逆光

ずっと大人だった。


3つ上の兄がやんちゃだったからか、ずっと大人だった。


それとも、小学6年生の時、通ってたサッカークラブのキャプテンに選ばれたからか。


それとも、中学1年生から生徒会をやっていたからか。


ずっと大人だった。


周りがやんちゃするのを止めるのは、いつも自分の役目だった。


先生からも「お前は、本当は分かってくれてるんやろ?」なんて言われ、自分から説得するよう頼まれることも珍しくなかった。


思春期特有の悩みを相談されることも多かった。


周りと比べて、人生経験が豊富なわけでも、恋愛経験が豊富なわけでもなかった。


ただ、相談されることが増えるとその分多くの事例を知ることになり、色んな可能性は提示できていた。


そんなことを繰り返しているうちに、我慢することが染みついてしまっていた。


「自分は、周りを止めなくちゃいけない」

「自分は、常に冷静でなければいけない」

「自分は、常にゆとりがないといけない」

「自分は、恋の沼にはまってはいけない」

「自分は、何でも知ってないといけない」


「自分は、大人でないといけない」


気付けば、ずっと大人だった。


人のために、自分を我慢して、黙って多くのことを諦めて。




成人式の日、社会的にも大人になった。


「大人になって何年経つだろう?」

「やっと自分だけじゃなくなる」



それでも、何かが変わることはなく、社会人になっても、同じ様な時間が流れていた。




3年が経った。


すっかり大人になった。


以前よりも、人に合わせられる様になっていた。

愚痴にも付き合える程に。


本当の意味で、大人になった。


正しさは必要ないと知れたから。


相談されても、何も言わない様になった。

そんなこと聞きたくないと言われるから。


むしろ、相談することも増えていた。



そんなことを繰り返しているうちに、口数が多くなった。


「マジ、残業多いよなぁ〜」

「休出も多いよね〜」

「あいつは、いいよなぁ〜」

「あ〜恋したい〜」

「そんなこと言われてもさ〜」




これが大人なんだ。

本当の大人なんだ。



いや、ずっと大人だった。

ずっと大人だったのだ。



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