第96話 十六夜タワーの戦い

 レイジたちは窓ガラスを割り、十六夜タワーの内部へ侵入することに成功する。

 正面をヴァーミリオンたちが強襲したため、敵の目が彼らに集中。その隙にレイジたちは側面から回り込み、ゆきのアビリティで宙へ。そして十六夜タワー三階の窓を突き破り、建物内に突入したのだ。十六夜タワーを守っていた狩猟兵団たちも、まさか空から突入してくるとは予想外だったはず。

 ちなみにここに来るまで相手側の電子の導き手の索敵に引っかからないよう、ゆきにステルス状態にしてもらっていた。おかげでここまですんなり来れたのであった。

「無事、中に潜入できたか。じゃあ、ほのかにエリー、二人だけで相手をかく乱することになるけどいけるよな?」

「はい、倉敷ほのか准尉、全力で与えられた役目を果たしてみせます」

「いただく報酬分、きっちり働かせてもらうっすよ。だから安心して追加のボーナスのことでも考えといて欲しいっす」

 レイジの問いに、二人は頼もしく答える。

 そしてかく乱するためレイジたちよりも先に、一階のエントランスへと向かってくれた。

「二人だけで本当に大丈夫なの? 私たちも少し手伝った方がいいんじゃ」

「いや、二人のウデならいけるさ。今回はかく乱が主な仕事だし、あいつらのアビリティにはもってこいの舞台だ」

 心配そうに二人の通って行った経路を見つめる結月に、問題ないと笑いかける。

「――おや、一階で戦闘音が聞こえてきましたねー!」

 彼女たちが一階に向かってしばらくすると、激しい戦闘音がひびいてきた。

 どうやら狩猟兵団たちと戦闘を開始したらしい。

「二人が頑張ってくれてるうちに、わたしたちも動きましょう! ゆきちゃん、道を作るのは任せましたよー!」

「ふふーんだ、なゆたたちは少しの間だけ、時間を稼いでくれればいいからぁ。その隙にゆきが速攻で片をつけてあげるもん!」

 拳をぐっとにぎり、不敵な笑みを浮かべるゆき。もはや頼もしいかぎりであった。

 そしてレイジたちも彼女たちに続いて階段を降り、一階のエントランスへと向かう。十六夜タワーは十六夜島のシンボルの一つとしてはじない、斬新な構造をしていた。その中でもエントランスは特に開放感あふれる広々とした空間となっており、ある程度立体的な戦闘も可能であった。

「お、二人ともやってるな」

 一階にたどり着くとすでに戦闘が。中で守っていた狩猟兵団たちは現在、二人の少女の奇襲により引っ掻き回されていた。

 まずはエントランスを縦横無尽じゅうおうむじんに疾走する少女、倉敷ほのか。そのスピードはレイジや那由他よりも明らかに速く、もはや目でとらえるのも難しい神速の域。敵側はそうやすやすと彼女に触れることさえ叶わず、神速の舞踏ぶとう翻弄ほんろうされるしかない。そんな彼らにとってマズイのはただ速いだけでなく、そのすれ違いざまにきらめくナイフの閃光。突風が吹いたと思えば、いつの間にか斬撃のあとが。まさにかまいたちにあったかのごとく、斬りきざまれていくのだ。とはいってもここにいるのは上位クラスの狩猟兵団。そこらの中、下位クラスならなすすべもなくナイフの餌食えじきになるだろうが、彼らは違う。ゆえに彼女の動きに対応しようとするのだが、そううまくはいかなかった。なぜならここにいるのは一人だけではないのだから。

 彼らに降りそそぐは精確無慈悲の狩人の矢。その矢はただの矢ではなく、電子の導き手により貫通性能を高められた特注品。もろにくらえば大ダメージをまのがれないほどの威力をほこる死の閃光が、得物を求め飛翔ひしょうする。

 弓を装備し矢をるのは射殺いころしの狩人の異名を持つ、エリー・バーナード。エリーは壁を走りながら標的をさだめ矢を放ち、ほのかの援護を。エリーの動きでおかしいのは、一向に下に落ちようとせず壁を走っていること。まるで壁が彼女にとっての地表だといわんばかりだ。こうなると相手側は非常に手が出しにくい。たとえ跳躍ちょうやくでエリーに攻撃が届いても、彼女は壁を蹴って天井や支柱に再び張り付き、矢を射ってくるのだから。

 結果二人の少女によって、相手側の陣形は見事に崩れていた。

「ゆき、今のうちだ」

「わかってるー。さぁ、さっさと開きやがれぇ!」

 ゆきは一足先にエントランス中央に向かい、改ざんを開始。

 レイジたちもすぐさま彼女の後を追う。ほのかとエリーがかく乱してくれていたおかげで、容易く目的の場所にたどり着くことができたといっていい。

新手あらてか!? 全員、なんとしてでもくい止めろ!」

「させるかよ」

 狩猟兵団たちは新手に気付き、攻撃の矛先をレイジたちへ。

 ゆきの邪魔をさせるわけにはいかないので、レイジたちは武器をかまえ前に出る。

「エリーさん! お願いします!」

「わかってるっすよ」

 ほのかが指示をだすと、狩猟兵団側とレイジたちの間に割り込む形で矢が降りそそいだ。視線を移すとエリーが連射で弓を射ており、彼らの足止めを。

 さすがに相手側は一瞬足がすくみ立ち止まるしかなく、その間にほのかがレイジたちの前へたどり着く。

「あなたたちの相手は私たちです」

 ほのかはナイフをかまえ宣言を。

 どうやらレイジたちの消耗しょうもうをさけるため、かく乱だけでなく足止めもしてくれるらしい。

「開いたよぉ! このまま一気に飛ぶから、全員ゆきの近くに来てぇ!」

 そして道が開けたのか、ゆきが合図を送ってくる。

「でかした。じゃあ、後は任せたぞ、二人とも」

 レイジたちがゆきのすぐそばまでさがった瞬間、座標移動の感覚が襲ってきた。


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