3-4 余計なお世話?
本部を飛び出したタクトたちは、とりあえず宿を確保するべくあちこちを歩き回っていたが、どこの宿も予約が入っており、なかなか予約が取れないでいた。聞くところによると、近くメルディナーレで吹奏楽の祭典に出演する奏者が各地域から集まってきているため、大体の宿はどこも受け入れが難しいと返されたのだ。
「そういえばそんな季節だったかしら?」
歩き疲れて近くのカフェで休憩していると、カノンがぼやいた。
「大体の中小楽士団は、これに乗っかって団員を募集するのよ。良い宣伝にもなるし、実力を試す場でもあるし。とは言えこのままだと今日は最悪野宿……」
あるいは本部の研修施設を間借りするしかないかも、と言いかけたとき、大通りから甲高い大声があたりに響いた。
「ひったくりーーーーー!!」
声を聴いたカノンはいきなり立ち上がり、その方に視線を向けた。
「……いた! アレね!」
視線の先に見えたのは 、妙に足の速い人のようなものが、自身の体と同じくらいの大きなカバンを片腕に抱えてまさに大通りへの人混みに紛れて離れていくところだった。
「ちょっといってくる!」
言うが早いか、カノンは
「ほっ!」
とりあえずタクトは支払いを済ませつつティファと共に追いかける。が、その最中に別の何者に追い抜かれ、カノンらに突撃していった。
「くぉらああぁぁぁーーー!! 待たんくぁああーーーい!!」
あまりの大声に先頭の犯人は完全に勢いが削がれ、カノンが犯人のもつカバンに追い付きそうになる。チャンスとばかり手を伸ばしたカノンの後頭部に、鈍い衝撃が走った。
タクトは目撃した。追い付いた何者かの飛び蹴りが、カバンを手にしたカノンに向かって放たれたのを。
飛び蹴りの勢いはそのままひったくり犯にも貫通したが、それが逃亡の後押しとなり犯人は一目散に路地へと消えていった。
よって、その場には倒れ込んだカノンと飛び蹴り犯が大通りに横たわる状況となってしまった。
「痛ったったぁ…… ちょっと、何するのよ!」
カノンはカバンを持っていない手で頭をさすりながら後ろを振り向く。
「ふん! 盗られた荷物を取り返そうとして何が悪いんや!」
ひったくるようにカバンを取られたカノンは、その飛び蹴り犯をまじまじとにらむ。銀髪に淡い青を
一瞬場違いなその女性に見とれたカノンは、その隙に持っていたカバンをひったくられてしまった。
「まあ、肝心の荷物は戻ってきたし、それでチャラにしといたる」
そこでタクトたちが追い付く。が、当の二人はもう臨戦体勢に入りそうだ。急いで二人の間に割って入ろうとすると、女性が走ってきた方向からまた別の人たちが走ってきた。同じ髪の色からこの女性の知り合いだろう。
「ネンディ! 早すぎやって!」
息も絶え絶えに走ってきたその女性は、カノンからカバンをひったくった女性の名前を呼びながら、今にも転びそうな足取りでようやく近くまで来た。
「ああ、取り戻してくれはったんですね。おおきにです。うっかり地図を見てる隙に取られてしもうて」
「ホンマにうっかりしすぎやねん! まったく、なんやうれしがりに横から入られるし、散々やで」
「……行こう。タクト」
カノンはすっと立ち上がり、ズボンに付いた埃を払ってタクトたちを促した。もうひと悶着あると踏んでいたタクトは、カノンの反応にぎょっとしつつも、彼自身ここから離れたかったので言う通りにカノンを追った。
「あ、せっかくやし何かお礼でも……」
「いいえ! もう取られないように気を付けてください!」
「ええねんって。
(……え?)
タクトはその言葉に頭が真っ白になった。
(この人は何を言ってるんだ?)
「タクト! 早く行くよ!」
しかし、タクトはカノンに手を掴まれて早々にその場を後にした。
「ああ、行ってしまわはった…… もう。アカンやんか! あんな言い方したら」
「そんなことより見つかったんかいな。ウチらが泊まる宿」
「今、もう他のメンバーが向かってる所やわ。さ、ウチらも行くで。確か名前が…… あれ?」
「また忘れたんかいな……
ネンディと呼ばれた小柄な少女は、後から追いついたパランと呼んだ女性と共にもと来た道へと歩き始めた。
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