第114話 尋ね人との再会


 レイジは巫女みこの間につながる通路を、誰よりも先に駆けぬける。

(――なんだろう……、この心のざわめきは……。早くこの先にたどり着きたくてしかたないなんて……。まるで誰かに呼ばれてるような、そんな気が……)

 胸騒むなさわぎに似た衝動が、レイジをかす。うまく説明できないが予感がするのだ。この先に久遠レイジが探し求めていたなにかがあると。本当は那由他たちと足並みをそろえて向かうべきなのだが、今のレイジにはそんなことを気にする余裕はなかった。ただ自身の想いに突き動かされるまま、一歩一歩最奥の巫女の間の入り口に近づいていく。

 そしてレイジはとうとう巫女の間の入り口にたどり着き、中へ足を踏み入れた。そこは神秘しんぴ的で威厳いげんある、神殿内部の構造をした広い空間。中央手前には全身重々しいよろいを身にまとった、アーネスト・ウェルベリック。その後方には災禍さいかの魔女である柊森羅ひいらぎしんらと、幻惑の人形師リネット・アンバーの姿が。彼女たち二人は三メートルほどの巨大な水晶のかたまりに手を触れ、なにやら作業をしていた。

「ッ!?」

 水晶に視線を移した瞬間、レイジは時が止まったような感覚が襲った。なぜならば水晶の中には、眠っている一人の少女がいたのだから。

 すでに九年もっているが、彼女のことを見間違えるはずがない。き通った銀色の髪に、触れてしまえば壊れてしまいそうなはかなげな雰囲気を持つ少女。昔は小さなお姫様といったかわいらしい感じであったが、成長することでより一層きれいになり姫という言葉が誰よりも似合う少女に。

 レイジがずっと再会を夢み求め続けた少女が、今目の前にいる。ようやく会えたことで、一度はあきらめた彼女への想いが次々にあふれ出す。九年前彼女とちかいをわしたあの時の光景が鮮明に。ただ彼女の力になってあげたいと願い続けた、小さいころの久遠レイジの想いが再び。

 刀をにぎる手に自然と力が入る。今すぐにでも彼女のもとにたどり着かなければという衝動が、全身をかけめぐるのだ。

 レイジはおさえきれない想いに身を任せ叫んだ。ようやく会えたたずね人の名前を。

「カノン!」

 そしてレイジは疾走を開始。

 カノンへの行く手をはばむは、ずば抜けた力量をほこるアーネスト・ウェルベリック。彼はレイジをとらえた瞬間、剣を抜きかまえた。

 にじみ出る圧倒的強者の重圧が襲うが、レイジは一切スピードを落とさず突っ込む。かつて姫君ひめぎみの剣になりそこなった騎士が、ようやくつかえるべき姫の元にたどり着けたのだ。今度こそ誓いを果たすために、いくら相手が強大であろうと止まるはずがない。これまでの迷いなどかなぐり捨て、レイジはただ突き進む。今度こそカノンの力になるために。

「ハァァァァーッ!」

「クッ!?」

 カノンに対する想いに突き動かされ刀を振るい、アーネストの剣と真っ向からぶつかり合った。火花を散らし大気を震わせながら、刀と剣が幾度となく交差する。互いに一歩も退かず斬り結び、そしてつばぜり合いに。

「ほう、その剣筋けんすじ、以前戦った時とは違うな。なにかしらの心境の変化があったとみた」

「ははは、でしょうね。なんたって今までずっと待たせ続けたお姫様が目の前にいるんですから、張り切らないわけにはいかないでしょう? まあ、そういうことで感動の再開の邪魔だから、そこをどいてもらいますよ! もうこれ以上、カノンを待たせるわけにはいかないんで!」 

 アーネストのするどい質問に、気迫きはくを込めて答えた。

「ふむ、どうやらキミには負けられない事情があるみたいだな。しかしそれはこちらも同じ。今後の革新派のためにも、アポルオンの巫女の力が必要なのだ。ゆえにここを通すわけにはいかない! もしこの先に進みたければこのアーネスト・ウェルベリックを倒してからにしたまえ!」

 アーネストは信念に満ちたまなざしを向け、声高らかに宣言してくる。

「じゃあ、遠慮なく! 行くぞ!」

 レイジはつばぜり合いの状況を解除し、返事とともに刀を振るった。

「フッ、来るがいい!」

 アーネストはレイジの刀を剣で迎え撃ち、はじき返す。

 それを開戦の合図と互いに二撃目の斬撃をくり出そうとするが。

「あら、盛り上がってるところ悪いけど、あたしも混ぜてくれないかしら?」

 そこにアリスの太刀たちが割り込んできた。

 圧倒的質量から繰り出される斬撃が空を切りながら、アーネストへ襲い掛かる。

「まさかキミまでくるとはな、ハァッ」 

 しかしその暴力の塊である一撃は、アーネストの剣の技量によって華麗にさばかれてしまう。ただ重力アビリティを利用したことによる勢いまでは殺せず、アーネストは後方へ押し飛ばされていく。

「もう、レージったら、アタシをおいて先に始めるなんてひどいじゃない」

 アーネストとの距離が開いたのを確認し、アリスはほおに手を当て抗議してきた。

「ははは、わるいな。今ちょうどたずね人にようやく会えて、テンションがやばいんだ。もう、彼女のことで頭がいっぱいでさ」

「ふーん、たずね人ね……。まあ、やる気があることはいいことだわ。相手はあのアーネスト・ウェルベリック。剣をまじえたことで彼の力量はわかってるわよね」

 アリスは巨大な結晶にいるカノンに視線を移し、どこか複雑そうな表情を浮かべた。だがそれもわずかの間で、すぐさま視線を敵であるアーネストに向ける。

「ああ、アーネストさんは相当の使い手だから、オレ一人だと無理だ。アリス、力を貸してくれ」

「フフフ、愚問ね! こんな強者とやり合えるんだから、ことわられても乱入するわ!」

 レイジの隣に並んで、はしゃぎぎみにウィンクしてくるアリス。

「アリス・レイゼンベルト。キミはそちらにつくのか?」

「フフフ、今回はね。だってアタシはあなたたちの依頼を終えたところで、今フリーだもの。だからどんな依頼を受けようが問題ないわよね?」

「フッ、正論だな。では始めるとしようか。名高い黒い双翼そうよくやいばの力、見せてもらうぞ」

 アーネストはレイジたちと戦えることに対し、どこかうれしそうに笑う。そして戦意を膨れ上がらせ、剣を突き付けてきた。

「「上等!」」

 レイジとアリスは彼の宣言に答え、二人で突撃する。今回の騒動の幕をろすために。

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