50 苦戦の後に……
三馬鹿と称される中ボス格3機に加えて虎Dの同僚が駆るテルミナートルを相手にそれぞれヨーコ、総理、カトー、“射手座”のマモルが一騎打ちという形になっていたが状況は膠着状態となっていた。
「ええい! ちょこまかと!!」
「ヒュ~! おっかない婆さんだぜ!!」
これが何度目かすら戦っているカトーすらも分からない。
カトーのミーティアの斬撃を躱したニムリオンはライフルで牽制射撃を行ないながら再び距離を取る。
ニムリオンの攻撃の暇を突いて距離を詰めて斬撃、きっとその一撃も躱されるのだろう。
また同じ事の繰り返し。
敵の弾倉交換のタイミングやミサイルの弾切れを待つカトーであったが、敵であるニムリオンはそもそも大型レイドイベント用の中ボス。
つまりは多数の敵機との交戦を最初から想定されていたわけで、ライフルは小口径弾だが貫通力の高いタイプに大型弾倉を取り付けたもの。ミサイルポッドも加害力よりも長く牽制が行えるように小型ミサイルが大量に収められているもの。
つまりカトーが狙っている機などそうそう無いのだ。
だが、それよりもカトーの内心を焦らせていたのは目の前のニムリオンや他の中ボス格の事ではなく、むしろ雑魚敵の方であった。
3ボスにテルミナートルの相手をそれぞれ単騎が相手取るようになって彼女の大隊は雑魚散らしに専念できるようになっていたハズ。
それなのにむしろレーダーマップに映し出される敵の数は増えている。
火盗改の撃破ペースが敵の出現速度に追い付いていないのだ。
このままではいずれ……。
「ふぅんッ!!」
「おい! この竜波は俺がやる。お前らはミーティアを囲んで叩け!!」
総理の竜波カスタムⅢとガングードbisとの戦いに割って入ってきたジャギュアが崩れ落ちる。
溜め込んでいた改修キットを3個使った事で確実に竜波の性能は向上していた。
現に横からビームソードで斬りかかってきたジャギュアを滑らかな動作でその懐に飛び込んでショートフックを叩き込めば胸部装甲ごとコックピットブロックを破壊する事も容易かった。
だが、その拳がガングードには効かないのだ。
拳が。
脚が。
肘が。
膝が。
竜波カスタムの攻撃のそのことごとくがガングードの装甲によって阻まれて総理はただ無為な時間を過ごす羽目となっていた。
カトーと戦っていたニムリオンがミーティアにも引けを取らない機動性と大量の弾薬で多数の敵機を翻弄するタイプだとするならば、総理が今まさに戦っているガングードbisは多数の敵機の攻撃をものともせずに格闘戦で1機ずつ確実に屠っていくタイプといえるだろう。
ガングードのパイロットは応援に駆けつけてきた味方を追い払って総理を自分1人で片付けるつもりのようである。
だが、それは増上慢というよりもむしろ乗機に対する確かな自信とその方が味方の損害が少なく済むという理性的な判断からくるものである事を総理はその構えから見てとっていた。
鉈のように肉厚のナイフでコンパクトな構えを取ったガングードはまるで一流のナイフ使いがアイスホッケーの選手が着込むようなプロテクターを身に付けたかのようである。
総理も現実世界で国政に関与する政治家であった以上、命を狙われる事も1度や2度ではなかったが、それでもこれほどやり辛い相手と死合った覚えはない。
このゲームの世界においても一流の腕前の者といえば火盗改の面々がそうであるように機動力にものを言わせて敵を翻弄するタイプであるとか、あるいは彼の相棒であるマサムネのように大胆でいながら精密無比の操縦技能の者が多かった。
そういう意味で岩のようにどっしりと構えてじりじりと総理を追いつめてくるようなものなど初めてであったのだ。
もっとも、それができるのも大型イベントの中ボス機体の性能あってこそだろうが、敵パイロットがそれを十分に理解して十全にその性能を発揮しているのに間違いはないだろう。
「ひぃッッッ!!」
「…………」
「ひぇッ!? う、うわあああああぁぁぁぁぁ!!!!」
「…………」
一方、火盗改の本体が激戦を繰り広げる遥か後方、その上空では今も“射手座”が喉が張り裂けんばかりの悲鳴を上げながら迫る敵機の砲弾やミサイルをなんとか掻い潜っていた。
すでに彼が先頭序盤に機動要塞のHuMo用エレベーターを次々と撃ち抜いてみせた時に使っていた機体の全高に匹敵するかのような大型対艦狙撃銃やその予備弾倉は投棄されている。
もはや彼に残された反撃の手は無いに等しいのだが、それでもなんとか生き残れていたのは彼の最大限に強化されたパイロットスキルによるところが大きい。
対する飛燕二式は大空を悠然と飛ぶ巨鳥のようにゆったりと反転。
その機種を“射手座”に向けるとガンポッドによる射撃とともにパイロンに吊るしたミサイルを発射。
「こ、これはぁ……!?」
ガンポッドの火線に追われながら“射手座”も気付いた。
逃げ場が無い。
追い込まれた。
飛燕二式のミサイルはまっすぐに“射手座”を狙って放たれたわけではなく、彼が火線に追われて行くであろう地点に向かって飛んでいたのだ。
「うわあああああッッッ!!!!」
1発の直撃弾に数発の至近弾。
敵のミサイルは直撃せずとも近接信管によって炸裂し、その破片を周囲へとバラ撒いて“射手座”のミーティアを損傷させていたのだ。
コックピット内に響きわたる複数の警報音が彼を焦らせるが、それがあろうとなかろうともはや彼にできる事は残り少ない。
そもそもが戦闘機型の飛燕タイプとは違い、一般的な人型のミーティアではフロートユニットで無理矢理に空を飛んでいるに過ぎないのであり、それが損傷により機能を喪失してしまった今になっては残されたスラスターでなんとか軟着陸を試みるぐらいしかないのである。
もちろん、それを黙って敵が見ているわけもない。
再び反転し、高度を下げ始めたミーティアに対して必殺の意思を込めてガンポッドの照準が合わせられた。
「ッッッ!!!!」
それを遮るかのように“何か”が飛燕二式の前を駆け抜けていった。
これには飛燕二式のパイロットも不意を突かれて驚愕し、折り畳んでいた脚部を展開して急減速。
さらにスラスターを吹かして射撃の邪魔をした“何か”の正体を探ると、高速で大空を駆け抜けていくその姿は単騎のHuMo。
それも飛燕二式と同じく飛燕タイプ。戦闘機型である。
「よう! 妖怪どもの仲間ならオープンチャンネルで聞いてんだろ? コイツは俺がやる。“射手座”君は着陸に専念しろ!!」
「貴方は……!?」
窮地を脱した“射手座”は未だ早鐘を撃ち続ける胸を宥めながらいきなり現れた飛燕タイプを見上げる。
その飛燕もまた通常の飛燕ではなかった。
限界まで強化され、改修キットを使用した飛燕カスタムⅢ。
そしてそのパイロットの声には“射手座”も憶えがあった。
何より火盗改の女性たちを「妖怪」と呼ぶ者などそう多くはない。
「ヒロミチお兄さん!!」
そのプレイヤー、ハンドルネームは「ヒロミチ」。
飛燕を扱う技量においては他に並ぶ者無し。
単騎で爆撃機編隊を護衛する腕と面倒見から愛称は「お兄さん」。
数か月前の大型同人誌即売会において彼は火盗改のメンバーに彼をモデルとした薄い本を出されて以降、彼女たちを妖怪呼ばわりして憚らなかった。
「なんで、貴方がッ!?」
「おっと! 俺だけじゃないぜ? 下を見てみろよ!!」
「下……?」
「なんならレーダー画面でもいい」
ゆっくりと降下し続ける“射手座”の頭上で2機の飛燕タイプはドッグファイトを開始している。
だというのに“射手座”は一度、下を見てからは視線を頭上に向ける事ができなかった。
無数の、本当に数えきれないくらいの青白い光がまっすぐ一直線に赤茶けた大地の上を走っていたのだ。
どこへと?
当然、機動要塞アイゼンブルクへと。
どこから?
当然、中立都市サンセットから。
「……援軍?」
(あとがき)
本年中はご愛顧いただきまして誠にありがとうございました。
来年もまた本作をよろしくお願いいたします。
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