第13話 学校

 昨日は、食事後の洗い物を姫乃がして、それぞれの部屋に別れた。

 朝起きてから、通学の準備を終えた姫乃がチャイムを鳴らす。

 既に起きて朝食の準備をしていた健流は、玄関に鍵を開けに行く。


「おはよう。」

「おはよう。飯、出来てるぞ。」

「ありがとう。お邪魔します。」


 ダイニングに着くと、食事を取る。

 昨日の食材買い出しの時に、100均で皿数枚と、コップも買っておいたので、それは姫乃用となった。


「ごちそう様でした。」

「おう。」


 また、洗い物を姫乃がやり、健流はその間に身支度を済ませる。


「さて、先に行きな。」

「わかったわ。じゃあ、お邪魔しました。今日の帰りはそのまま本部だからね。忘れないでよ。」

「わかってるよ。あっ!ちょっと待て。」

「?何?」

「ほれ。」

「これ・・・」


 健流が姫乃に渡した物、それは、この部屋の合鍵・・・カードキーだった。


「毎回、鍵開けに行くの面倒だからな。持ってろ。」

「・・・いいの?」

「おう。好きに入ってくればいいさ。別に困ることもねぇしな。」

「・・・ありがとう。」

「・・・あ、ああ。良いって事よ。」


 姫乃は笑顔を健流に向ける。

 健流は思わずドギマギしてしまった。


「(こいつの笑顔はやっぱり破壊力あるぜ)」


 エレベーターで、下に行く姫乃を見ながら、そんな事を考える健流。

 未だに、自分の気持ちには気づかないようである。


「さて、俺も準備をしたら出るかな!」


 こうして学校に向かう健流。

 学校に着き、教室に入るなり、背中に衝撃を受けた。


「おっはよ〜!大和!身体はもう大丈夫?あっ!?それより、なんで電話変えてるの!?LINも繋がらないし!!」


 黒瀬光が背中にぶつかって来た。

 健流は苦笑いで答える。


「・・・はよっと。朝からせわしないなお前は。悪いな黒瀬。携帯はちょっと事情があって解約したんだ。これが新しい番号。LINはまだ入れてないから、入れたら登録し直すよ。」

「えっ!?そうだったの!?なんだ〜・・・ブロックされたかと思ったじゃん!」

「しねーよそんな事。」


 LINとは、SNSサービスの一つで、メール情報だけでなく、通話機能や写真表示なんかの機能もあり、学生に限らず、スマートフォンユーザーの御用達だ。


「オース!大和!もう大丈夫なのか?」


 その時、後ろから、大きな声が響く。

 瀬川充だ。


「おっす!ああ、悪いな心配かけて。もう大丈夫だ。」


 瀬川にも携帯電話の件を伝え、席に着く。

 隣にはすまし顔の姫乃がいた。


「ボソッ(相変わらず仲が良いわねあなたたち。黒瀬さんちょっと近すぎじゃない?)」

「ボソッ(あいつは前からあんなんだぞ?普通なんじゃないのか?)」

「そんなわけないでしょ!」

「っ!!お、おい!」

「っ!!」


 少し大きな声を出してしまった姫乃。

 その声で周りが反応して、一斉に二人を見る。

 

「(やべぇ!誤魔化さないと!)あ、ああ、そういう事か!悪いな教えて貰って!わからないところだったんだよ!」

「そ、そうね。ごめんなさいねキツイ言い方をしてしまって。はしたなかったわね。また、わからない公式があれば、遠慮なく聞いて下さいね。お教えしますから。」

「ああ、その時は頼むよ。」


 その声で、周りは、勉強に関わる何かの質問をしたのかと、興味は削がれ視線を戻す。

 たった一人、いぶかしい顔をした黒瀬を残して。


 昼休み。


 健流の席に、いつもの二人が集まる。


「大和!一緒に食べよう!」

「悪い黒瀬と瀬川!ちょっと購買に行ってくる!昼飯買い忘れた!」

「そうなの?・・・なんだったら、あたしの少し食べる?」

「いや、それは悪い・・・」

「大和くん。」


 その時、隣から健流を呼ぶ声が聞こえた。

 隣を見ると、姫乃が健流を見ている。


「何か用か如月。」

「ええ、今購買に行くと聞こえたもので、私もご一緒しようかと。私も今日買ってくるのを忘れてしまいまして。」

「(こいつ・・・なるべく無関係をってのはどうなったんだ!?)・・・ああ、別に良いよ。」

「ありがとうございます。それでは、行きましょう。」


 二人が立ち上がる。

 黒瀬と瀬川は呆然としている。


「如月さん!良かったら俺が案内しようか!?」

「いや、もし、良かったら、俺の弁当のおかずあげるよ!」

「待て、俺が案内する!」


 男子生徒が姫乃に群がる。

 しかし、それを見て姫乃は笑顔で、


「みなさんのお気持ちはとても嬉しいのですが、せっかくなので今日は大和くんとご一緒します。気にかけて下さり、ありがとうございます。」


 そう言って断った。

 

「(うわ・・・なんつー冷てぇ笑顔だ・・・こわっ)」


 健流はそれを見て引き攣る。

 

「さて、大和くん、行きましょう。」

「・・・おう。」


 呆然としている男子生徒をそのままに、二人は廊下を出る。

 その先でも、二人は注目の的だった。


 購買でパンを買い、教室に戻る。

 健流は、人気の無い所を移動中に、思わず、


「ボソッ(おい!無関係てのはどうなってんだ!?)」

「ボソッ(うるさい!いいの!)」

「ボソッ(お前なぁ・・・)」


 健流はそんな姫乃に呆れた顔をしていた。


「(何よ!黒瀬さんのお弁当そんなに食べたかったの!?人の気もしらないでノホホンとしちゃって!)」


 姫乃は、自分の気持ちすらわかっていないのを棚にあげて、そんな事を考えていた。


 教室に戻ると、健流は元の席に、姫乃は反対の端にいた女子グループにお呼ばれして、食事を開始する。


「ねぇ・・・大和。」

「ん?どうした黒瀬?」

「大和って・・・やっぱ、なんでもない・・・」

「?よくからんけど、悩みなら聞くぞ?」

「ん〜ん!いい!それより今日は放課後遊べる!?前に、三人で遊びに行こうって言ってたでしょ?今日瀬川は部活休みなんだってさ!」


 黒瀬と瀬川が健流を見ている。

 健流は、バツが悪そうに、


「・・・いや、今日もバイトだ。」


と言った。


「・・・そっかぁ。」

「悪いな二人共。」

「いや、いいぜ大和!気にするな!バイトなら仕方がない!」

「・・・そうだね。バイトなら仕方がない・・・か。」


 瀬川は笑顔で、黒瀬は残念そうにそう言った。


「まぁ、そのうち、時間取れるだろうし、そん時に遊ぼう。」

「・・・うん!そうだね!絶対だよ!!」


 黒瀬は健流の言葉に笑顔になる。


 しかし、そんな様子をちらりと見ている者がいた。

 姫乃だ。


「(・・・黒瀬さん、健流の事が本当に好きなのね。でも、ごめんなさい。健流は私の相棒なのよ。だからあげられない。)」


 姫乃はそんな決意をしていた。

 自分の本心に気づくのはまだまだ先である。

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