【竜騎士】が大ハズレ職業だと蔑まれ、実家を追われました。だけど古代書物の知識から俺だけは最強職だと知っていた。今更、俺の力が必要だと言われても、遅い。竜王として崇められ竜の国を築いてしまっているので
つくも/九十九弐式
大ハズレ職業を授かり追放
竜騎士。
その職業の事を初めて知ったのは今よりもずっと子供の事だった。屋敷を遊びまわっていた時に、偶然見つけた隠し書庫。そこには多くの古びた書物が保管されていた。
俺は一冊の本を手に取る。最近、文字の読み書きを覚えたばかりだった。なので文字を判読するだけで相当の時間を必要とする。
その本は竜騎士に関する書物だった。俺は竜を操り、大空を飛び回る竜騎士という職業に子供ながらに憧れを覚えた。
そしてその書物には書いてあったのだ。竜騎士こそが最強へと至れる職業であることを。
当然のように、俺は15歳の職業継承の儀の時に、竜騎士の職業を授かる事を夢想するようになった。
そして15歳の誕生日を迎える。そこで俺は望み通り、竜騎士の職業を引き当てるのではあるが――望みとは裏腹に、俺は過酷な扱いを受ける事になった。
◆
「良いか……アトラス。貴様はアルカディア家の嫡男だ。王国に仕える騎士の家系として、相応の職業を授かるのだぞ」
「はい……お父様」
俺――アトラスの肩に、父はそっと手を置いた。父の名はレオンという。今日は15歳の誕生日。職業継承の日だった。
この世界では15歳になった時に天職を授かる儀式が行われる。天職はその後の人生に大きな影響を与える程重要なものであった。一般市民でもそうではあるが、特に俺の家系――アルカディア家は代々王国に仕える、名誉のある騎士の家系だ。
それ故に俺がどんな職業を授かるかは一般市民以上に注目される事になる。
「レオン殿、その子が息子のアトラス君ですかな?」
一人の青年が姿を現した。金髪をし、全身を黄金で出来たような煌びやかな服で身を包んだ、いかにも裕福そうな青年だ。
彼はただの富豪の息子というだけではない。俺達が住んでいる、そしてアルカディア家が仕えている王国イスカンダルの王子。名をルーネスという。
「え、ええ! は、はい! 王子! こやつめが息子のアトラスでありますっ!」
父――レオンはピンと背筋を伸ばして答える。継承の儀には親族だけではない、王族であるルーネス王子までもが参加しているのだ。
それだけ、俺がどんな天職を授かるのか、皆が注目しているのである。
「ふふっ……そうかしこまらんでもよい。少年――アトラス君よ。期待しているぞ。貴公が良い天職を授かり、我が王国イスカンダルの大きな力となってくれる事を」
「は、はいっ!」
俺は王子の登場に、かつてない程の緊張を覚えていた。
「……お兄ちゃん」
閲覧者の群れの中に、一人の少女がいた。人形のように美しい顔立ちをした少女。彼女の名はカレンという。俺の妹ではあるが、本当の妹ではない。
アルカディア家の養子である。事故で亡くなった友人の子供を引き取ってきたのだ。
つまりは義妹であった。とはいえ、俺とカレンは1か月程しか誕生日が違わない。来月にはカレンも職業継承の儀を控えている。故に兄と呼ばれるのは少しこそばゆくもあった。
カレンは俺の事を心配そうな目で見やる。
「心配するな……カレン。俺なら大丈夫だ」
「うん。お兄ちゃんなら大丈夫だよね。今まで一杯剣のお稽古してきたし、お父様の言いつけだってちゃんと守ってきたんだから」
「行ってくるな、カレン」
「うん。頑張ってね。お兄ちゃん。神様もきっとお兄ちゃんの事を頑張りに応えてくれるよ」
カレンの言葉に背中を押されるようにして、俺は高台へと向かった。祭殿の中で最も高い場所に神父がいた。彼が俺に職業を授け、その授かった職業を判別してくれるのだ。
俺は神父の元へ向かう為、一歩、また一歩と階段を昇っていく。
◆
「それではアトラス・アルカディアよ。貴公にこれより職業を授けるとしよう」
神父がそう告げてくる。
「よろしくお願いします……神父様」
「はああああああああああああああああ!」
神父は俺に魔法のような光を放つ。そして俺はその光に包まれた。しばらくして、光は治まった。
俺の中に、確かな力を感じた。俺は無事、天職を授かったのだ。
「無事、天職を授ける事に成功しました」
「神父様、一体、俺はどんな天職を授かったんですか!?」
一生で一度しか授けられない天職。やり直しはできない。一生授かった天職と共にしなければならない。そんな重要な出来事が気にならないはずがなかった。
「うむ……おっしゃってよいですかな?」
「は、はい。勿論です。構いません」
「アトラス殿。そなたが授かった天職は『竜騎士』であります」
「『竜騎士』ですか! やった! 夢にまで見た天職だ!」
俺は大喜びだった。古代書物に書かれていた竜騎士に選ばれた事を。俺は夢にまで見た天職に選ばれた事に歓喜していた。書物には竜騎士が最強職である事が書かれていた。そして、どうやって最強に至ればいいかという事まで。
書物を読み漁っていた俺にはその道筋がくっきりと見えていた。こんなに人生上手くいっていいものなのかと、疑いたくなる程だった。
――だが、歓喜に震えている俺と相反して、神父の顔は暗かったのだ。そしてそれは父――レオンもそうだった。それだけではない、閲覧者が皆、表情を曇らせていた。
父が神父に詰め寄る。
「なんとおっしゃいましたか? 神父殿。息子は。息子のアトラスはどんな職業を授かったのですか?」
「……そ、その、実に申し上げづらいのですが。息子のアトラス殿は『竜騎士』の職業に」
「くっ!」
瞬間、父の顔が鬼のような形相になった。俺は忘れていた。世間一般では『竜騎士』という職業は外れ職業に分類されているという事に。
「アトラス、貴様! 本当に『竜騎士』などという職業を授かったのかっ!」
「は、はい……そうですが」
「この役立たずめっ!」
「ぐはっ!」
俺は父に殴られた。口の中が切れた、血の味がする。
「貴様は、竜騎士などという、糞の役にも立たない職業に選ばれたのかっ! この一族の恥さらしめっ!」
「お、お父様……竜騎士はそんな世間一般で考えられているような外れ職業ではありません。この職業には可能性があるんです……」
「可能性だと! 馬鹿な事を言うなっ!」
「う、嘘ではありません……家にあった古代書物にその事がはっきりと」
「見苦しい嘘だ! 竜騎士など、竜がいなければまともに闘えない、外れ職業ではないかっ! しかもこの世で誰一人として竜を使役した人間などおらんっ! 竜を使役するのはそれほど困難な事! まごうことなき外れ職業ではないかっ!」
ダメだ。父は完全に頭に血が昇っている。確かに竜騎士は成長速度が最低レベルだ。
竜を使役できた場合、強力な力を発揮する事になるが、父が言うように竜を使役した人間は一人たりとも確認されていない。
それ故に竜を使役し、空を飛んだと竜騎士などという存在は完全な空想(フィクション)の産物だとされている。
使役する事の敵わない竜を上手く使役できるという技術(スキル)に、一体どれほどの価値があるであろうか?
父の言っている事はあながち間違いではない。だが、俺は古代書物の知識からその問題をクリアする方法を知っていたのだ。だから俺にとっては決して外れ職業ではなかった。
「お父様、落ち着いてください」
「……ふむ。どうしたのかな? そんなに慌てて」
ルーネス王子が心配そうに聞いてきた。
「ルーネス王子……お恥ずかしい限りです。私のせがれが『竜騎士』などという外れ職業を授かったものですから」
「な、なんだと、『竜騎士』だと! はぁ……がっかりだよ。アルカディア家の世継ぎがこんな外れ職業に選ばれるとは」
ルーネス王子は心底がっかりしている様子だった。
「ル、ルーネス王子、『竜騎士』はそんな外れ職業なんかじゃ!」
「見苦しい言い訳はよせ。貴様のような無能では王国に仕える騎士になどなれん。期待外れだったようだ。さらばだ、アトラス君。君とはもう、二度と顔を合わせる事はないだろう」
ルーネス王子は俺の元を去っていった。
カランカラン。
「え?」
父は腰に携えていた剣を投げつけた。床に剣が転がる。そして父は思ってもいない要求をしてくるのであった。
「せめてもの情けだ。アトラス、貴様、ここで自害せよ」
「な、なんでですか! お父様! ど、どうして俺が死ななきゃなんですか!」
「アルカディア家の家名を穢した罪を償えっ! 今すぐに死を以って償えっ!」
「そ、そんなっ! お父様、酷いですっ! お兄ちゃんが『竜騎士』に選ばれたってだけで、なんで死ななきゃならないんですかっ!」
カレンが泣き叫ぶ。
「黙っておれっ! カレンっ! 家名に泥を塗った愚息には死を以って償わせるしかあるまいっ!」
「そ、そんなっ……酷すぎます」
カレンは投げていた。
俺は転がっている剣を見つめる。夢にまで見た『竜騎士』に選ばれたのに、なんで死ななきゃならないんだ。
どうして、俺がこんな事に。天高く舞い上がるような気分から、俺は地の底に叩きつけられた気分になった。
「うわあああああああああああああああああああああああああああ!」
俺は叫んだ。そして逃げ出した。
「ま、待てっ! この出来損ないめっ! 逃げるなっ!」
死んでたまるか。俺はせっかく夢にまで見た『竜騎士』になれたのに。俺は必死に逃げた。
こうして俺は実家からも、そして王国からも追われる事になったのである。
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