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何やら廊下が騒がしい。

夕食を早めにたいらげた私は、またもや要らぬ褒


「さぞかし魔力量が多いのでしょう。よくお食べになる聖女様のなんと頼もしいことよ!(感嘆の声)」


をもらい退散し、自室にて心を療養中だ。

黙って部屋を出た私にマリーは腹黒い笑顔で出迎え、お説教をした。


ごめんよ、マリー。これからは遠慮しないでお腹すいたことを白状するから....



トントン。

ノックの後に潔く扉を開け、私にまたとてつもない腹黒スマイルを向けたのはラモンだった。



「聖女様は待つという言葉を知らないのでしょうか?」




******



こちら、ソフィー。ただいま腹黒スマイルの応戦中にて直ちに避難、双方を監視中であります。




「モリス様、聖女様に対してお言葉があまりにもすぎるのではないですか?」



「そんなとんでもない。聖女様を一人聖堂内を歩かせるような侍女に、言われたくはありませんが。」




ラスティーノの血は腹黒スマイルの血なのかしら。二人は終始笑顔を浮かべながら、言葉が全然笑顔になれないようなことを平気で言い合っている。それに、マリーとラモンの様子を見る限り二人は知り合いなのかしら?




「相変わらずモリス様は意地の曲がったお方ですね。もうそろそろ節度をわきまえた大人になられてみてはいかがですか?」



「それならば、マリーあなたもですよ。あなたはいつになっても私の立場をよく理解していないようだ。昔と今では違うことをご確認いただきたいが?」




「あ、あのう...」



「ソフィー様はお待ちください」

「すべての元凶は黙って」



そうですよね。私はお呼びでないですよね。




トントントン。



「今取り込み中だ。しばし待て。」


「神官長代理ツヴァイです。」



二人の腹黒スマイルがすっと消えると何やら襟を正し始める。



「ゴッホん。入れ。」



扉を開けて入ってきたのは、あの食堂で真っ先に助けてくれたあの青年である。相変わらず綺麗な所作と無駄とない動きは見るものを引きつける。



「立て込み中申し訳ございません。しかし、神官長。神聖なる聖女様のお部屋で口論は流石に見逃すわけには参りません。廊下の外にもお二人の声は響いてございました。」



そういうと彼は私の方をそっとみた。

サングラスの下で私の目があたふたしていることなど知らないのだろう、私の無事を確認できて安心したとでもいうような表情を見せないでほしい。



「聖女様、どうか二人をお許しください。私を含めこの3人は幼き頃から付き合いのある馴染みがら、礼儀をわきまえぬ場面が多々あるのです。寛大なご慈悲の元、何とどお許しください。」



イケメンのもったいなすぎる低腰コメントに、申し訳なさで心をさらに痛めている私に向かって、あろうことか先ほどの腹黒スマイル組が目を丸くしている。というか、笑いを堪えて涙目になってきてない?



サングラスを決めたどうみてもエセ聖女にしか見えない女に、こんなに礼を払ってくれているのだ。それは側から見たら滑稽かもしれないが...決してツヴァイ様には非はないのですから....



「もちろんです、神官長代理様。その二人の口論の原因は私でございまして、こちらこそ申し訳」


「とんでもありません!聖女様は何も悪くないのです!この二人の始末は私にお任せください。」


とんでもありません!はこっちなんですけど...見るんじゃなかった。

先ほどの言葉の後には、二人に負けないとびっきりの腹黒スマイルをツヴァイが浮かべていたのだから。





*****





その後、ツヴァイの元から帰ってきた二人はとても塩らしくなっており少し不憫に思った。

聖女お披露目を正式的な場面でとり行おうと段取りをしていたラモンにとって、私の行動は計算外だったらしい。勝手に動かないことを堅く約束させられことなきを得た。



「マリーから大体聞いた。ラスティーノ家の伝書を読んだそうだね。そうなんだ、聖女を証明するには瞳の色が闇よを切り裂くような青空色をしている必要があるんだ。君の瞳の色を魔法で変容させることは不可能ではないが、女神の容姿を神官長である僕が冒涜するのはあまりに心許なくて困っていたんだ。」



月の女神と闇の神び間に聖女が入ってくるくだり、その聖女の瞳は確かに空色と記されていた。



「しかし、その心配は無くなったようだ。」



はぁー


と明らかに呆れたため息をつく二人。


なんなのだ、一体!



「食堂でソフィーの立場は証明された。ソフィー、君は今神官の間でなんと言われているか知っているのかい?」



首を思わず傾げた。



「食堂に降り立つ聖女、慈愛に満ちた天空の光女様と」











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