40 マモル君たち参戦!
「とはいえよ、だいじんさんにマサムネさん並みの戦力となるとここで探すのは難しくないか?」
そりゃあヨーコたちの船団は避難民が乗っているものだけでも50隻以上。
さらに敵が四方八方から攻め寄せてくる事を考えれば兵力はいくらでも欲しいのかもしれないがそうは言っていられない事情もある。
護衛部隊の輸送用に使用しているコルベット艦のHuMo搭載機数は僅かに4機。3隻合わせても12機しかないのだ。
マーカスの陽炎を乗せている大型輸送機にもまだ余裕はあるのだろうが、それでもそんなに大量のHuMoを乗せられるわけではない。
一瞬、捨て駒用にアシモフ・タイプだけを乗せて避難民を乗せていない輸送機を使うのかとも考えたが、捨て駒用輸送機はギリギリまで船団と同道し、いよいよとなったらわざと船団から遅れて敵の注意を引くという使い方を想定していたもの。
今日、私たちがしたように船団と敵の間に出て迎撃するという使い方はできないのだ。
護衛機を乗せた輸送機が船団と同道していた場合、その戦力の有用性は著しく下がる事となるだろう。
やはりコルベット3隻と陽炎用大型輸送機に搭載できる分だけとなれば少数精鋭とならざるをえないのだ。
「はは、少しは味方を信じてやりなよ。基本的には俺と隊長、カミュに爺とマサムネでなんとかなるよ。それでももう少し隙間を埋める手勢が欲しいなってくらいさ」
マーカスは私を笑いながら辺りを見渡してお目当ての者を探しているようだ。
「おっ、いたいた!」
マーカスが視線を向けた先にいたのは子供たちに取り囲まれたカーチャ隊長とカミュ。
サイン攻めも一段落して、子供たちは2人が食事を摂っていないという事を聞いてかそれぞれ自分のお気に入りの物を進めているところだった。
「隊長、こっちのトルティーヤも美味しいよ!」
「おっ、それじゃ1つもらおうかな?」
「ねぇねぇ! カミュ君、喉渇いてない?」
「ん~、さっきの子からもらったジュースがまだ……」
「それより2人とも、お腹がいっぱいになったらカラオケにでも行かない?」
「あっ、ズルいぞ」
「ハハ、それじゃ皆で行こうか?」
いや、マーカスの視線は2人を取り囲む視線のさらに向こうか?
そこにはわいわいがやがやと盛り上がる集団の輪に入れないでいる子供たちがいた。
子供たちとはいっても療養所の施設利用者ではない。
同じ顔、同じ服装の5人の子供。
彼らはマサムネと同じくβ版の頃のユーザー補助AIであり、今はここの職員となっているマモルたちである。
5人はその消極的な性格が災いしてか、手にしたサイン色紙を胸に抱いたまま集団に近寄る事ができずに溜め息をついていた。
「それじゃ、ちょっと行ってくるよ!」
「私も行くよ!」
私は肉ウドンの残りをざっとすすり上げてからジュースのカップを持って歩き出した担当の後に続く。
「やあ! 君たち、サインが欲しいのなら行ってきたらどうだい?」
「あ、マーカスさん……」
5人のマモルたちの背後から声をかけたマーカスの顔に張り付いていたのはメフィストフェレスだってもう少し健全な笑顔を作るだろうというような悪い顔だった。
「あ、いや、でも……」
「僕たちは職員側だし」
「利用者の子供たちみたいにはしゃぐのもどうかなって……」
「それにカーチャ隊長もカミュ君も迷惑じゃないかなって」
「うん……」
マモルたちは一様に上目使いの困り顔を私たちへと向ける。
彼らが私たちには本心を打ち明けてくれるのはマーカスが好感度を稼いでいるからだ。
以前、ハイエナ・プレイヤーからVR療養所を守った戦闘の後もマーカスはミッションも受けずにぷらぷらとしていて、私たちは温泉目当てに何度か療養所を訪れていた。
その時に大量に入手した肥料の使い道としてマモルたちは花壇を作ろうとしていたのだが、そこでマーカスは彼らに手を貸していたのだ。
レンガとセメントで花壇の土台を作って、そこに水はけのために砂利やら砂やらを入れて、その上に肥料を混ぜ込んだ土を敷いてできあがったのは意外と立派な物であった。
もちろん素人仕事の日曜大工レベルの物ではあったが、素人のDIYだと思えば随分と本格的なものであったし、何よりともに汗を流したマモルたちにとっては格別の仕上がりであっただろう。
「温泉に入るには少しくらい疲れていた方が楽しめる」だとか珍しく人助けをしていると思ったが、もしかしてこういう時のためにマモルというNPCの好感度を狙って上げていたのだろうか?
「まあまあ、君たちの言いたい事は分かるよ? でもカーチャ隊長たちは食事を終えたら皆でカラオケに行くみたいだし、そうなったら余計にサイン頼み難くなるんじゃない?」
「あう……」
マモルたちもβ版上がりのAIなのだが、いくらパイロットスキルを鍛えてもその消極的な性格までは治らないらしい。
なにせ彼らはVR療養所の防衛戦の時もそろってHuMoの争奪戦に敗れるくらいなのだ。
そんなマモルたちにとって大音量の演奏と歌声の響き渡るカラオケルーム内でカーチャ隊長たちにサインを頼む事はランク1雷電でホワイトナイトに勝つくらい難しい事だろう。
それでもマンガ好きのマモルにとっては2人のサインは何としても欲しい物であるのか5人は涙目になってマーカスを見上げていた。
「そうだなぁ。俺たちとカーチャ隊長たちは明日も一緒に護衛ミッションなんだけど、君たちも来ないかい? 一緒に戦闘に出るんだ。サイン1枚分の働きはできるだろ?」
「で、でも、HuMoが……」
「あ、ちょっと……」
マモルたちのHuMoが無い。
そんな返事などお見通しとばかりにマーカスは近くを通りかかった職員へと声をかける。
揃いのブルゾンを来た職員。
つまりAIが担当しているNPCではなく、現実世界に肉体を持つ運営チームの1人である。
「あ、どもっス! マーカスさん」
「うぃ! ちょっと聞きたいんだけど、セントリーって何機くらい配備されたん?」
「48機っスね」
「へぇ~。それじゃ、ちょっと悪いんだけど、明日1日だけ5機ほど貸してくんない?」
「ああ、良いっスよ。この時期ならマサムネさんのホワイトナイト1機で十分なくらいっスからね!」
そんな簡単なやりとりでマモル用のセントリー5機の貸与が決まってしまった。
この職員はマサムネのホワイトナイトを頼りにしているようだが、無論、先ほど決まったばかりのマサムネが明日私たちに同行するという事は知らない。
運営用セントリーは各職員へ配備されているらしく、職員は他に貸してくれる者を探しに立ち去り、マモルたちへ振り返ったマーカスはマモルたちへウインクをしてみせる。
「言うまでもないことだが、カーチャ隊長たちはこの世界が仮想現実のものだとは知らない。つまり死んだら終わりだと思っているんだ。そんな彼らに護衛部隊の参加を申し出たら、そりゃもうサインをもらう権利くらいはあると思ってくれるんじゃないか?」
「……はい!」
要するにマーカスは死んだらそこで終わりと思っている隊長たちに、死んでもリスポーンするマモルたちの命をダシに使わせたのである。
「とりあえずランク6が5機追加っと……」
満面の笑みを浮かべて駆け出していくマモルたちの背を見送りながら悪い顔を浮かべた私の担当はほくそ笑んでいた。
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