第31話 レイジvs第二世代の少年
刀と大剣が斬り結んでいる音が建物内に響き渡っており、レイジたちの戦いは今だ続いていた。ただ押されているのではなく、
現状後ろに跳び退いたりなど一切せず、レイジはただ単に少年の猛攻を刀で受け流し、すぐさま攻撃に。結果、
「クソッ! いったいどうなってやがるんだ!」
まったく歯が立っていない状況に、少年は悪態をつく。
彼の疑問も当然のこと。アビリティにより上がりまくった筋力ステから繰り出される
「わるいが、もうその太刀筋は見切らせてもらったよ」
さばき反撃しながらも、レイジは答えてやる。
(ほんと、相手の方も運がわるい。よりによってアリスと同タイプの戦闘スタイルなんて)
思い出すのは黒い双翼の
(こういうタイプは見慣れ過ぎてるから、この程度だと刀で防ぐまでもないな)
よってレイジは襲い掛かってくる少年の一撃の軌道を、振りかぶった角度から瞬時に計算。姿勢を低くして確実にかわす。直撃すると大ダメージはまのがれないが、当たらなければどうという事はない。一歩前に踏み出し、レイジは隙だらけの少年の胴体を刀で
だが少年はまだ倒れない。振り上げられ縦に振り下ろされる一撃を、刀を抜いて身体を横にずらし回避。そして即座に反撃するが、そこに少年はおらず空振りに。
聞こえてくるのは窓ガラスが割れる音。どうやら少年は後ろに
レイジもすかさず窓から外に飛んだ。下の状況を確認してみると少年はすでに着地しており、さらに結月がこのビルのすぐ近くまで来ているのが見えた。一応二階からの高さだが、デュエルアバターならまったく問題がない。特にダメージも痛みも受けず、綺麗に着地。
「よっと」
「はぁぁぁぁー!」
着地した瞬間の隙を狙ってか、少年は大剣を振りかぶり特攻。しかしそれを難なくいなす。
「そこッ!」
数度刃を
「……ゼェ、ゼェ……、まさかここまで差があるなんて……」
少年は肩で息をしながら辛そうにつぶやく。
「いや、今回は相手がわるかっただけだ。それ程の腕があるなら、あと少し経験を積めばすぐAランクまでいけるだろうさ」
「ハッ、それはうれしい言葉だねー」
そう薄く笑って、少年は再び大剣を構える。
彼の傷口からは粒子が漏れていたが、次第にそれもふさがっていく。
(向こうの
戦闘用のアバターは破損するほど弱体化し、さらにアバターとのリンクまで弱くなっていく。そしていづれはつながっていられなくなり、現実に戻される強制ログアウトが起こってしまう。
だがこの強制ログアウトを食い止める方法があった。いくらアバターとのリンクが弱くなろうと、意思次第で無理矢理つなぎ止めることができるのだ。その場合精神的疲労は増えてしまうが、強制ログアウトを遅らせることができるのである。そして無理矢理つなぎ止めている間にやるのが、自己修復。戦闘用のアバターの破損箇所を修復し、リンクの状態を回復する。こうすればなんとか戦線に復帰でき、精神力が続く限り強制ログアウトを回避することが可能に。
ただ自己修復は基本、傷をふさぐ応急処置程度。内部の破損データを完全に回復することはかなわず、完全に弱体化とリンクの状態を完治することは不可能なのだ。しかし電子の導き手など改ざんの力を使える者だと、時間はかかるが内部を修復することができるのであった。とはいっても改ざんによる回復はもちろんのこと、自己修復の方も精神的負担が激しくその後の活動に少なからず支障がでてしまうのだが。このデメリットについては演算力が高ければ高いほど精神的負担を軽減でき、修復速度も早かった。なので演算力が高い第二世代の方が、第一世代よりも優位に立ち回れるのである。
(最後は華々しく、
そろそろこの戦いに幕を下ろそうと、レイジは少年の方へと歩み寄っていった。
「――久遠くん、すごい……。あれってまだ、アビリティを使ってないんだよね?」
口元に手を当て、思わず感嘆の言葉をもらしてしまう。それほどまでにレイジの戦いはすごかったのだ。
ゼロアバターや第一世代の者たちを軽々と倒したのもそうだが、脅威的破壊力を持ったあの第二世代の少年までも圧倒。しかもさらに驚くべきことは、おそらく今だレイジはアビリティを使っていないということ。奥の手を一切使わずに、ただデュエルアバターのスペックと自身の技量だけであそこまで戦えていたのだ。
「当然の結果ってやつだぁ。なんたってくおんは狩猟兵団時代、Sランクまで上り詰めた凄腕のデュエルアバター使い。しかもあの有名な黒い双翼の刃の片割れなんだもん。この程度の相手じゃ、話にならないよぉ」
するとゆきがまるで自分のことかのように、得意げに語る。
「――久遠くんも普通の人じゃないって思ってたけど、そんなにもすごかったんだ……」
「ふふん、あいつの場合はゆきやなゆたと違って、戦うことしかできないただの脳筋バカなんだけどねぇ。――まぁ、だけど戦力としてはすごく頼りになるよぉ、くおんは……」
ゆきは前半バカにしたような口調で語っていたが、後半の方は心から褒めている感じだった。
彼女は口だと結構レイジに対してひどいことを言っているようだが、本心ではかなり信頼しているのかもしれない。そんな雰囲気を漂わせているのが感じられた。
「あれ、剣閃の魔女さんって、案外ツンデレさん?」
「あぁん、なんか言ったぁ? ゆづき?」
結月のふと出た感想に、ゆきは殺意じみた声色でたずねてくる。あまりの納得のいかない言葉に、キレる寸前といったふうに。
「――あはは……、なんでもないよ……」
怖いのですぐさま笑って誤魔化すことにする。
そうこうしているうちに、レイジは歩いて少年との距離を詰めていっていた。刀を手に持ったままかまえてはいないが、そこに一切の隙がない。もはやあの少年がいつ突っ込んで来たとしても、レイジはその動きに対処しとどめを刺すはず。
少年からすると彼の一歩が死神のカウントダウンと同じといっても過言ではなく、もうなす術がないのは明白。だが少年はこのままでは終われないと、最後の悪あがきに打って出る。ただそれはレイジにではなく、結月に対して。
「え?」
結月は予想していなかった相手の行動に一瞬判断を遅らせてしまう。
なぜなら少年はレイジの方ではなく、結月の方に大剣を振りかぶりせまってきたのだ。
もうレイジに勝てないのであれば結月を倒し道を開け逃げるか、人質にしてなんとか切り抜けるかという判断にいたったのだろう。デュエルアバターだけあって、結月への距離はみるみるうちに縮められていく。
現状判断を鈍らせたため迎え撃つのは不可能であり、氷の盾を生成するぐらいが精一杯だ。もしこれがさっきの第一世代の男たちならば、今から作る氷の盾でも十分防げたであろう。しかし目の前の少年は、筋力強化した大剣での重い一撃。ゆえに押し切られる可能性が高く、下手すれば一撃受けてしまうかもしれない。
「はぁぁぁぁー!」
「ッ!?」
やられると思った瞬間結月はある異変に、少年の後ろの方を見た。
そこにはレイジが刀を
結月は理解する。おそらくあの刀が鞘から抜かれた瞬間、少年は斬り
「ヤバッ!? クソ! 間に合え!」
そう感じたのは少年も同じだった。結月の方へ突っ込んで来ていたのを、すぐさま方向転換してレイジと向き合う。そうしなければ確実にやられると判断したらしい。なんとかレイジの攻撃を防ごうと、少年は必死に自身の大剣を前に突き出し盾に。確かにあれならいくらレイジが強力な斬撃を放ったとしても 、一撃は耐えられるだろう。
そしてとうとう決着の時。結月はレイジから目を離さず、
「え!? 消えた?」
思わず自分の目を疑う。確かにレイジをずっと見ていたはずなのに、彼がなにかを口にした瞬間見失ってしまったのだ。
少年の方を見ると、今だ大剣を盾にして立っている。彼もまだなにが起こったか、理解していないようであった。
「あーあ、勝負あり。せっかくのゆきの見せ場がなくなっちゃったぁ」
ゆきのどこかつまらなさそうな声が聞こえる。
どうやらもう決着はついてしまったらしい。
「あっ」
後ろの方を見るとレイジが鞘から刀を抜き、すでに抜刀しおえていた。
「――グハッ……、こんなことが……」
少年の方で、なにか重いものが地面に突き刺さる音が。慌てて確認してみると少年の大剣は真っ二つに折れ、刃の方が地面に落ちていた。そして少年は手でつかんでいた折れた大剣を落とし、強制ログアウトのため粒子となって消えていく。
折れた大剣に視線を移すと、まるで
「よし、おわった、おわった。結月、ダメージはなかったか?」
レイジは刀をアイテムストレージにしまい、ぐっと両腕を伸ばしながらたずねてくる。
「――あ、うん、久遠くんのおかげで。――えっと……、とりあえずこれで終わったのよね?」
「ああ、あとはそこにあるメモリースフィアを回収すれば、依頼完了だ」
レイジが指さす先は、さっき少年が強制ログアウトしたところ。
そこへ視線を移すと、手に収まるほどの丸い球体が宙に浮かんでいた。
こうしてようやく結月の初戦闘は、無事おわりを告げたのだ。
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