この悪女、私が殺します〜聖女が現れ王子に婚約破棄されましたが、お気に入りの執事と復讐させていただきますね〜
海老島うみ
プロローグ
王国近くの領地で一番栄えるの街の広場。
沢山の観衆が囲む中心には、憲兵が3人ほど。そして、重々しいギロチンに首をはめられた、ボサボサの長い金髪の女性がいた。
「これより、ハワード家長女、イメルダ男爵令嬢を処刑する!」
わぁっと観衆が歓声をあげる。当然だ。
イメルダは麻薬の密売や王都の子どもの誘拐。王子暗殺、王子の婚約者暗殺など、数えきれない悪行を行なったのだ。全て未遂ではあるが。
民衆から付いたイメルダの渾名は、悪魔令嬢。
「キサマら! わたくしにこの様な無礼……許さない。今すぐギロチンから降ろしなさい!!」
粗末な布きれを着せられているイメルダは、叫ぶ。
この処刑直前に及んで、もともと釣り上がった赤い目をさらに釣り上げて、怒鳴り声をあげて周りを恫喝せんとしていた。
全く大した根性だ、と眼鏡をかけ、七三分けの黒髪の真面目そうな風貌の男は呆れた。彼の名前はロイク。
ロイクは着ている燕尾服のボタンを弄りながら、かつて仕えていたお嬢様の変わり果てた姿を見て、口の端を釣り上げる。
「ロイク! わたくしの忠実なる下僕よ! 早くわたくしの無実を証明するのです!」
名前を呼ばれて、ロイクはため息をついた。確かにロイクはかつて彼女の執事だった事もあったが、それはもう過去の事だ。
ロイクは観衆を掻き分け、ギロチンに近づく。憲兵は今回の処刑関係者であるロイクを止める事はない。
観衆は静った。突然現れたロイクを不思議そうに見つめていたからだ。
ギロチンのすぐ側でロイクは足を止めて、イメルダに言い放つ。
「無実の証明? 貴女の王太子暗殺、及び王太子婚約者の暗殺は……この私が密告いたしました」
その言葉を聞いて、イメルダは顔を青くする。
「そんな……お前が裏切るなんて……」
憲兵がギロチンの開閉装置に手をかけた。
ああ、やっとこの悪魔から解放されるのだ。そして、この手で処刑台に送る事ができた。
装置が起動され、ギロチンの刃がイメルダの首めがけて落ちる。
「すべてあの女の所為だわ!! 許さない、復讐してやる!! 復讐してやる!!」
イメルダがそう叫ぶと、彼女の首の手前でギロチンの刃がぴたりと止まった。
「どういう事だ?」
ロイクは焦りながら周りを見渡す。観衆は笑顔で、腕を振り上げているが、声一つ聞こえない。
イメルダの周りを見ても、憲兵が腕を振り下ろしてギロチンの開閉装置を起動させた所。
そこでまるで絵画の様にピクリとも動かず止まっている。
ロイクは目の前で起きた超常現象に驚く。どうやら、時が止まっている様なのだ。
「ついにわたくしの力が覚醒したようね」
イメルダの声がして振り向くと、ギロチンが音もなく壊れる。イメルダは地面に手をついて起き上がると、体を伸ばした。
「イメルダ、貴様、一体何を……」
「お口の聞き方がなっていないわ。お嬢様とお呼びなさい? まぁ、いいでしょう。教えてあげます。ハワード家の暗黒の力。人を惑わす力と時を止める力。そして時を遡り、運命を捻じ曲げる力。わたくしの復讐心に強く共鳴して、覚醒したのよ」
そう言ってイメルダは伸ばした体からまっすぐ立ち、姿勢を正した。
ロイクは長年ハワード家に仕えていたが、その様な力がある事は知らなかった。
「そんな馬鹿な事があるか。もともと騎士の家系であるハワード家は、成り上がりの新しい貴族だ。魔女や聖女の家系ならまだしも……」
「わたくしの家まで侮辱するとは。全く……鞭打ちのお仕置きが必要かしら? なんてね。ハワード家は聖女だとか魔法使いだかの血が少し入っているのよ」
驚くロイクに、イメルダは邪悪な笑みを浮かべる。
「ロイク、もう一度チャンスをあげるわ。今度は、ちゃんとわたくしの忠実な執事でいるのですよ?」
イメルダから黒い煙のようなオーラが出て、ロイクはそのオーラに飲み込まれた――
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