48 NPCにも一分の魂
「うわあああああぁぁぁぁぁッ!!!!」
「脱出しなさい!! マモル君!?」
「誰か!! 長官の援護に!!」
「敵が増えている。皆、釘付けにされちゃってるのよ!!」
多勢に無勢の状況で上手く戦い続けていた火盗改であったが、テルミナートルと中ボス格の敵の出現によって徐々に劣勢に追い込まれていく。
テルミナートルのビームやらミサイルによる制圧射撃によりミーティアたちは回避に専念せざるを得なくなり、それまで次々と要塞が出てくる雑魚を蹴散らしていたのが、それができなくなり敵が少しずつ増えていく状況。
もちろん火盗改の正規メンバーたちはたとえ劣勢の状況にあっても泣き言の一つも言わないが、ユーザー補助AIである“
通信チャンネルに乗って幼い少年の悲壮な叫び声が響き渡る。
また同じように大隊長であるカトーのミーティアの上げる青白い噴炎が彼女たちを焦らせていた。
カトー機の噴煙は目まぐるしく動き回っているというのにだいぶ小さい。
それほどの距離があるというのに単身で中ボス格の敵と戦っているカトーの元に誰も行けないのだ。
「…………」
一方、それらの通信はヨーコたちの元へも入っていた。
ミラージュのコックピットでヨーコは固く操縦桿を握り、溜め息とも深呼吸ともつかない深い息を幾度となくしている。
やがて意を決したように口を開いて出た言葉は謝罪であった。
「……悪い」
「なんじゃ?」
「やっぱり私はハイエナなんだなって」
火盗改本体を包囲する敵機の側面を突く形で駆け抜けていくミラージュと随伴する総理たち。
接敵の時間は近いというのにヨーコの言葉には深い迷いが見られた。
「カトーさんは優先順位を間違えるなって言うかもしれない。分かるよ。アグを助け出す事が私にとって一番の優先事項だって事は……」
「うむ」
「でもさ。私は意地汚いハイエナだからかな? カトーさんたちの命を引き替えにしてアグを助けても嬉しくない。カトーさんたちもアグも両方、助けられなきゃ嫌だ」
「うむ」
総理たちにとってはヨーコの言葉を笑う事も、あるいは頭ごなしにアグの救出に集中させる事もできただろう。
そもそもカトーたちも総理もこの世界がゲームのために作られた仮想現実であると知っている。
今も死に物狂いで金切り声で悲鳴を上げながら飛燕タイプの攻撃を躱し続けている“射手座”のマモルですらそれは同様。
機体を撃破され死亡判定を食らったとしても彼女たちはどうせ自分のガレージでリスポーンするのだ。
ヨーコの心配はある意味で余計な事で、滑稽であるとさえいえるだろう。
だが総理は彼女の言葉を真剣に聞いて、しっかりとその言葉に頷いていた。
「だからさ。あのデカブツの相手は私のミラージュじゃないと務まらないと思うんだ……」
「行きなさい」
「え?」
当初の作戦案の放棄を言い出し辛い事のように躊躇いながら切り出したヨーコに対して総理はむしろ即座にその背を押すような言葉を返す。
これには言い出したヨーコの方が呆気に取られてしまうくらい。
「儂もあの婆さんも昔、ヨーコちゃんの仲間たちを救えんかった事が澱のように心のどこかに引っかかっておった。ヨーコちゃんには儂らと同じような思いをして欲しくはないんじゃな。……できれば、あの時の借りを返すために儂らでヨーコちゃんのサポートをしてやりたかったがの」
本来であれば、それはプレイヤーとNPCの立場が逆転していたといえよう。
だが総理というプレイヤーは本心からヨーコという少女が、ヨーコというパーソナリティーを持たされた人工知能が心から笑える事を望んでいたのだ。
「儂と青二才は要塞に取り付いてアグちゃんの救出のための橋頭保でも作っておくよ。虎Dたちはどうするかね?」
「私たちも総理さんに付いていくっス!! 援護くらいはしてみせるっスよ!!」
「何を馬鹿な事を言ってんですか!? そんな機体を持ってきて援護? 貴方が先頭切って突っ込むべきでしょうが!!」
総理とマサムネの機体がミラージュのスカートアーマーに接続していたワイヤーから手を離す。
爆薬によってワイヤーも切り離され、総理の竜波とマサムネの建御名方は山のように巨大な要塞目掛けて自機のスラスターで駆けていく。
さらにクロムネのプリーヴィドに、虎Dがセンチュリオン・ハーゲンの代わりに借りてきた竜波も続く。
虎Dの機体も竜波とはいえ、総理の竜波とはだいぶ外見が異なる物であった。
総理の竜波がβテスト最終日の最終決戦に備えて溜め込んでいた改修キットを使って竜波カスタムⅢとなっているのもそうだが、それだけではない。
虎Dの竜波はセンチュリオン・ハーゲンやプリーヴィドのような既存の機体を改造したものではなく、むしろ逆。
実装前の段階でパイロット次第で本来以上の性能を発揮してしまう事が発覚してしまったためにダウングレードした形で実装された竜波の本来の形。
ゲーム内では竜波の試作機として設定されたその機体のコードネームは“竜”と並び立つとされる存在からあやかって「
そんな機体を持ってきて「後ろから援護する」とはクロムネでなくとも突っ込まざるをえないであろう。
「皆! ありがとう!!」
「礼はアグちゃんと一緒に頼みますよ!!」
「そうじゃの!!」
ただ4機で要塞に突っ込んでいく総理たち4機は見ようによっては風車にロバに跨って突撃する気狂いの老人のようにも思えただろう。
だがヨーコは晴れやかな気持ちで彼らを見送り、そしてフットペダルを踏み込んで転進。
向かうは今も雨霰の如くビームやミサイルを撃ちまくる黒い巨体。
「行くよ!! ミラージュ!!!!」
一方、ミラージュと別れて要塞を目指す4機の元にアイゼンブルクの中ボス格、その最後の1機が舞い降りた。
『貴様ら!! 核兵器を使うとは正気か!! この星には人が住んでいるのだぞ!!』
「五月蠅いッ!! 核、撃たれたくなけりゃ『ヒロシマ』なり『ナガサキ』、『キエフ』とかって名前にしとけや、ヴォケがッッッ!!」
重厚なその機体から飛んできた正論に対して総理が返したのは跳び蹴りであった。
「貴様ッ!! 言うに事欠いて……。俺が人の道を叩き込んでやる!!」
スラスターによるホバー走行の速度がそのまま乗った跳び蹴りを難なく前腕で受け止めて逆に鉈のような肉厚のナイフで反撃を加えてきた機体。
紛れもなく竜波と同じタイプ。
格闘戦機である。
ガングードbis。
原型機は鈍重過ぎて戦術的な柔軟性に欠ける向きがあったものを重装甲と頑健なフレームはそのままに一般的なHuMoと同程度のレベルの機動性にまで引き上げた機体であった。
フレームの頑丈さは総理の竜波もウリとしていたが、その上に乗っかってる装甲は段違い。
その事を虎Dから聞いていながらも総理の相棒であるマサムネは止まらない。
ガングードと対峙する総理を置いてその場を駆け抜けていく。
「ちょ、ちょっと!? 良いんですか!?」
「大丈夫ですよ!」
これにはマサムネと同型のAIであるクロムネも驚愕。
「それよりも貴方。貴方が負けたら私たちは要塞内に残ってるのとそのデブに挟み撃ちにされるんですからね!? 分かってるんですか!!」
「うっさいわ!! 貴様もそれは同じよ!! 貴様らのネタ元は独りで異星人の円盤に突っ込んでって暴れとったんじゃ!! まさか貴様ら2人して橋頭保1つ築けませんでしたじゃ話にならんぞ!!」
ガングードのナイフや拳を躱しながら総理ががなり立てる。
すでに装備していたロケットランチャーなどは投棄済み。
敵の重装甲を前に高速ではあるが小型故に加害力の小さいロケットは無意味と判断したのだろう。
「はん!! 言ってなさい!! ここで負けたら貴方のリアルの家族に苦情のメール送ってやりますからね!!」
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