第十二話 証拠押収

 資料室の中を調べて出てきた証拠をカリルの前に並べていく。

 ミュゼたちに気付かれるまでの、時間との勝負だと全員が認識しているため、黙々と手早く集めていった。

 リィニン・ディアとオルス伯爵の関係を示す証拠はいくつか見つかった。


「魔玉由来の生物の観察記録に偶発的にオルス伯爵騎士団と出くわして観察員が捕まったとの内容があった。オルス伯爵に解放してもらったらしい」

「魔玉の材料の仕入れ先にオルス伯爵の御用商人の商会があったわ。仕入れ値が市場価格の半値ね」

「サンアンクマユにオルス伯爵騎士団の一部を派遣してもらう要望書を見つけたぞー。身分を隠して冒険者として活躍して、ミュゼを副支部長に押し上げる協力をしたらしい」

「リィニン・ディアの情報網を使って諜報活動を行ったみたいだ。指示書と報告書がある」


 膨大なファイルの中から見つけ出しては抜いていく。

 そろそろ証拠としては十分かと思いながら、リオは資料室を見回した。


「こんなに証拠の文書を残しておくなんて、悪事を働いている自覚がないのかな」

「罪の意識などなかろうよ。あやつらは、世間に認められないだけで自らが正義だと思い込んでおる。だから、我の首輪エレッテリの効果が薄いのだ」

「あぁ、他人を害するのは結果論で、正義を遂行するって目的意識が強いんだね」


 迷惑な連中ではあるが、正義を掲げているからこそこれらの証拠も残っていたのだ。

 単純に、騎士団が見張っている拠点に潜入できる者がいると想定していないだけかもしれないが。


「そろそろずらかるぞ。リオ、先導してくれ」


 カリルがリオに声をかけ、壁を指さす。

 潜入時と同じように綱を握り、リオは神剣オボフスを掲げた。

 肩に乗るチュラスが一瞬後ろを振り返る。


「どうかした?」

「後でよい」

「みんな、行くよ」


 声をかけて、リオは壁に向かって走り出す。

 崖壁の中を一直線に走り、リオは空気抵抗を感じて目を細める。

 大きく息を吐きだし、ゆっくりと空気を吸い込みながら、縄が緩まないように手繰り寄せつつ崖から距離を取る。

 後から出てきたシラハやカリルがリオと同じように深呼吸をしながら速度を緩め、崖から距離を取る。空いた空間に崖から出てきたフーラウ達が滑り込んだ。


 長く息を止めて乱れた呼吸を整えながら、リオは周囲を見回す。

 廃坑道の側面の崖だが、入ってきた場所とは少し離れている。周囲に人影はなく、獣もリスらしきものが木から木へと飛び移ったくらいで姿がない。

 静かな森の中、リオ達は無言で片手を上げて二手に分かれる。

 ラーカンル達騎士組が持ち出してきた資料を受け取り、ロシズ子爵領へと走っていく。心配そうな目を向けてくるラーカンルに、リオは心配するなと手を振った。


 残ったのは、リオ、シラハ、チュラス、カリル、フーラウたち冒険者組だ。

 再突入するのに適した場所へ移動しようと、チュラスの案内に従って歩き出す。


「フーラウ、後続の冒険者が到着するのは朝方か?」

「明朝だ。騒ぎになっていれば介入する手はずだが、この分だと隠密行動でケリがつけられそうだな」

「――そうとも言えぬようだ」


 リオの肩の上からチュラスが口を挟む。

 崖を睨んだチュラスの言葉を引き継ぐように、シラハが頷く。


「気付かれた」

「まぁ、捕まえた奴らを転がしていたからな。時間の問題だったが、連中の動きは?」

「中で私たちを探してる」


 シラハは魔力の動きで人の流れを読み取り、報告する。

 カリルは少し考えた後、にやりと笑った。


「資料を持ち出したことも、リオとシラハがいたことも、連中は知るわけだ。焦るだろうなぁ」

「でも、奇襲ができないよ?」


 ただでさえ数の不利があり、さらに奇襲もできないとなるといよいよ勝ち目がなくなる。

 しかし、カリルは余裕の表情だった。


「中を捜索しても見つからないとなれば、当然外を捜索する。でも、こんな時間だ。簡単に人は集まらないだろう。つまり、中の連中を外に出すしかない」

「……中が手薄になる?」

「多少は、な。だが、ミュゼって奴はシラハのファイルが盗まれたことに気付くだろ。そうなれば、神玉や神鏡リィッペリを狙ってくると判断して待ち構えるんじゃないか?」


 カリルの予想に、リオはミュゼの顔を思い出して顔をしかめた。


「そうだね。ミュゼはそうくると思う」


 サンアンクマユでミュゼから投降を呼びかけられたとき、リオはシラハを守る姿勢を見せている。

 シラハが邪霊になる可能性を潰すためにリオが神玉などを狙ってくると予想するのは難しくない。


「奇襲が絶望的ってことでしょ? カリルはなんでそんなに余裕なの?」

「お前なぁ。奇襲ってのはなにも不意を打って斬りかかるだけじゃないんだよ」


 呆れたように肩をすくめて、カリルは崖を拳で叩いた。


「ミュゼは戦力を一か所に集めてくれるんだ。手っ取り早いのは、崩落させる方法。神玉と神鏡リィッペリは、リオが神剣オボフスの透過能力で簡単に掘りだせる。まぁ、掘りだす前にリオが窒息するからこの手は使えないが」

「ダメじゃん……」


 リオの反応を見て、カリルはニヤニヤ笑いながら神剣ヌラを掲げる。


「これ、いたずらするのに最適だよな?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る