでよ!」

『姫乃がいるなら絶対に言わねぇ。』

「む〜っ!!」


 姫乃はモニターの中の健流を睨みつける。

 そこで、博士がニヤリと笑った。


「大和君、今、如月くんは退出させたよ。これなら良いだろう?」

『・・・本当か?』

「本当だとも!証拠を聞かせようか?彼女の今日の下着は薄い水色の物で、好きな下着はピンク色だ!」

「っ!?」


 姫乃は博士を止めようと、口を開けようとした所に、アンジェリカとクリミアが後ろからしがみつき、口に手を当て喋れなくする。


『な、何いってんですか!?』


 健流は、突然の暴露に同様している。


「(う〜!!聞くな!健流!耳塞げ〜!!)」


 姫乃が暴れようとするが、耳元でアンジェリカが、


「ボソッ(我慢だよ姫乃くん。大和くんが何を考えてたか知りたくないのかい?)」

「っ!?」


悪魔の様な囁きをしていた。


 博士の暴露は続く。


「彼女は実は可愛いものが好きで、一番好きな物は猫だ!知ってるかい?彼女は猫に『にゃぁぁぁ!』と話しかけるんだよ?」

「(博士!もうやめて!!)」


 姫乃のライフはもうゼロだった。


『・・・それだけ言って、騒がないなら本当にいないんだな。じゃあ言うよ。ただ、あいつには黙っててくれよ?』

「約束するさ。私は言わないし、長達にも言わせない。(本人が聞いてはいるけどね。)」


 健流は諦めた様な表情をした。


『あの時考えてたのは、ただひたすら姫乃を助ける事だけだった。あんな野郎どもに、頑張ってる姫乃を傷つけられたく無かったし、見た目とかじゃ無くて、自分の身よりも俺を心配する姫乃が、綺麗だと感じた。心まで汚ねぇあいつらに、姫乃に指一本触れさせたくなかった、そんな事ばっかり考えてたんだ。』


 健流の独白。

 姫乃は息を飲む。


『だから、自分がどうなっても、助けてようと思った。それに、姫乃を泣かせたあいつらを許せなかった。姫乃は笑顔の方が似合うんだ。だから・・・気合をいれたんだよ・・・これでいいか?』


 姫乃はその言葉を聞いて嬉しくて泣きそうになった。

 ちゃんと自分の事を考え、大事にしてくれる人がいる事が嬉しくて。


「ふむ・・・雷撃の衝撃と強い想いがトリガーか・・・一つ問いたいのだが良いかな?」

『ここまで来たらな。なんすか?』

「君は如月くんの事が好きなのかね?」


 その質問で健流の動きが止まる。

 そして、姫乃は目を見開いた。


『俺は・・・』


 健流は少し無言になった後、口を動かし始めた。

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